若者の悩み
一応、世界観は中世ヨーロッパのファンタジーです。
フェアベルゲン王国中心地アレーニウ。
一般的に“王都”と呼ばれている巨大都市。王都とも言われるだけあって軍の本部基地、王宮等、フェアベルゲン王国の中枢を支える中心地になっている。経済の中心でもあり唯一、王国内での奴隷取引が認められている区域でもある。
そして魔法学校も王都に設立している。当然ながら優秀な魔法師を教育するにはそれなりの人口が集中する場所の方が色々と都合が付く。
一般に魔法学校の入学資格には15歳からと年齢基準が設けられている。
しかしこれはあくまで目安の問題であって満15歳以下でもズバ抜けた能力を認められれば入学を許可される事も珍しくない。
要するに才能=金に直結する世界になっている。
「兄ちゃん見ない顔だねぇ。もしかすると受験生かい?」
先月から王都に越してきたが、以前のような国家官僚としての扱いはまったく無く周りからは一般人扱い。
媚び売がなく新鮮でいい。
(これが初対面同士の会話か……悪くないな)
飯をつつきながら店長の質問に答える。この飯屋は低価格の値段の割に味がしっかりしている。
「そうですよ。一応、魔法学校を受験するつもりで王都に先月上京してきたばっかりなんです」
「へぇそうかい、そうかい。でも兄ちゃん今年はちょいとキツイらしいぞ。騎士学校も魔法学校も倍率がすげぇ事になってるってみんな口揃えて言ってるぜ?」
「因みにどれくらいの倍率ですかね?」
「んー……確か騎士学校は三倍くらいだっけか? んでよ魔法学校は先週で九倍超えたらしいぞ」
九倍か、大分多いな。過去最多じゃないのか? 魔法学校の今年出した定員は900人だから暫定受験者数は8100人。俺みたいな当日受付を含めると10000人は超えるんじゃないのか。
良い兆候だ。これで選りすぐりの魔法師が集まってくる。弱い奴ばっかり集まってもつまらんしな。
「まぁ来てしまったからには頑張ってみます。ここの裏メニュー気になりますし、合格して放課後に友達と通いたいので」
「おっ、嬉しいねぇ。そいつは是非とも合格して貰わなきゃいかんなぁ。受かったらうちの店を贔屓になっ!」
「ご馳走様です」と言ってお代を置き席を立つ。
その店は贔屓目なしに美味かった。もしかしたら宮廷料理より旨いかもしれないな。あそこは口を開けば儀式だの礼節だの言ってるから口に運ぶ前に料理が冷め切ってる。
腹に残った満腹感を頼りに店を出た。
✳
魔法学校前まで行き入学必要要項を書かれたパンフレットを貰い眺めながら商店街を歩く。
ぶっちゃけてしまえば、魔法学校の入学試験は明日だ。今日は1日ズレて騎士学校の試験だったな。
「んーなになに、必要な物は……制服と教科書か? ん? 制服と教科書は学校側が用意するのか。大分前に比べて太っ腹になったな……まぁ自費の杖とマントは要らないか」
俺にとって杖とマントは邪魔なお荷物だ。
杖は魔法の安定化をもたらす。
悪いが、杖でサポート出来るレベルの魔法なら、二十歳前に極めた。
マントは詠唱を補助し魔法発動高速化を可能にする。
悪いが、魔法を使う時は無詠唱なので問題ない。
マントはただ動きにくくなるし杖を持ってると片手が塞がるのでどっちも却下だ。金も勿体無い。
勿体無いとはいったが、金銭面に関しては国家官僚名義で大量に引き下ろして、エリファス名義の預金口座に振り込んである。
多分、先十年は金の心配をしないで済むだろう。
学園関係者の配っていたパンフレットを見てみた。魔法学校の指定制服は青のコートスーツ。騎士学校は赤。それぞれ冷静と熱血だっけか、何やら由来があるそうだがどうでもいいな。
そうそう唐突だが俺の容姿だ。昔の15歳の姿にそっくりだが、誰の記憶にも無いのでバレる事はないだろう。
蘇生魔法で伸び過ぎた金髪をうなじの部分で纏めポニーテールにしている。瞳はこの国では陳腐でありふれた濃いブルーアイ。偏差値普通の顔だ。
極めつけに現時点、帰る家が無い。一般の宿舎で1ヶ月近く雨風を凌いでいる。
エリファス=フォード=ベルンハルトは15歳なので一応、世間一般からしてみれば成人している。故に、市民権が施行可能になった。税金が取られる代わりに人権、社会権、などが与えられるのだ。つまり一人の大人としての扱いを受ける事になる。
家は買おうと思えば買える、が必要性を感じていないので先送りにしていた。
「合格祝いに家でも買うか……。あ、すいません、串鳥三本」
ふと立ち寄った露天商のそそる匂いについ財布のヒモが緩んでしまった。
「はーい。串鳥三本ね、1200ユグルだよー」
「ん、お代」
「まいどー、出来立てだぞー」
湯気を立てるそれを受け取って歩き直し、串鳥を一気に貪る。塩味で簡素な味付けだがその方が旨く感じる時もある。
さっきから食ってばっかりだ。成長期だから当然か。若者の悩みってやつかこれも。摂生の必要がないとは何とも羨ましいな。




