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魔法少女は破壊神!?~平和へ導けない世直し旅~  作者: 朝比奈明日未/冬生羚那
一章
10/17

辺境

「あ、見えてきた」


 ずるずると音を立てながら砂しかない砂漠を空が朱く染まるまで歩き、漸く人のいるであろう町が見えてきた。


「やー、魔法っていいねぇ。おかげで疲れも大したことないわ」

「それな。これは旅には必須だわ」


 二人は己の体に魔力を纏わせすったかたかと進んできた。

 道すがら影響力の低そうな魔法をそれぞれの知識の引き出しから取り出し、実践混じりに歩いて来たのだ。

 その知識の中に身体能力の強化、というものがあり、二人はそれを使うことに決めた。

 これは美命がバビューンと空へ跳んだやつだ。

 理由は簡単である。

 美命も燕も元々ただの一般人であり、今に至っては燕は幼女である。

 足場の悪く長い道のりを、何の備えもなく進むのは難しかった。

 早く目的地に着くために、と二人は魔力をうにょうにょとさせて自己流で己の体の強化に踏み切ったのだ。

 おかげで空腹感や喉の渇き、多少の疲れはあれど、夜になる前に目的地である町に辿り着くことが出来た。


 その町は然程大きくもなく、言ってしまえばのどかな田舎だった。

 害獣や魔物避けの柵に、畑がどれだけか、そして家畜の声があちこちから聞こえてくる。


「田舎、って感じだねぇ」

「ほやね。のどかでいいなぁ」


 町のすぐそばまで来た二人はのんびりとそんなことを口にする。

 しかし、そんな二人に気が付いた町の住人たちがひそひそと何やら話し合っている。

 そんな住人の姿を見た美命が不思議そうに首を傾げて、何かに気付いたように頷いた。

 そうしてきりっとした、真面目な顔をして住人に向く。


「あの、わたしたち怪しい者じゃないです」

「十分怪しいと思うけど?」

「のくてぇこと言わんの。怪しく見えるのはわかってるから」


 美命とて、自分たちが怪しく見えるのは理解している。

 しかし、一応礼儀とまではいかなくとも言っておかなければ、と思っただけなのだ。

 でなくば、どこからどう見ても怪しいのである。

 不審者だ。

 まず、美命はもしかしたら男に見えるかもしれないが、身体つきはひょろひょろとした頼りないものだし、燕は子供だ。

 腰や手に何か武器を持っているわけでもないのに、砂漠から歩いて来たのだ。

 二人して、戦闘するタイプに見えない。

 一般人にしか見えないのだ。

 それなのに、美命は巨大なミミズの胴体を引き摺り、幼女姿の燕はミミズの頭を抱えているのだ。

 どこからどう見てもおかしい二人組だろう。


 だからこそ、美命は言わずにはいられなかった。

 怪しくないからね!と。

 それをそのまま住人たちが信じるかどうかはわからないが。


 住人たちはそんな美命と燕を横目で見ながら何やら話し合いを続け、そして一人のお爺ちゃんが一歩足を踏み出した。


「お嬢さんたちは砂漠から来たので間違いないかね?」

「はい」

「その、あれだ。そのグレイトサンドワームは……お嬢さんたちが倒したのかね?」

「そうです。襲われたので」

「……そうかい。それでは、ここには何の用で来たのかな?」


 漸く話が進み、美命は簡単に説明をする。

 間違っても神がどうとかは言わない。

 気が付いたら砂漠に居たこと、そして人を目指してこの町に向かって来たこと。

 途中でミミズに襲われたので、倒したこと。

 無一文なので、このミミズがお金になったらいいな、という気持ちで持ってきたことをその場に居る皆に聞こえるようにはきはきと話した。


「なるほどのぉ。ではそのグレイトサンドワームは売ってしまいたい、と言うことで良かったじゃろうか」

「はい」


 お爺ちゃんはチラリと斜め後ろに居る男性へと目を向ける。

 その男性は一つ頷いて美命たちの方へと向かってくる。


「見せてもらってもいいか?」

「はい、どうぞ」


 美命はミミズから手を離し横へずれ、燕は両手で男性へ向かってミミズの頭を差し出す。

 男性の頬がひくりと動いたが、胴体をざっと見回し、頭を受け取り回転させながら目を通す。


「ん、これは綺麗なものだ。皮の損傷も少ないし、丸ごとと変わらん」

「お金になりますか?」

「ああ、……しかし、ここではあまり金自体がないんだが」

「それなら食糧とか、宿屋代とかで換算してもらえたらありがたいです」

「わかった。少し待ってくれ」


 男性はそう言って頭を抱えたまま住人たちの元へと戻り、何やら話し合った後皆が解散していく。

 胴体も運ばれて行き、残されたのはお爺ちゃんと美命と燕だけになった。


「それじゃあ宿屋に案内するぞ。小さな物だが我慢しておくれよ?」

「いえいえ、宜しくお願いします」


 二人はぺこりと頭を下げて、お爺ちゃんの先導の元、町へと足を踏み込んだ。

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