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人ならざる力がバレて世界中に狙われた少年、何故か人類の敵と認定されて大切な人を奪われたので復讐を決意します  作者: 寒い


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〈28話〉意思

「お前、超能力か魔法か知らんが使えるんだろ? どれほどのもんか知らねえから言おうと思わなかったが、力には力で対抗するしかないぞ。この世界は弱肉強食で、理不尽なことも多い。力のない奴はある奴に従うしかないんだよ」


 彼は扉を出る一歩前で振り返り、まっすぐこちらを見据えてそう言ってくる。


「そんなことッ・・・・・・出来ないですよ。だって、あの大臣の周りには銃を持っている護衛が沢山いるんですよ!? 出来るわけないですよ!」

「・・・・・・そうか、なら諦めればいいんじゃないか?」


 彼は自分に興味を失ったのかすぐに視線を外し、外へ出ようとする。


「お前が今何を思っているのか俺には分からねえが、それを解消したいならやり返すしかないんだよ。心優しい善人を殺すってなら俺は勧めねえが・・・・・・あれは性根まで腐り切っているカスみてーな野郎だしな。端から見ていても気持ちがいいもんじゃあない。お前があいつを殺すってなら俺がお前の背中を押してやるさ。幾らでもな」

「・・・・・・名前を、教えてくれませんか?」

「久世だ。まっ、もしやるなら教えてくれよ。微力だが協力してやる」


 そう言って久世さんはここから去っていき、鉄製の扉はゆっくりと閉まっていく。


 復讐。

 久世さんの言ったその言葉が頭に浮かんでは消え、浮かんでは消えてずっと残り続ける。

 あの大臣を殺すと言うことだろうか。

 確かに自分はあの男を憎んでいる。

 交番のあの2人や篠原さんと結城さんを意味もない拷問で苦しめたあげく、殺し、最後には嘲笑った。

 そんなことが赦されていいのか?


 いいはずがない、罪のない人を苦しめて殺すなど赦されてはいけないはずだ。

 でも、だから自分が殺すのか?


「っ! くっそ」


 気が付いたら手が震えていた。

 恐怖からか、孤独感からか、興奮からか、自分は人を殺す覚悟が出来ていないのか。

 今まで人を殺したことなんてない。

 これからもないと思っていた。

 そんなこととは無関係だと。


 けれど、今はそんなことを言っていられない状況まで来ている。

 このままここでずっと待っていても、今度はあの交番の警察官2人が殺される。

 自分が今こうやって考えごとをしている今も、あの2人は苦しんでいる。


 久世さんは言った、自分があの大臣を殺すなら背中を押してやると、協力してやると。

 こんな所でも味方してくれる人がいたという少しの安堵と、簡単に殺しを勧めてくるその倫理観が自分には少し、恐ろしく感じてしまう。


 仮にあの大臣を殺せたとして、その後はどうなるのか。

 多分、殺されるだろう。

 ほとんど抵抗もできずに。


 死ぬことになる。


「・・・・・・それもありかな」


 もう、疲れた。


 意物心ついた頃には既に辛い環境にいた記憶だ。

 恐らく父ではない男の元で、当時唯一の心の支えであった母と共に暮らし、そして彼女に自分の力のせいで拒絶され、バケモノと言われた。

 学校でも力を持って周りを従えている奴がいて、そいつが一番強くて、ここと一緒でそいつに従うか、虐められるか。

 目をつけられた時点で力のない人は負けなんだ。


 山で暮らし始めてからも柚葉さんと千代さんに会うまでは本当に苦しい生活をしていた。

 お金は出来るだけ節約して1日一食で、寒さや孤独感にも耐えた。

 働こうとしても、基本どこに行っても門前払い。

 彼らが悪いわけじゃない。

 自分がその環境にいるから悪いのも分かっている。

 けれど児童養護施設とか人との関わりが多くなる場所に行くのが嫌だった。

 優しさに触れて、大切な人が出来てしまうのが怖かったから・・・・・・。


 だから、作りたくなかったのに・・・・・・嫌われても相手が生きているのならまだマシだったのに・・・・・・。


 ずっと考えていると、眠気が襲ってきて、段々と瞼が重くなりゆっくり視界が狭くなっていく。

 一体いつまで自分はここにいることになるのだろうか。

 そんなことを考えながら、眠りについた。





 何かの気配を感じて、目が覚める。

 近くに久世さんがいて、食料を乗せたトレイを置いてくれていた。


「起こしたか」

「ぁ、いえ」


 寝起きで声が掠れ、変な声が出た。

 そうか、もう1日経ったのか。


「よく眠っていたな。食え」

「はい」


 久世さんがトレイを押してこちらに近づけてくれる。

 それに手を伸ばし、口へ運ぶ。

 もう慣れてしまって作業のような行動になっている。

 ただ生きるために食べる。

 そこには楽しみも嬉しさも味も必要なくなっていた。


「・・・・・・」


 自分が食べている間は久世さんは扉付近で待機していることが多い。

 最初の頃は一回出て扉を閉めて待機していたが、最近は中で待っている。

 なんでなんだろうか?

 そう不思議に思って食べている途中に久世さんをチラチラ見ていると、話しかけてくる。


「決まったか?」

「ぁ、いえ・・・・・・まだです」

「そうか・・・・・・」


 今日の久世さんはどこか調子が悪そうだ。

 いつもなら食事している自分をずっと監視のため眺めていてこちらが見つめ返しても特に微動だにしないし言葉も掛けてこない。

 けれど今日は何故かこちらが見ると視線を外したり、ちょくちょく話しかけてくる。

 なんだ? この違和感は?


「なんか・・・・・・ありましたか?」

「・・・・・・ああ、悪いニュースだ。お前にとっての」

「っ、・・・・・・なんですか?」


 久世さんがばつの悪そうな顔でそんな事をいい、つい強張ってゴクンっと唾を飲み込む。


「ここに捕まっていた2人の警察官が殺されたよ。聞いたぞ、お前の知り合いなんだろ?」

「・・・・・・はい」


 あの交番の2人のことだろうか。

 なんで、何のために、自分が見させられていた訳でもないのに、せめて自分が呼び出されて目の前に連れて行かれて、篠原さんや結城さんの時と同じようになると思っていたのに。

 どうして。


「見せられたよ。彼らはここに俺のような奴らを集めさせれた集会中に殺された。命令に違反したらこうなると言われてな」

「ッ、見せしめのために、そんなことを」


 一体何がしたいんだ、あいつは。

 なぜそんな簡単に人のことを殺せる。


 神がいるなら、すぐさまあいつを殺すべきだ。


 あれの存在を赦していていいのか。


「決めるなら、早い方がいい。あまりもたもたしていると、お前自身が殺されるかもしれないぞ」


 あの男を殺す。

 あれは久世さんから見ても悪人であり、自分から見てもそうだ。

 殺されても仕方ない男だ。

 けれど、自分がいざ殺すとなると、どうしても躊躇ってしまう。手が震えてしまう。


 沢山の大切な人を、助けてくれた人を殺されておきながらまだそんなことを心の底では思っている自分にも腹が立つ。

 けれど、そう簡単に覚悟を決められなかった。


「・・・・・・食い終わったか。俺は戻るぞ」

「はい」


 久世さんがトレイを持ち、外へ出てゆっくりと鉄製の扉が閉まっていく。

 普段ならここでまた1人の時間になり訳だけど今日は違った。

 部屋の外で久世さんの声が聞こえる。

 誰かと話している。


「大臣!? どうして急に」

「神崎憐に会いにきた」

「そ、そうですか。すぐに開けます」


 久世さんの話し相手は、嫌でも頭に残っているあの男の声。

 途中まで閉じていた扉は再び開き、影が伸びてくる。

 入ってきたのは忘れるはずもない男の顔、あの大臣だった。


「神崎憐、お前にいいものを見してやる」


 大臣がそう言うと兵士がこちらへ近づき鎖を外し、手錠に付け替えられ立たされる。


 大臣の声は今まで聞いてきた声より少し高く抑揚がついていて上機嫌なことが分かる。


 嫌な予感がする。

 こいつの機嫌がいい時は、よくないことが起こる。


「ついてこい」


 言われるがまま抵抗出来るはずもなく、拘束されていた部屋を出る。

 その時に久世さんと目が合うが、今まで見たことないような、心配そうな顔をしていた。


 この人もこんな顔するんだな。

 普段は基本真顔だし、そもそもあの部屋の中じゃ薄暗くてちゃんと顔を見れなかった。


 心配してほしくなかったから、少しだけ口角を上げて笑って見せる。

 大丈夫かな。

 ちゃんと笑えたかな。

 最近ずっと笑顔になることなんてなかったから、出来るてるのか不安だ。


 久世さんの顔が目を開けて驚いているように見えたけど、すぐに視線を外し久世さんをその場に、ここから離れていった。


 暫く歩いていると、またあの時と同じような場所を通っていた。

 周りの壁は白く、部屋はガラス張りで廊下から丸見え、廊下の隅っこや各部屋の中には大きな機械が沢山置いてあり、そして人も多い。


 一体どこに向かっているんだろうか。


 そんなことを思っていると大臣が一つの部屋の前で立ち止まり振り返る。


「着いたぞ、神崎憐。この部屋の中にはお前に向けたプレゼントがある」

「ぷれ、ぜんと? どうして急に」

「そろそろ従って貰わないと困るからな。時間をかけすぎた。仲良く行こうじゃないか」


 大臣の言葉に不信感を抱きつつも何か分からない現状、従うしかなかった。


 プシューと音を立てながら扉が開かれていく。


 プレゼント。

 大臣の言った言葉は言い得て妙か、今自分が欲していたものがあった。


 いや、会えたと言う方が正しいか。


「憐君?」


 部屋の先にいたのは柚葉さんだった。

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