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人ならざる力がバレて世界中に狙われた少年、何故か人類の敵と認定されて大切な人を奪われたので復讐を決意します  作者: 寒い


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〈27話〉揺らぐ心

「この狂った世の中を・・・・・・こいつらを、殺してく」


 殺してくれ。

 そう続くはずだった言葉が出る前に、一発の銃声が部屋に響いた。

 篠原さんの憎悪と怒りが込められている声は弱々しくなり、一筋の涙が溢れていた目から急速に光が消えていく。


 その一発を皮切りに周りにいた兵士が一斉に篠原さんと結城さんに向けて銃を連射する。


「ぁ、ぁぁぁ! 篠原さんッ! 結城さんッ!」


 自分のそんな声は大量の銃声の前に掻き消されていく。

 勇気を出して自分を守ってくれた人が、目の前で痛めつけられ、殺される感覚は、今まで感じたことなくて、とても辛いだった。


 また、自分のせいでッ・・・・・・。


「ぅ、くッ、・・・・・・ぁ、ぁぁ」


 銃声が止み、静かになった部屋に自分の声にならない声が響く。

 今日だけで、一体どれだけの涙が流れたんだろうか。

 大切な人を優しくしてくれた人を亡くした悲しみ。

 自分の存在のせいで、力のせいで、何も知らない関係ないそれでも優しくしてくれた彼らを巻き込んでしまった後悔。

 そんな彼らを無慈悲にも拷問のようなことを行われ、殺された憎しみ。


 そして怒り。


 こんなやつの下につく?

 冗談じゃない!

 自分の大切な人を殺した奴に、一ミリたりとも力なんて貸すものかッ!

 この世界に神がいると言うのなら、いずれ必ず奴を罰してくれるはずだ。

 報いは訪れるはずだ。

 そうじゃなきゃおかしい。

 そうじゃなきゃいけない。


 ここで力を使っても、周りの兵士に何も出来ずに殺される。

 だから今は、ただ耐えろ。


「本当に馬鹿だなあこの男は。なぁ神崎憐? お前もそう思うだろ?自分が犯した過ちに女も巻き込んで、2人仲良く拷問させられて、守ることもできず、逆に最後は守られて、実現不可能なことを夢見て愚かに死んでいったんだぞ? あんなものが日本の警察をやっているとは、私は日本の未来が心配で堪らないよ」


 こいつは何を言っている。

 今すぐにでも死にたいのか?

 いや、駄目だ、落ち着け。

 いずれ必ず報いが。


「おいおいそんな睨みつけるなよ。むしろ褒めてもらいたいくらいだ! 私は日本のゴミを片付けたのだから!」


 自分の体が、意思が、勝手に動いた。

 自分の体を取り押さえていた兵士を無意識に力を使い吹き飛ばす。


「うおおなんだ!? がはっ!?」

「何を騒いでッ、!?」


 腕を動かしたり振りかざしたりせずに物体を操れたのはこれが初めてだった。


 そんなことはどうでもいい。


 立ち上がると同時に大臣の方へ走り出す。

 上手く足腰に力が入らない、けれど立てる。

 立って前に足を出せ。


 ただ無意識に、突発的に、自分の中の何かがキレた。

 あいつだけは、許してはおけない。


「と、止めろ!! 速く撃て! 撃てええええ!」

「ふざけるんじゃないぞ! 大切な実験対象だ! 殺すんじゃないぞ! 足を狙うんだ!」


 大臣の言葉に兵士達が咄嗟に銃を構えて自分に照準を合わせると、ずっと静かだった博士が叫んでいる。


 関係ない。

 篠原さんを侮辱したあいつを、ただ殺したい。


 腕を突き出す、イメージするのは大臣の首を絞める!


「ぐうっぐうおぉ!? はや、くっ、う、ってええええ!」


 大臣の体少し浮き、苦しそうな表情を浮かべながらもう一度命令を下すと、銃弾が放たれ、自分の足を、腕を貫き、力が抜けて勢いよく前のめりに顔面から倒れていく。


「拘束しろ!」


 思いっきり頭を地面にぶつけたからか、身体の疲労からか、それとも短い間に感情がグチャ混ぜになって疲れたのか、もしくはその全てか、急速に意識が遠のいていく。


「がはっ、かはっ、ゲホッ! くっそ、おい! ガキを戻しておけ!」

「はッ!」

「神崎憐・・・・・・私に手を出したことを後悔させてやる。待ってろよ、バケモノめッ」


 段々と薄れゆく意識の中で、そんな会話が聞こえた。





「はっ! はっ、はっ、はぁ・・・・・・ぐっ!? くっそ」


 体が重い、全身がだるい。けれど、それが気にならないほど足や腕が痛い。

 なんだ? 包帯? なんで?

 包帯は一部が赤く染まっていて相当の出血量だったことが分かる。


 ・・・・・・意識が落ちる前のことがあまり記憶にない。

 確か交番の警察官2人が居て・・・・・・拷問を、受けていて、そして結城さんと篠原さんが2ヶ月前から・・・・・・それから、なんだったっけ。


 結城さんと篠原さんが・・・・・・。


「うっぷ、ぐ、おええ! ゲホッ! ごほっ!」


 銃弾の雨に晒され、原型も残っていなかった2人を思い出し、思わず吐いてしまう。

 が、出てくるのは胃酸だけで、喉のがイガイガするだけだった。


 そうだ、あの2人が殺されたんだ、自分のせいで。

 止めることも、抵抗することも、出来なくて。

 なのに、吐いて。

 ああ、何をしてんだ。自分は。

 ごめんんさいごめんなさいごめんなさい自分のせいで、あの人達が・・・・・・。


 このままじゃああの交番の警察官の人達も殺されちゃうかもしれない。

 いや、殺される。

 絶対に殺される。

 また自分のせいで殺されることになる。

 そだけは絶対にダメだ、もうこれ以上・・・・・・助けてくれた人を死なせたくない。


 ・・・・・・もう、あいつに従うしかないのかな。

 それが、一番良い選択なのかもしれない。

 誰も苦しまず、殺されず、そしたら自分も少し心が楽になる。


「おい、飯だ。うっ、吐いてんじゃねえか。くっそ」


 扉が開き、いつもご飯を持ってきてくれている看守の人がいた。 

 ずっと考え事をしていて集中していたからか、人が入ってきていることに気付かなかった。


「ごめんなさい」


 自分は鎖に縛られていてトイレも使えないから排泄はその場でしている。

 もちろんそうなると汚れる、そして毎回それを片付けてくれているのはこの人だ。

 毎回文句は言っているが、それは誰だってそうだ。

 他人の排泄物なんて片付けたくないだろう。

 それでもしっかり丁寧にやってくれている。


 この施設の中で唯一、この人だけは他の人と違ってあいつに縛られすぎていない、人間味がある人な気がしていた。


「はぁ、くっそ、なんで俺がこんな・・・・・・」

「ごめんなさい」

「何回も言うんじゃねえ、気分が悪くなる。黙って食ってろ」

「・・・・・・はい」


 また今日も少し茶色く濁った水と味のない離乳食のような物を食べる。

 すぐ隣では彼が自分のさっき吐いてしまったものを片付けてくれている。


 量は少なく、彼の掃除が終わる前に自分が食べ終わる。


 会話もないまま時間が過ぎていく。

 いつも通り、ここに来てからずっとこんな感じで、流石に慣れてきた。


「どうして・・・・・・こんなところで」

「あ?」


 彼を見ていると、無意識に言葉が出てしまった。

 何故か無性に人と話したい。

 普通の会話がしたかった。


「なんて言った?」

「どうして、あなたはあいつに従ってるんですか?」


 喉が閉まっていて、声が震える。

 ここ最近まともに話せないな。


「仕事だからだ」

「っ、・・・・・・仕事なら、人を殴って、溺れさせて、切って、爪を剥いで、銃で頭を撃てますか?」


 どうして彼にこんな質問をしたのか、自分でも分からない。

 ただもしかしたら、それが普通ではないと、誰かに共感して欲しかったのかも知れない。


「・・・・・・仕事ならな」

「ッ、」


 やっぱりおかしいのは自分なんだろうか。

 仕事なら、人なんて殺しても問題ないんだろうか。


「やられたのか?」 

「・・・・・・助けてくれた人が」

「そうか。そりゃあ・・・・・・残念だったな」

「・・・・・・はい」


 また沈黙が続く。

 暫く経つと、彼は掃除を終えたのか立ち上がり、食事を入れていたトレイを持って外へ出て行こうとする、と、なぜか立ち止まって振り返って自分の目を見て言った。


「お前、超能力か魔法か知らんが使えるんだろ? どれほどのもんか知らねえから言おうと思わなかったが、力には力で対抗するしかないぞ。この世界は弱肉強食で、理不尽なことも多い。力のない奴はある奴に従うしかないんだよ」


 そう言った彼の目は、揺らぐ自分の心を押してくれるように真っ直ぐこちらを見据えていた。

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