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人ならざる力がバレて世界中に狙われた少年、何故か人類の敵と認定されて大切な人を奪われたので復讐を決意します  作者: 寒い


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23/30

〈22話〉前夜

 結城さんと篠原さんと別れてからどれくらい経ったかな。

 まだまだ山から降りられる気配はなく、周りは木に囲まれ道路や街灯以外の人工物は見当たらない。

 ただ空は段々と明るくなってきていて、夜の山の不気味さは無くなった。

 山に広がる壮大な景色を眺めながら一本道を進んでいくが、パトカーを降りてから車とは一度もすれ違っておらず、聞こえるのは山に住む鳥や虫の鳴き声に木の葉が揺れる音、そして自分の足音と息遣いだけ。

 大自然の中にただ一人いると、異常なほどに心が落ち着く。



 あれから数時間経った。

 ちらほらと人工物が見えてきて、木造の一軒家がまばらに建っており見渡す限りに田畑が広がっている。

 太陽はすっかり登りきっていて冬だというのにポカポカとしていて暖かい。

 それとこの時間でも作業している人を何人か見かけた。

 その人達がこちらを見ては怪訝な顔をしていたけど、こんな時間に歩いていたらそんな顔されるのは仕方ないか。


「この辺は駄目かな」


 山を下っていくとそこそこ栄えていそうな住宅街があり、道ゆく人も多かった。

 何の素性も分からない得体の知れない組織に狙われていることを考えると、人が多い場所はあんまり通らないほうがいいかな。


 それに先日ニュースにもなって顔が出ていた訳だし、面倒事は避けたい。

 身を隠すならやっぱり人の気配がない山かな。

 人がいないことも分かっている今まで暮らしてきた山に戻るのが一番いいんだけど、車でだいぶ離れちゃってここが何処か分からなくなっちゃったから戻るのは難しい。


「う〜ん、どこがいいんだろう」


 そんなことを考えて、結城さん達から貰った菓子パンを朝ごはんに食べながら歩いていると、だんだんすれ違う車が多くなってきた。

 大丈夫だとは思うけど、念の為顔を少し俯かせて歩いた。

 たまに車を停めて声を掛けてくれる人がいたけど、バレたくなてくて適当に返事をしてすぐに逃げてしまった。

 多分心配して声を掛けてくれているのに、自分は・・・・・・。


「あ、街だ」 


 遠くの方、ここより低い位置に街が見えた。

 これからの生活用品はあそこで買うことにしよう。


「誰もいないよね・・・・・・・よしっ!」


 周りを何度か確認してから山の方へ向かっていく。

 高い上にほぼ段差がなく石が積まれていて登りにくかったが力を使ってなんとか登る。

 山の中を散策しながら奥へ奥へと入っていく。

 そして人が通った形跡がないかを入念に確認してから拠点を決める。


「ここにしようか」


 ドサっと地面にリュックを置くと砂埃が舞う。


「しばらくの間はここに住もう」



 山に住み始めて数週間。

 スマホは使い物にならないし、食料も無くなってきて所持金も底が見え始めてきた。

 周囲にはスーパーで取ってきたダンボールとまだパチパチと音を立てて燃えている焚き火。

 もう3月だからか昼間は暖かい日も増えてきたが夜はまだ冷え込み、焚き火とダンボールは欠かせない。


「お金を稼ぐ手段もないし、どうしよう・・・・・・」


 何度か街に降りてはバイトとして雇ってくれないかとお店に突撃したが、履歴書とか言うのが必要みたいだし事前に連絡も必要なところも多くて、スマホもお金もない現状。そしてそもそも顔バレが酷く、昼間に街を出歩くのは危険だと判断した。

 いくつか話だけでも聞いてくれた店はあったけど、どこに行っても住所などの話が出てきては色々疑われてすぐに逃げてきた。

 ・・・・・・もう、どうすることも出来なかった。


 それでも生きていくためには食料は必要で、そのためにはお金が必要だった。

 ・・・・・・正直、力を使えば盗むのなんて簡単だろう。

 けれど、それをしてしまってはだめな気がする。

 きっと一回やってしまうと、その楽さにもう戻れなくなる。

 だってそれは犯罪で・・・・・・将来柚葉さんと再会したときに、犯罪を犯した自分と関わっているからって理由で周りを言われるかも知れない。

 いや、確実に言われる!


 人ってのは相手の弱いところを突きたがる。

 だってそうだろ、今まで自分が経験したことだ。

 自分が一番わかっているはずだ。

 絶対に周りの人間は犯罪者になった自分と関わる柚葉さんを貶しめ、非難し、暴言を呟き、あの人を傷つける。

 だから自分は過ちは犯さない。絶対に。


 だからこそ、ここで諦める訳にはいかない。

 なんとかして雇ってくれるところを探して、自分でお金を稼いで、大人になって何としてでもまた柚葉さんに会いにいくっ!

 幸せな未来を夢見て・・・・・・。




「ふぅ〜、やっぱり今日もダメだったか・・・・・・」


 夜も遅く、街灯はまばらにあり街の中だけどところどころ暗く、すれ違う人も殆どいない。

 ふーっと手先が赤くなった両手を口元まで持ってきて息を吹きかける。

 やっぱりまだ夜は寒い、早く山へ戻って焚き火に当たろう。


「ちょっとそこの君!」


 後ろから野太い男の声が聞こえ、ビクッと体が跳ねる。

 振り返るとそこには紺色のジャケットにワイシャツを着てネクタイを着けているまだ若い大柄の男とベテランの雰囲気を醸し出す少し背の低い40歳くらいの男がいた。

 警察だ。


「君、こんな時間になにしてるの?」

「あ、えっと、習い事の帰りです」

「習い事ね・・・・・・リュックの中見してもらっていいかな?」

「は、はい」


 ベテランっぽい人が自分のリュックを受け取り若い警察官に渡し、中身を確認する。


「家はこの近く?」

「・・・・・・この辺です」

「・・・・・・」


 ベテランっぽい警察官がこちらの目をじーっと見つめてきて目を逸らす。

 うっ、緊張するな。

 なんで警察官ってこんなに威圧感あるんだ。

 嘘をついているからか、冬だと言うのに汗が出てくる。

 リュックを見ながら何か二人で話している。


「ちょっと交番まで行こうか。夜も遅いし、パトカーを呼ぶから家まで送るよ」

「え、あ、だ、大丈夫です! 一人で帰れます!」

「そう言う訳にはいかない」

「な、なんでっ、」

「君、習い事の帰りって嘘でしょ? リュック、菓子パンしか入ってないけど何の習い事なの?」

「え、そ、それは・・・・・・」


 やばいやばいこういう時どうすればっ!


「家がこの辺っていうのも嘘っぽいし、交番を話を聴かせてもらうよ」

「はっ・・・・・・はい」


 ああ、だめだ。

 何をしてるんだ自分は。

 ・・・・・・はぁ。




「それで、あんなところで何をしてたの?」

「・・・・・・」


 あのまま交番に連れてこられ、ベテランっぽい警察官と対面で座る。


「まだ中学生くらいでしょ? もう0時回ってるのに、家にも帰らないで・・・・・・親御さんが心配するよ?」

「っ、はい。すいません」

「ふぅ、最近の子は遅くまで遊んでる子が多いけど、君はまた違った事情っぽいし・・・・・・」

「すいません、ちょっといいですか?」

「ん?」


 奥の部屋から若い警察官が顔を出してベテラン警察官を呼び出す。


「すいません。話したいことが」

「ああ、すぐ行くよ・・・・・・君にどんな事情があるか分からないけど、外は冷える。とりあえずはここで温まっておきなさい。ここにはどうせ朝までは彼と私しかいないし、それに疲れただろう。休んでおきなさい」


 そう言ってベテラン警察官は奥の部屋へと入っていく。

 いい人、なんだろうな。

 こちらのことを無理に聞かずに優しくしてくれている。

 ・・・・・・交番の中は夜の外のツーンと肌を刺すような冷たさと違ってポカポカとしていて暖かい。

 ずっとここにいる訳にもいかないな、けれど、今は少し体を温めてさせて・・・・・・。


「〜さん、あの子・・・出ていた・・・もですよ」


 奥の部屋から声が漏れてくる。

 あの若い警察官の声だ。


「見たことが・・・それか。なら無理に・・ようは・・・ないな。本部へ・・・〜それまで・・・待機だ」


 あまり上手くは聞き取れず、すぐに諦めて過ごす。

 数分後、奥の部屋から二人とも出てくる。


「まだ起きていたか。ほら、ココアだ」


 コトンっと今にも溢れそうな量の入ったココアが差し出される。

 白い湯気が揺れていてとても熱そうだ。


「夜は長いぞ」

「ありがとう、ございます」


 あつあつのココアが入ったコップを両手で包み自分の顔を近づけ、ズズズっと少し飲む。

 甘くて美味しい、そして体の中から温まっていく。

 二人は何も聞いてこず、ただそこに居て一緒に飲んでいて、それがまた心地よかった。


 それからしばらく、特に何も話さずにそこに座っていた。

 警察官の二人は奥の部屋に入っては何かをしていて、たまに扉から顔を覗かせて自分の様子を伺ってくる。

 1〜2時間経った時、奥の部屋が少し騒がしくなったけど、数分間ほどでまた静かに戻った。


 そこからさらに時間が経ち、4時になった。

 まだ外は真っ暗で、冷たい風がビューっと吹いている音が聞こえた。


 ガララララっ!

「っ!?」


 勢いよく扉が開かれ、眠りそうにって閉じ掛けていた瞼が開き振り返ると、二人と同じ制服をきた人が二人いて、無言のまま奥の部屋へ入っていく。

 なんだあれ、結城さん達やここの二人に比べて冷たいな。

 っていうか、朝まではここはあの二人しか居ないんじゃ無かったっけ?

 もう交代の時間なのかな?


「〜〜〜っ! 〜〜!!」


 少し奥の部屋が騒がしい。

 何かあったのだろうか。


 ガチャっと扉が開き、先ほどきた男がコップを手に出てくる。

 奥には二人の警察官が居て、後から来たもう一人の男に何か言っている。


「これでも飲んでおけ、少し時間がかかる」


 そう言ってコップを置き、すぐに奥の部屋へと戻って扉を閉める。

 一体なんだったのだろうか。


「水・・・・・・」


 コップの中はさっきと違ってただの水だった。

 少し白く濁っていた、スポーツドリンクみたいな色だ。

 まぁ、少し喉が渇いていたしちょうどいいか。

 ゴクゴクゴクっと飲み干し、喉を潤す。


 「おいしい」


 数分すると、段々眠たくなってきた。

 1日寝てなかったからだろうか普段の眠気よりも強く、瞼は重く、抗うことが出来ずにすぐに眠ったのだった。

次回は12月9日更新予定。明日出来そうなら明日更新します(時間未定)

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