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人ならざる力がバレて世界中に狙われた少年、何故か人類の敵と認定されて大切な人を奪われたので復讐を決意します  作者: 寒い


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〈14話〉力の使い方

 柚葉さんの家を出て山に戻ってから数日。

 服や食べ物を貰ったおかげで今までとは比べ物にならないほどマトモに生活を送れている。

 服だけではまだ少し寒く感じたが、山の方に置いてきた毛布とダンボールに焚き火を焚けば大分マシになることが分かった。

 あとはスマホの問題だ。

 充電が出来ないから節約しないといけない。

 使えなくても問題はないが、定期的に情報は欲しい。

 3日に一回ほど山を降りてはコンビニで暖まりながら情報収集していた時、気になる記事を見つけた。


「鷹村組・・・・・・家宅捜査により一斉検挙」


 多分これ、あの鬼塚って人のいたヤクザかな?

 詳しくわからないけど、内容的にほぼ間違いないと思う。


『SNSで拡散された鷹村組の誘拐動画が初めて投稿された日から数週間の間に急遽鷹村組の事務所への家宅捜査が入り、先日鷹村組の数々の犯罪が摘発されました。うち一つに市長との癒着や犯罪の揉み消しなどの繋がりがあったとして警察は調査を進めています』


 この内容的に鬼塚が所属していたヤクザグループは鷹村組でほとんど確定かな?


「うわぁ、あそこって結構大きい組織だったんだ、約三百人一斉検挙って・・・・・・」


 思っていたよりも規模が大きい組織だ。

 しかもこれでも全員じゃないみたいだし、逃走中の鷹村組の組員を追っている最中らしい。

 自分が寒さで苦戦して死にかけている間に色々起こっていたんだな。


「でも、あの人達が捕まってよかった・・・・・・」


 正直この記事を見つけた瞬間安心した。

 あの時はたまたま逃げられただけだから、また追ってきたらどうしようかと恐怖心があったが少し安心できた。

 山へ篭り始めたのも鬼塚達に見つからないためだったし、でも今さら街に戻れないし、そもそも住める場所がないから山住みは変わらないんだろうな。

 まぁ人がいなくて自分の力を練習するのにバッチリな場所だからすぐに離れることはないけど。



 それからさらに数日後、残り一桁しか充電が残っていないスマホをコンビニに行って情報収集していると、柚葉さんから連絡が来ていた。


『食べ物とかまだ大丈夫? 足りなくなったらすぐ言ってね。あとおばあちゃんが憐君が次いつ来るんだってしつこいから暇があったら来てね』


「まだ2週間くらいしか経ってないけど、もう頼ることになっちゃうか」 


 節約のため一日一食しか食べていないが、それでももうあまり食べ物は残っていない。

 本来なら自分から頼み込まなければならないのに、また気を使わせてしまったな。

 ・・・・・・いや、考え方を変えよう。

 恩返しするにしても、まずは生きぬかなくちゃならない。

 図々しいのは承知で今は甘えさせてもらおう。


「とはいえなんて返せばいいんだろう・・・・・・ありがとうございます。食べ物も少ないので行きたいです。いつ行けばいいですか。っと、これでいいのかな」


『食べ物少ないなら早い方がいいよね! 明日とかどうかな? きついなら今すぐでも大丈夫だよ!』


 一度山に戻らないといけないし、今日は無理だな。

 帰ってきた時に分かったが、自分の住んでいる山と柚葉さんの家までは結構距離があった。

 寄り道せずに歩いて四時間だ。

 めちゃくちゃ遠いわけじゃないが、昼下がりにいけるような距離でもない。

 そんな時間に出発すればまたあの時のようになる。

 出発するなら朝から、つまり明日になるな。


「明日の昼くらいに着くようにしますっと」

『了解! 待ってるね!』

『おばあちゃんも喜んでるよ!』

『豚汁作るって張り切ってる!!』


 送信するとすぐに既読がついて連続で返信が来る。


「あっ!」


 ついにスマホの充電が切れてしまった。

 ただまぁ連絡を取り終わった後だからよかった、後少し遅かったら連絡を返せないまま待たせてしまうことになっていた。


「とりあえず今日は戻って準備するか」


 とはいえ、そんな準備するようなものもないが。

 山へ戻った頃には火が暮れ始めていたので、集めていた焚き火をしよう。

 集めていた木の枝を石で囲い、余っているダンボールを手に持つと、ボッと火がつく。

 すぐに火がついたダンボールを木の枝の中に突っ込んで風を送る。


「よしっもう慣れてきたな」


 最近はいちいち目を閉じなくても火や水を出せる様になってきたし、風も少しずつ操れる様になってきたが、まだ弱い。

 とはいえ、今まではなんとなくやっていたこの力の使い方もここ数日でなんとなく分かってきた。


 この世界には人や動物や植物、生き物である全てに通っていて、そしてこの空間に存在していてずっと漂っている気? のようなものがる。名前が分からないから魔素と呼ぼう。

 その魔素というものは何かは分からないけど、目を瞑り集中すると他の光景が見えた。

 目を閉じているはずなのに、自身に流れる魔素や他の生物や待機中に漂っている魔素が見えた。

 だから魔素の形や動きから、目を閉じていようがそこに何があってどういう動きをしているかが分かった。

 そこの世界は楽しくて、小さい頃はよく目を瞑ってその光景を見ていたっけ。それで気がついたら自分の体に流れている魔素を徐々に操れるようになっていた。


 いつだったか、殆ど記憶もない小さい頃、魔素を体から離して操ることができるようになっていて、その勢いのまま自分の魔素でリモコンだったかな? を覆った。

 そして手を握り腕を動かすと、そのまま飛んでいった。

 本当に掴んでいる訳でもないのに、リモコンが動いた。

 それから自分も成長して、いろんな場所で、いろんな物を魔素で掴んだ。

 次第に目を閉じなくても感覚で出来るようになっていった。


 そしてヤクザに売られて逃げ出して山に辿り着いて、寒くて今にも凍え死にそうで、咄嗟に思いついた。

 ただ操って掴む事しか出来ないのかと。

 目を瞑って魔素を見る。

 そして想像する。癒しの火を。失敗する。もう一度。失敗して、思考を変える。

 自らがよく使っていた台所のガスコンロ、あの火を想像する。成功する。


 恐らくだけど、魔素は想像によって物質を操ったり他の物質に変えることが出来る。

 ただし、それは自分が完璧に想像できる物だけ。

 例えば物を掴む。

 これは普段からやっているから簡単だった。

 次は火、癒しの火なんてものは想像が難しいけど、普段から見て使っていたガスコンロの火で出せるようになって、弱火、中火、強火という感覚を使って威力を調整出来た。

 次は水、水道水の緩やかな水、雨のような一粒一粒の水、川のような穏やかな、時に激しい大量の水の流れ、それを想像したら使える様になった。


 一度使えたあとは感覚を忘れる前にすぐに何度も練習した、いつの間にか倒れていて、気がついたら日を跨いでいることもあった。

 けれど次使うときには体が感覚を覚えたのか、最初に使う頃より速く正確に出せるようになっていき、次第に目を瞑って想像しなくても出せる様になっている。

 こんなに便利なのに、自分以外に使っている人を見たことはない。


 なんでだろうか。

 もしかすると使ってはいけないのかもしれない。

 使うと捕まってしまうとか、悪魔が産まれるとか?

 それならあの人が嫌がっていた理由も分かるし、バケモノと言ったのも自分にじゃなくてこれから来るであろう悪魔に向けて言った言葉だろう!


 ・・・・・・そんなわけないか。

 分かっている。これが特別な力だと。

 調べても何も出てこない。

 似たような話はあってもどれも小説の中、架空の話の中だけだった。

 とはいえ今更これを一切使わないようにすることなんて自分には出来なかった。

 そもそも何故苦労してまで隠さなきゃ行けないのか。

 何度もこの力に助けられてきて誇れるはずの力だと思うのに、この力だけは、絶対に自分を裏切ることはないはずなのに。

 それでも隠してしまう理由が、なんとなく分かってしまう。

 ただもうまた誰かに嫌われてしまうかもしれないという恐怖から。

 大切な人に嫌われ、拒絶され、バケモノ呼ばわりされるのは自分にとって、あまりに苦痛だったから、その出来事が自分で思っているよりも深い傷を残している。


「ぁ、もう寝ないとな・・・・・・」


 明日は柚葉さんの家に行くんだった。

 朝一でここを出発するから、夜更かしして力の練習をしている暇はない。

 もう、寝よう。


「・・・・・・おやすみなさい」


 誰もいない白く染まった山の中で、ただ自分の声だけが小さく響いた。





「あれ、おばあちゃんもう起きたんだ?」

「今日は憐君が来るんでしょ? おばあちゃんちょっと張り切っちゃおうかなって!」

「ふふっいいね! 憐君も喜ぶと思うよ! 私も手伝うよ!」

「ありがとう、じゃあその野菜を頼も」


 ピンポーン。


「ん? 誰だろ? 私見てくるね!」

「ああ、ありがとう」


 柚葉がテレビドアホンを覗き、声をかける。


「どちら様ですか?」

「宅急便でーす!」

「宅急便? おばあちゃん! 何か頼んだ?」

「いいやぁ、私は何も頼んでないけどねえ」

「おっけー! 届け先間違えてるかもしれないから聞いてくるねー!」

「はい、頼んだよ」


 柚葉が玄関へドタドタと急いで走って行き、適当な靴を履いて扉を開けると数個のダンボールを乗せた台車のそばに、一つのダンボールを持った宅急便の男性がいた。

 制服は少し乱れており、帽子を深く被ってマスクを着けていて顔が見えない。


「こんにちは〜、もしかして荷物間違えてませんか?」

「あれ、そんなはずはないんですけどね〜。お名前をお伺いしても?」

「天城です」

「あ、天城様でしたか! 申し訳ごさいません! 届け先を間違えていたみたいです!」

「あっそうですよね。大丈夫ですよ! ん? あのっ」


 頭を軽く何度か下げて、台車に乗せている大きなダンボールに向かって歩いていく宅急便の男性。

 柚葉はチラッと見えた男性が抱えていたダンボールにこことは全く違った場所が住所が書いてあるのが見えた。

 それが気になって声をかけようとしたが、


「柚葉終わったかい? ついでに庭から小松菜取ってきてくれんか?」


 家の中から千代が対応を終えたと思い柚葉に声をかけて、柚葉は気のせいだったかなと言いかけていた言葉を振り返る。


「うん分かった! 確か憐君も好きだったよね!」


 そう言って柚葉がもう一度家を出ようと振り返ると、男性は荷物を動かず突っ立ったままこちらを見ていた。


「あの、どうしました? トラブルですか? 届け場所が書いてないとか?」


 柚葉と千代は突っ立ったままの男に困惑を隠せないでいると、男が口を開いた。


「ぁぁ、いや、やっぱりここで合ってたみたいです」


 男はマスクの下で不気味な笑みを浮かべた。

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