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「人のことは言えないって分かってはいるし、私の方が酷かったから口出しなんてできるわけないけど……でも、ユーゴ兄様、あれはやり過ぎよ」

「お嬢様……」


 ルークが痛ましいものを見るような目で私を見てくる。

 それに気づかないふりをし、私は再度ユーゴ兄様の様子を観察した。兄様はとても楽しそうだ。きっと、前の私もあんな顔をしていたのだろう。

 新しいドレス、茶器、菓子を用意し、褒め称えてくれる者たちだけを呼ぶ。

 私の認めた者以外は出席を許さない、私が全ての中心であるお茶会。それは酷く心地よいものだったけれど。

 遠目から、第三者として見ているから分かる。皆、ユーゴ兄様に追随し、心からのものではない、兄様のために作った中身の伴わない笑みを向けている。

 兄様は、公爵家令息。引きこもりの息子であっても、下級貴族からしてみれば、繋ぎを作っておきたい相手なのだろう。心にもない言葉で兄を褒め湛え、自分を売り込んでいる。

 それを見て、分かってしまった。


 ――私のお茶会も同じだったんだわ。


 今は『悪役令嬢』にならないために動くのが忙しくて、お茶会などしていないが、以前は一週間に一度は開いていた。その席に呼んだメンバーを思い出す。


 ――皆、同じような笑みを浮かべて、私を褒め称えていたわ。


 そして、その中の誰とも、本当の意味で親しくなんてなかったのだと初めて気づいた。

 友達と呼べる人なんていない。

 何かを相談できる人なんていない。

 彼女たちは、私を褒め称えるだけに存在する人たちで、友達ではないのだ。

 弱みなんて見せられない。


 ――ああ、そうか。


 気づいてしまえば、それは酷く虚しい催しだったということが分かる。

 口先だけの、表面上の付き合いだけのお茶会。何の生産性もない。ただ、私を褒めるためだけにある。

 そんなものをよく毎週も続けていたものだ。

 考えてみれば、お茶会のメンバーの誰一人として、お茶会が中止になったことを嫌がった者はいなかった。皆、「そうですか。分かりましたわ。また、お誘い下さいませ」と残念そうには言っていたが、本音では清々していたのだろう。今ならそれが分かる。


「ユーゴ兄様……」


 兄の茶会を見て気づいたというのも嫌な話だが、今、目の当たりにしている光景は以前の私と同じものだ。誰も本心から笑っていない。楽しいのは、主催者の兄だけ。


「お嬢様、行きましょう」


 じっとユーゴ兄様を見つめていると、ルークが声を掛けてきた。それに頷く。


「ええ、そうね」

「……きっと、ユーゴ様もいつかお気づきになると思います。お嬢様のように」

「それじゃきっと遅いと思うの。今度、ユーゴ兄様に話してみるわ」


『悪役令息』というものはないだろうが、それでもこのままでは兄がもっと悪い方向へ行ってしまう気がする。だが、ルークは首を横に振った。


「止めておいた方がいいです」

「どうして」

「……お嬢様がお茶会を開いていた時に、たとえば私に同じことを言われていたとしたら、聞き入れることができましたか?」

「それ……は」


 痛いところを突かれた。

 多分、ううん、絶対にまともに話を聞こうともしなかったはず。

 黙りこくってしまった私にルークが言った。


「こういうことは、きっと自分で気づかなければならないんです。でないと、本当の意味で変わろうなんて思えないんですよ。……お嬢様のように」

「私は、一人でなんて気づけなかった」


 変わろうと思っても、きっと変われなかった。全部、アルがいたからだ。彼がヒントをくれて、導いてくれているから、分からないながらも前に向かって進んでいける。


「兄様にも、そういう人が現れればいいのだけれど」

「きっと現れますよ、いつか。だからお嬢様は、まずはご自分のことを考えましょう? 『悪役令嬢』でしたっけ。それにならないのが第一目標なのでしょう?」

「ええ、そうね」


 尤もな言葉に頷く。私が何とか兄のことに折り合いを付けたことに気づいたルークが、「それなら、お嬢様、今から気分転換に、少し外にでも出かけてみませんか」と言い出した。

 私に気を遣ってくれているのは一目瞭然だが、その気持ちは嬉しい。

 町になど、ここ一年くらい行っていなかったから、確かに気分転換になるだろう。


「そうね。たまには良いかもしれないわね」


 屋敷の中にずっと籠もっているよりも外に出た方が、『悪役令嬢』にならないための良い案が浮かぶかもしれない。

 私が頷くと、ルークはホッとした様子で「それなら早く準備をしましょう」と私をその場から連れ出した。







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