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『ノエルは確かに偉大な魔法使いであったが、同時に真性の屑だった。まず、人を人とも思わぬ。全てを自分の魔法の実験材料としか見ていない。それは、先ほどのノエルの発言からも分かってもらえると思う』

「ちょっと! 本人を目の前にして真性の屑とか言わないで欲しいなあ!」

『黙れ、屑』


 ノエルの訴えを、ノワールは絶対零度の視線と言葉で退けた。ノエルはあからさまに不機嫌ですという顔をする。


「……」


 そういえばノエルはさっき、人や精霊を『トカゲ』と変わらない、みたいなことを言っていた。ハイ・エルフである彼にとっては全てが同列の場所にあるのだろう。


『ノエルは殺しすぎた。我の親友を実験材料にし、他にも同胞を自分の実験のために山のように殺めた。このまま手をこまねいていれば、もっと犠牲は増えるだろう。精霊王はノエルを誰にも見向きもされない猫にし、野に放ったのだ。それなのに、どうして主がノエルを拾ったのか。ノエルには精霊王の呪いがかかっている。拾う気になど、普通なら起こるはずがない』

「実際、私は死にかけていたしね。いやあ、魔法は使えないし、皆は私に気づかないしで参った参った。何とか生き延びてきたけど、さすがに死ぬかなあと思った時の、ゴシュジンサマだ。よく私を拾ってくれたよね。また不細工とか言われて、石でも投げられるんじゃないかとあの時は怯えていたんだよ」

「……不細工だからって拾わない選択肢はないわ。子猫が苦しんでいる。私にはその事実だけで十分だったのよ。逃げられると思ったけど、結果として保護できて良かったと思ってる」


 全員の視線が私に降り注ぐ。居たたまれない気持ちになりながらも正直に話すと、アルがリラックスさせるように私の背中をそっと撫でた。


「リリはとっても良い子だからね。僕の妻になる子なんだから当たり前なんだけど」

「良い子だなんて……」


 当たり前の行動をしただけ。わざわざ褒められるようなことではない。

 ノワールが渋い顔をしながら言った。


『主が最初、精霊契約を試みた時、呼び出された精霊は驚きで死ぬかと思ったと言っていた。何故かノエルがいる。苦しんで、苦しみ抜いて死んだはずのノエルが。見つかれば捕らわれ、実験材料にされる。その恐怖から、主との契約を拒否したのだ。本人は主に対して、応じたのに逃げたのは申し訳なかったとずっと気にしていたがな。ノエルが近くにいるのでは中級精霊ごときでは対処できない。上級精霊でも難しいかもしれない。実際、もう一度あった召喚では、結局ノエルの気配に怯え、誰も行こうとはしなかった。それで我が行くと手を挙げた。我はノエルに対して並々ならぬ恨みがある。力も強い。契約し、ノエルの様子を見るということになったのだ。幸いなことに、我の時はノエルの気配はなかったからな。問題なく契約を行うことができた』

「すぐにわかる事情って、このことだったんだね」

『さよう』


 アルの言葉にノワールは肯定を返した。

 話を聞いていたノエルがノワールに向かって文句を言う。


「何が様子を見る、だ。真っ先に攻撃をしかけてきたくせに」


 それに対し、ノワールはせせら笑って答えた。


『お前を見た瞬間、抑えきれない殺意が湧いたからな。それに死ななかったではないか。不幸中の幸いと言おうか、お前にかけた呪いは解けていない。そのままあと五年、呪いが解けなければ、お前はただの猫に成り下がる。我ら精霊の恨み思い知るが良い』


 はい、とアルが手を挙げる。皆の視線が集まったのを確認し、口を開いた。


「質問。どうしてノエルを殺してしまわなかったの? そんなに恨んでいるなら拷問して殺した方が良いんじゃない?」

「ア、アル?」


 アルが本気で不思議そうにするのが怖かった。だが、ノワールも同意見のようで、大きく頷く。


『我もその方が良いと思った。もちろん、そんなことくらいで我らの恨みが晴れるものでもないが、この男が世の中に存在しなくなるというのは悪くない。だが、先ほども見ただろう。――この男は特異体質でな。他人の魔力を吸収し、己のものにできる。それは、基本が魔法攻撃である我ら精霊にはひどく相性が悪いのだ』


 アルが納得したような顔をする。


「通常の魔法攻撃では殺せないってことか。それで、呪うという手段を選んだんだね?」

『そうだ。精霊たちが攻撃をしかけ、こやつがその魔力を吸収している隙を突き、精霊王が呪いを掛けた。ノエルは魔力を吸収しようとしたが、精霊王の方が一歩早かったのだ。呪いがかかってしまえばいくらノエルでもそれをどうこうできはしない。ノエルは猫になり、放逐されたというわけだ』


 説明は終わったとノワールが口を噤む。

 私はなんとなくノエルに視線を移した。ノエルはまるで猫のようにくわっと口を開けて欠伸をしている。正体を知ったあとでは、可愛いという気持ちが湧いてこない。なんだろう、あざといという言葉が浮かび上がってしょうがなかった。

 私の視線に気づき、ノエルがこちらを向く。


「ん? あ、話終わった? じゃ、ゴシュジンサマ、屋敷に帰ろうか。私はお腹が減ったんだよ。そろそろご飯が欲しいなあ」

「ノエル! お前、正体を知られておきながら、まだリリの屋敷にいすわるつもりか!」


 アルがノエルを睨み付ける。ノエルはぺしっと尻尾を振った。


「当たり前だよ~。だって、あの屋敷は居心地良いんだ。皆、私に甘いしね。ゴシュジンサマから魔力をもらうこともできるし、出て行く理由がないかな☆」

「そもそも、どうしてペラペラと話し始めたんだ。猫なら猫らしく、今まで通りニャアニャア鳴いておけばいいだろう」

「だからそうしていただろう? 実際、最初は猫としての意識が強すぎて、自分が何者かってところまですっぱり忘れていたんだよ。でもさ、ゴシュジンサマって歌に魔力を込められるだろう? あれのおかげで、少しずつ記憶を取り戻していったんだ。零れる魔力を吸収してね。孤児院に行くと、絶対に歌ってくれるのが本当に有り難かった。完璧に記憶が戻ったのは、ゴシュジンサマが魔力暴走させた時かな。あの時たっぷり魔力をいただいたからね。いやあ、ほんっと、今までよく無事で生きていたよ☆ 私って、わりと悪運が強いのかな☆」

『死ねば良かったのに』


 口を挟んできたノワールが物騒すぎる。

 しかしノエルが色々思い出したのは、結局は私のあの魔力暴走だと言われれば、私には何も言えない。だって、あの時、ノエルが魔力を吸収してくれなければ、屋敷を半壊させていたかもしれないし、何よりアルに怪我を負わせてしまったかもしれないのだ。それを防いでくれたことを私は今でも感謝しているし、だから、そういう意味でノエルを否定することができなかった。

 黙っていると、アルが私の手を握った。


「リリ。ノエルの正体が分かったんだから、連れて帰るなんて言わないよね。喋れる程度には回復したようだし、あとは一人でも生きていけるよ」

「えっ……でも」


 先ほど見た男性がノエルの正体だと理解はしたが、今現在、猫の姿をしている彼を放っては置けない。それにノエルはうちの屋敷の猫なのだ。父や母、兄にも『見捨てない』と『助けるというのは一時的なことではない』と言った。前言を撤回するのはどうかと思う。


「私……ノエルを連れて帰ります。無責任なことはできません」

「リリ、正気なの? ノエルは猫ではないんだよ? 立派な成人男性だ。僕は自分の婚約者が妙な男と一緒に暮らしているなんて絶対に嫌だ」


 顔色を変えるアル。ノエルは私の膝に飛び乗りながらのんびりと言った。


「私は女性が大好きだけど、ゴシュジンサマには興味はないから心配しなくて大丈夫。さすがに子供過ぎて食指が動かないんだよねえ」

「お前の言葉を僕が信じると思うのか」


 アルが容赦なくノエルを私の膝の上からはたき落とした。ノエルはコロコロと転がったあと、やれやれと身体を起こし、アルに向かってブーブー言った。


「えー、だってさ、私は今、ゴシュジンサマの庇護がないと本気でまずいんだ。魔力を吸うこともできないし、このまま魔力が目減りしてしまったら、またただの猫に戻ってしまう。それは避けたいって思っているんだから、余計なことはしないよね」

「いっそ猫に戻った方が平和なんじゃないかな」

『そのまま死んでくれれば皆が喜ぶ。我も賛成だ』


 アルとノワールが結託している。ノエルが嫌そうに顔を歪めた。


「すっごい嫌なタッグが誕生したね。でもさあ、実際のところ、私を飼ってくれているのはゴシュジンサマであって、君たちではないわけだし。ねえ、ゴシュジンサマ。私を見捨てたりはしないよね? にゃあ」

「……」


 あざといなあと思いながら、私は溜息を吐いた。結論はもう出ている。それを変える気はなかった。私はノエルを抱き上げ、アルに向かって頭を下げた。


「アル、ごめんなさい。ノエルを連れて帰ります」

「リリ!」

「別に絆されたとかではないんです。……ただ、ノエルがいなくなったら、兄様たちも悲しむから。それに考えてみたら、私、今までに二回もノエルに助けられているんです。破落戸から逃げる時と魔力暴走を起こした時。それを無かったことにはできません」

「破落戸から逃げる時、ってあの時のこと?」


 驚いたように言うアルに、頷いてみせる。

 そう、私はノエルに二度も助けられているのだ。しかも多分、偶然ではない。おそらくは厚意で助けてくれた。それに気づいてしまえば、アルやノワールの言うことは聞けなかった。


「はい。もう捕まってしまうという時、ノエルが鳴いて……そうしたら追いかけてきた男たちが全員何かに躓いたように転んだんです。今思えば、あれはノエルが助けてくれたんだと」

「ああ、あれね。そうそう。ちょっとずつ溜めた魔力を使ってやったんだよ。とは言ってもたいしたことはできなかったけど、まあ、ゴシュジンサマを助けられたのだから良かったかなあ」


 ここぞとばかりにノエルが同意する。

 私がノエルに助けられたのだと知ったアルが微妙な顔をした。


「……そう、なんだ」





ありがとうございました。


8/27に『悪役令嬢になりたくないので、王子様と一緒に完璧令嬢を目指します!2』がいよいよ発売となります。

書き下ろしもありますので、どうぞよろしくお願いいたします。


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フェアリーキスピュア『悪役令嬢になりたくないので、王子様と一緒に完璧令嬢を目指します!』1~3巻発売中。

i401391コミカライズ連載も5/14より始まります。i548305
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