第92話 情報統制
一先ず、リーファとキルリさんをミケにゃんたちに預けて、喫茶店に向かう。
なんとなく足取りが重い。本当、何を言われるんだろう。マジで心当たりがない。
ここ1ヶ月やっていたこととしては、リーファたちのメンタルケア。リーファ母娘と魔法少女たちの関係の構築。それに合わせて魔物退治、モデルの仕事、学校……あちこちを忙しく飛び回っていた。文字通り、物理的に。
うん。何もやっていない。俺は無実だ。……多分。
嫌だなぁ。怒られるのかなぁ~。
なんて思って、ゆっくり歩いていてもいずれは着いてしまう訳で……いつの間にか、喫茶店前に来てしまった。
「……行くか」
男は度胸、女は愛嬌……じゃあ俺は最強だ。いざ、入店。
「し、失礼しま~す」
恐る恐る扉を開けて、顔だけで中を覗き込むと、キキョウさんとビリュウさんがいた。……何か神妙な顔でタブレットを見てるけど、何かあったのか?
「んお? あ、来た来た。ツグミ、こっちこっち」
「……怒られませんか?」
「え、何で? 怒られたいの?」
「いえまったく」
ほっ、よかった。別に怒られる訳じゃないみたいだ。
店内に入り、今日の店番の女性にブラックコーヒーを頼んでから、キキョウさんたちの所に向かった。ビリュウさんに席を引かれ、キキョウさんの前に腰を掛けた。そんなことしなくてもいいのに。
「あなた、お風呂にする? ご飯にする? それとも、子・づ・く・り?♡」
「とりあえずキキョウさんの話を聞きたいので全部却下で」
「子作りも……!?」
「却下って言ったよね!?」
てかこの人、キキョウさんを前にしてもそのノリを貫くんだな!?
「え~、なになに? びりゅー、子供の作り方も知らないのぉ~? 子供は愛し合ってる2人の男女が一緒に寝て、コウノトリさんが運んでくるんだよ。2人とも女の子なんだから、運んできてくれないって~」
「まあ、そうでしたね、キョウ様。さすがはキョウ様、博識ですね」
「えへへ~」
ニヤニヤ顔で、知ってる知識をひけらかすキキョウさん。年相応で可愛いけど、もう少し学校の授業はまともに受けような。将来恥かきますよ。あとビリュウさんも甘やかさないでください。
「えーっと……叱られないのであれば、なんで私は呼ばれたんですか?」
「あ、うん。ちょっと聞きたいことがあってね。ツグミなら、海外の魔法少女にも詳しいかなって思ったんだよ」
「海外の魔法少女……ですか?」
「うん。ほら」
キキョウさんが見ていたタブレットを、こっちに向ける。
これは……英語、か? 多分海外のネットニュースみたいなものなんだろうけど……ごめんなさい、俺英語読めないんです。
けど、ところどころの英語はわかる。“America”とか“Japan”とか“Magic girl”とか……あとは、これか?
「Comet……彗星? 彗星がアメリカと日本に落ちてくるのを、魔法少女が食い止めたってニュースですか?」
「違うわよ。要約すると、アメリカの魔法少女・コメットが、日本に来るっていう記事になるわ」
馬鹿な俺に変わって、ビリュウさんが翻訳してくれた。
ほほう、なるほど。アメリカの魔法少女が……ん?
「確か魔法少女の渡航って、厳しく制限されてるんじゃなかったでしたっけ? 母国を裏切る可能性とかなんとか……契約書で見た気がしたんですけど」
「その通りよ。でも何事にも例外はあって、所属している支部の長が許可を出せば、その限りではないわ。私たちは学生だもの。修学旅行とかもあるでしょう?」
あー、確かに。全部が全部ダメだったら、反感を買うだろうからな。その例外的処置は間違ってない。
「じゃあ、この魔法少女・コメットもそれに該当するのでは?」
俺の疑問に、キキョウさんが腕を組んで渋い顔をする。
「と思うよね。でもこの子、1人で日本に来るらしいんだよ。一応名目上は、『将来祖国を担う有望な魔法少女に、世界の広さを学ばせる為』。理屈はわかるし、言いたいこともわかるけど……」
「納得はいかない、と?」
渋々頷くキキョウさん。ビリュウさんも同じなのか、無言で話を聞いていた。
「そこで、この将来有望ってところを見ていろいろ調べたんだけど、コメットって子の情報が極端に制限されてるんだよね。多分この記事が出たあたりから」
へぇ……ものすごく徹底した情報統制ってことか。アメリカの魔法少女協会は、そこまでの権限があるってことか……?
「一応他の子にもコメットについて聞いてみたんだけど、みんな知らないみたいで……ツグミなら知ってるかなって思ったんだよね」
「ええ、まあ。知ってますよ」
「だよねぇ。外国の魔法少女のことなんて知らな……えっ、知ってるの!?」
目をまん丸に見開いたキキョウさんが、前のめりになった。
「私が知ってると言うより、知ってる友達を知ってるって感じですけど……明日まで待ってください。聞いてきますから」
「おけおけ! いやぁー、助かるよ。これで後手に回らなくて済む!」
「後手に?」
はて、どういう意味だろうか?
首を傾げていると、ビリュウさんが小さく微笑んで口を開いた。
「ただ日本に来るだけなのに、能力すらひた隠す徹底ぶり。……何か裏があると見て間違いないでしょう? それこそ、私たちに不利益なこととか……ね」
不利益。この言葉の裏にはどんな意味が隠されているのか……政治って恐ろしいな。
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