第121話 交渉
◆◆◆
「あのねぇ……君はどーして一人で突っ走るかな!?」
「すみません!」
地上に降り、真っ先にキキョウさんに怒られた。あの距離の会話を聞いてたのか? 地獄耳だな。
傍にいるコメットはあわあわしつつ、同じように頭を下げた。
「そ、そーり……ゴメンナサイっ! ワタシのせいで、ティナを巻き込んでしまッテ……!」
誠心誠意、平謝りする俺たち。
キキョウさんが怒るのもわかる。これは所謂、宣戦布告。もっと簡単に言うと、他国に喧嘩を売ったということだ。
頭を抱えて深いため息をつくキキョウさんだが、ビリュウさんが小さくてを挙げた。
「キョウ様、ここはツグミに任せていいのでは? 何も考えず、あんなことを言う子ではないですから」
全員の視線が俺に向く。俺を買ってくれてるのは嬉しいけど、買いかぶりすぎだ。ぶっちゃけノープラン。イラッとしたから口走っちゃっただけ。
でも本当のことを言うと、また怒られそう。ここは笑顔で乗り切るのが吉。
「……はぁ、わかったよ」
おおっ、助かった……!
内心安堵していると、「ただし!」と指をさされた。
「喧嘩を売ったからには、必ず勝つこと。負けて帰ってきたら……わかってるね?」
眼光鋭く睨まれ、喉奥の唾液を飲み込む。
「ど、どうなるんでしょうか……?」
「アンタが自室で自撮りしていたコスプレ写真を、プレミア価格で売り捌く」
「なんで持ってんの!?!?!?」
どこからか取り出した写真は、どれもこれも見覚えのあるものばかり……というか、外付けHDDに入れて厳重にロックまで掛けてたんですけど! どうやって手に入れた!?
「にしし。アタシに隠し事なんて100年早いよっ」
写真を扇子みたいにして、扇ぎつつ煽ってくるキキョウさん。ちくしょう、人質かよ……!
「ちょ、キョウ様っ! それ私に売ってください!!」
「リーファ、欲しい、ますっ。ツグミのえっちな写真くれ、ですっ」
『わたしもほしす!』
「Me too!! Me too!!」
わらわらとキキョウさんの周りに集まる。やめろやめろっ、本人を目の前にして売買するな!
「わかった! わかりました! 絶対勝ってくるんで、それしまってください!!」
「んっ、それでよし!」
キキョウさんは『無敵』でみんなを押し退け、胸ポケットにしまった。
なんで俺、味方から精神攻撃受けてんだろ……。
「ツグミ、あなたも好きね」
『なまで見せてほしす』
「えっち、ます」
やめて!?
「って……あれ、リリーカさんは?」
これだけ騒いでるのに、姿が見えない。さっきまでいたと思ってたんだけど……?
「あぁ、リリーカなら体調不良で休んでるわ」
とビリュウさんが教えてくれた。
「大丈夫なんですか?」
「顔色は優れなかったからなんとも言えないけど……心配なら、お見舞いに行ってあげて」
「わかりました。ライス、少し行ってくるから、みんなと待っててください」
元気に返事をするコメットの声を後ろに聞き、リリーカさんの休んでいる本部へ向かう。
裏の勝手口から入り、気配を頼りに2階へ上がる。
「リリーカさん、ツグミです」
「!」
中から物を倒したような音が聞こえてきた。
しばらく待っていると、扉の向こうに気配を感じた。
「リリーカさん?」
「っ……あ、あの、ツグミ……さん……」
ぇ……? この声……凛々夏、か? なんで今、元の姿に……?
「凛々夏、どうした? 何かあったのか?」
「……なんでもぁりません……ごめんなさぃ、少し一人に……させて、くださぃ……」
言葉がしりすぼみに弱々しくなっていく。いつもの事だけど、それ以上にだ。
相手が男だったら、無理やりにでも外に連れ出して気分転換させるけど……気弱な女の子相手にやったら、取り返しのつかないことになりそうだ。
本当に体調不良の可能性もあるし……しばらく、そっとしておこう。
「わかった。もし何かあったら、すぐ呼ぶんだぞ?」
「……はぃ」
気配どころか存在すら消えてしまいそうなほどか細い声に心配になるが……これ以上、俺に何が出来るというのだろうか。
拳を握り、後ろ髪が引かれる思いで、凛々夏の傍から離れた……。
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