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Episode-88 『二人の知らない二人の話~起~・人見知りヤンキーの場合』


「うへっ、うへへへへっ」


 自分でも気持ち悪いとハッキリとわかる様な声が思わず口から漏れる。

 でもいい。気持ち悪かろうとなんだろうと、アタシのこの喜びの感情は抑えつけようにも抑えられる代物ではないと自分でもわかるから。


 何故なら今日は久しぶり(現実世界を含めて)に初めて会う人と仲良くなり、その上たくさん話すことができたのだから。

 しかも一人は同い年の同学年、もう一人は普通に生きていればおそらく一生接点すら持つことはなかったであろうスーパー芸能人。

 二人とも接しやすくていい人だったな~。


「はうっ~」


 つい数時間前まで一緒に話をしていた光景が今も脳裏にしっかりと焼き付いている。

 そして、未だにアタシはそれを思い返して一人ニヤケながらベットでゴロゴロしているというわけだ。

 いやぁー、やっぱ人と話すのっていいな。


 …つーか、なんで人と話すことが好きなのに私は人見知りなんだよ。

 ちなみにご機嫌な中であっても時にこんな風な自分のマイナスポイントがふと浮かんだりもするが、それさえも「まぁいっか」と軽く流せるほどに今の私はおおらかな気持ちだった。


 そうしてどれくらい時間が過ぎただろう。

 流石に段々と感情も落ち着いてきた。それとほとんど同時に、


「ふぁー」


 と思わず欠伸あくびが口から漏れる。

 「えっと、今は…」、その欠伸に釣られて視線を部屋の壁にかけられた時計に移す。 

 すると、


「げ…!」


 時刻はまさかの深夜1時前。

 思っていたよりもずっと時間が経過していた。ついまだ、11時半くらいかと思ってたのに…。

 というかベッドでニヤニヤしながら気付けばこの時間とかアタシ大丈夫か? 人と話さな過ぎてちょっとおかしくなってない?


「よっと」


 少し自分の頭を疑いながらゆっくりとベットを立ち上がる。

 思わぬ夜更かしだ。明日は更に気合いを入れなくちゃいけない日になるのに。

 何故なら、


「――二ノ前先生」


 ベットの横にある本棚に綺麗に並んでいるその漫画を見ながらポツリと呟く。

 そうこの二泊三日の目的はあくまであの二人との距離ではなく二ノ前先生との距離を縮めること。そのためには明日は正念場なのは頭の悪いアタシにもわかる。

 その上、あの二人も協力的に背中を押してくれるのだ。

 これで夜更かしして、もし明日に寝坊でもしてしまったら目も当てられない。


「よし、ホットミルクでも飲んで寝よっ」


 そう決めると私は部屋から出る為に自室のドアノブを回した。

 ガチャ、っとドアが開く。しかし、そこである異変に気付く。いつもなら入ってくるはずの明かりが無くて視界が開けない。

 どういうわけか、メインルームの明かりが消えていた。


「うわっ、暗い。…なんで?」


 その見慣れない現象に思わず心情そのままの声が出る。

 

 ――ん?

 

 が、そこでアタシは気付いた。

 確かにメインルームは暗い。だが、よく見ればどこからか光が漏れている様な感じがする。その光の方に無意識的に視線が向く。

 

 そこは数時間前に私も利用したお風呂場だった。そしてそこから光が漏れているわけ。それは今まさにそこから首にタオルをかけてTheお風呂上りってな感じで出てくる二ノ前先生によるものだった。


「「あ」」


 不意のその遭遇に思わず私と二ノ前先生の声が重なる。

 

 こんな感じの似た様なパターンは元の空間で何度か経験していた。

 しかし、毎回毎回ほんの少し言葉を交わしただけで特に会話という会話もせずに終わってしまっていた。


 今回も今までのアタシならば「あっ、どうも」とだけ言って何事もなかったかのように自分の部屋へととんぼ返りしていただろう。

 だが、アタシは偶然にも先程小さな覚悟を固めたばかり。更に今日の昼間に二人と話したことで少しだけ自分から話しかけるという勇気をもらっていた。

 つまりその瞬間、いつになくアタシは前向きだった。


 いける、今回はいける。

 そんな確証もない小さな自信が二ノ前先生と目が合った瞬間に、ポッと胸に湧き出た。

 そして、


「あっ、あの!」


 その自信に素直に従うように私はそう声をかけた。

 ちょっとボリュームをミスって声が大きめになった気がしたが、二ノ前先生の方は特に気にならなかったのか「ん?」と不思議そうに反応してくれた。

 

 やった! 好感触かも!

 えっと、この後は……どうすりゃいいんだ?


 が、そこでアタシは気付いてしまった。

 呼び止めたはいいが、呼び止める理由が無かった。前言撤回、『やった』ではなく『やってしまった』。

 サーッと背筋に冷たい汗が流れる。


 が、後悔してもどうしようもない。

 そんなことをしている間にも時間は流れていく。同時に二ノ前先生の表情も疑問の色が増えていっている気がする。

 更に無言が続くと、その表情に浮かぶ感情が疑問から苛立ちに代わってもおかしくない。

 だから何か言うしかない。

 

 なにがいい? ないがいい!?

 そうだ、アタシは何のために部屋を出た。飲み物を飲むためだ。

 あー、もう仕方ない。当たって砕けろ、アタシ!!


「あっ、あの!」


「おっ、おう」


「よかったら、一緒にお茶でもどう…いかがですか!」


 えーい、ままよ!!

 もうアタシのその時の心境はそう言うしかない。勢い任せの流れ任せだ。

 断られたら、もうしょうがない。それくらいの気持ちだった。


「…あー、腹減ったからついでになんか食うもんが欲しい」


 そして、そんなアタシの願いが届いたのか返ってきたのはそんな少しトリッキーな承諾の言葉だった。 

 が、トリッキーだろうがなんでもよかった。拒否されなかったんだから。


「はっ、はい。わかりました!」


 なんだ、アタシやればできるじゃん!!

 

 そう言う私の口角は、少しだけ上がっており意識せずに不器用な笑顔が浮かんでいた。


 そして後はホットミルクを飲んで寝るだけだったアタシの予定がガラッと変わったのだった。


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