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Episode-84 『天才たちの邂逅・顔出しNG新人声優の場合』


 第一印象は変な人。

 もっと言うと、なんかすっごい掴みどころのない奇妙奇天烈な人。


***―――――


 高校を卒業して少しして、私は女子大生となっていた。

 勿論通っているのは女子大。ここにこそ、私の百合の縁が必ずあるはずと思って選んだ大学だ。


 …が、しかし、しかしだ。

 私は過去から反省及び学習をしていた。

 

 私が通っていた高校は、結構なお嬢様学校。もちろん女子高だ。

 正直、入学前はかなり期待していた。そう百合的なあれやこれやをだ。だって女子高ですよ女子高!

 百合がそこらじゅうに溢れ、それは私の周りでも起こり、そして私の身にも直接起こる。そんな夢を見ながら入学した。

 しかし、現実はそう甘くはなかった。

 結局、私の身にはキュンキュンするような出来事は何も起こらずに私は今年高校を卒業してしまった。


 そして、今通っている女子大学。

 想像したくはないがここでも同じようなパターンを過ごし、四年の後に再び独り身で卒業してしまうことも十分にあり得ると思ったのだ。

 それ故に、私は素敵な百合に出会えるように行動範囲を広めることにした。


 てなわけで、私は大学入学と同時にとある芸能事務所に所属した。

 ぶっちゃけ言うと、その事務所は私の母の高校時代の知り合い――もとい舎弟が経営する芸能事務所でありバリバリのコネ所属ということになる。ちなみに私が入った時点ではお世辞にも大きいとは言えない事務所だった。


 そんなわけで芸能人の端くれとなった私の肩書きは声優。

 学生の本分は勉強という両親の教育理念を鑑みた結果、顔を出さずとも活動できる声優になることにしたのだ。顔出しNGにしたのは両親曰く、私が顔を出したら美人過ぎて話題沸騰は当たり前どころか一躍時の人となり大学に通うどころじゃなくなるかららしい。

 

 …うん、恐ろしい程の親バカだと思う。

 ちなみに私の芸名である望城レインという名前も両親が考えてくれたものだ。大学生にして両親に未だにおんぶに抱っこなのである。


 ていうか、今のご時世であれば声がお仕事の声優さんでもガッツリ顔出しで色々と幅広く活躍している。それくらいは私も知っていた。

 つまり、顔出しNGじゃ事務所所属はコネでどうにかなったけど、オーディションとか普通に落とされまくるんじゃない。

 

 ――とそんなことを最初は思っていたのだが、あれやこれやでオーディションも一発合格となり、活動し始めて一月足らずで主演アニメが決まったという訳だ。

 マジでとんとん拍子に決まり過ぎて、なんか見えざる力が働いていると思わずにはいられない程だ。

 お父さんもお母さんも裏でごにょごにょやったりしてないよね…。なまじ、両親が二人とも会社のトップなため、変に勘ぐってしまう。


 まぁそんなわけで、今私は初の主演アニメの収録のために収録スタジオ内を歩いているという訳だ。

 ちなみに一人で、ではない。

 何故なら、私の後ろには付き従うようにして歩くメイド服を着た長身の女性の姿があるからだ。


さち。別にここまで付いて来なくてもいいんだよ」


 スタジオ内の廊下を歩きながら、子どもの頃から一緒に暮らしている私の世話係のメイドである幸に声をかける。

 二つ年上ではあるが、もう十五年以上の付き合いであるため口調は当然ながら砕けたものだ。

 

「ダメです。お二人から悪い虫がつかない様にしっかり見張っているようにという旨の指令を受けておりますので」


「そんな虫はつかないと思うけどな~」


「お嬢様は昔からご自分がどれほどまでに可憐で美しいかを分かっておられませんからね。お二人と同じく、幸も心配にございます」


「別に知らない人について行ったりはしないけどね~」


「それは勿論存じ上げておりますが、世の中には『もしも』ということもございます。『もしも誘拐されたら』、『もしも変な薬で眠らされたりしたら』、すべての可能性を考慮して動くのがメイドにございます。――それに今回は声優としての顔出しNGの徹底も私の仕事の内にございます」


「というと?」


「具体的に言いますよ――お嬢様にカメラを向ける様な不躾な輩がおりましたら、私がその場で物理的に武力制圧します」


「こわっ!? 怖いよ、幸!?」


「ふふふっ」


「笑いごとじゃないんけど、…ふふっ」


 幸が口元を手で隠しお淑やかに笑い、私もそれにつられる様に笑みを浮かべる。

 ちなみに「別について来なくていいんだよ」と言ったところで幸が帰るわけがないことは知っている。むしろそれで「はい、わかりました」と帰ってしまったら私の方が焦ってしまうことだろう。

 十五年以上も一緒にいるのだから、急に離れられたら不安になってしまう程に幸の存在は私の日常の一部なのだ。そして彼女が側にいればいきなり地球が爆発でもしない限り安全であろうことも知っていた。


 ――だからこそ、私は私のやりたいことに集中できるのかもしれないね。


「さてと。では気持ちを切り替えて、初収録頑張りますか!」


「その意気でございます、お嬢様」


 そして、この角を曲がれば実際の収録スタジオだというところで「よし」と拳を握り、仕事スイッチを入れる。


 が、


『ポーン、三階です』


 そこでちょうどその角にあったエレベーターで音が鳴り、誰かの到着を告げる。

 そして、エレベーターのドアが開きその中から現れたのは、


「おおおっ! あれが夢にまで見た声優さんの収録スタジオ!! あー、アニメ化漫画家の担当になれて本当によかった~~、幸せ~~!!」


「青葉、いい大人がうるさい。心の声で喜べ」


 ビシッとスーツで決めた明るい声の女性とラフな格好をしたメガネの同年代くらいの女の子だった。


 これが望城レインだった頃の私と新人時代の二ノ前先生の百合の花園以前での初めての邂逅だった。


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