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Episode-9 『初食事・関西弁JKの場合』


 う~ん、やっぱ凹んどるんやろか?

 いちおう準備が終わったんで呼びに来たんやけど返事が無い。

 でも、無理やりドア開けるわけにもいかんしなぁー。


 と、そんなことを思っていたところでおもむろに目の前のドアが開く。


「急に部屋に行っちゃって、ごめんね!」


 そして開口一番、ドアから顔を出した虹白さんがそう謝ってきはった。

 本当に申し訳なさそうな顔をしとるわ。別にそんな顔する必要あらへんのに~。

 きっと今もちょいと無理しとるんやろな…。

 

「いやいや、全然大丈夫ですよ。いきなりこんなようわからん状況に置かれりゃそりゃ不安にもなりますって」


 そんな虹白さんをこれ以上不安にさせないようにうちは可能な限り明るい声でそう笑いかける。

 まあ、自分で言うのもなんやけどうちは結構陽気な方やしな。そんなうちならナイーブな虹白さんといい感じに中和されるやろ。

 そして、こんな湿っぽい感じももう終わり。


「ささっ、お好み焼きでも食いましょ。さっきも言うたけど準備できてますねん。ま、元の生地作って野菜切っただけなんですけどね」


「わわっ」


 虹白さんの手を引き、テーブルまで引っ張るように歩く。

 なんやえらい虹白さんの手が汗ばんどる気がする。やっぱまだ慣れないこの状況に緊張しとるんやろな。


「っと、こんな感じですね。百合神の言うとおりホンマに調理器具は充実しとりましたわ。このホットプレートもメッチャええやつですよ」


「えーっと、あの…」


「あっ、さっきの話ぶり返すんはなしですよ。そんなことより飯食いましょ、色々あって疲れて、うちお腹減って減って」


「うん、それもあるけど…あの、手…」


「あっ」


 その虹白さんの言葉でようやくまだ手を繋いだままなことを思い出す。

 あら、結構自然で放すの忘れてもうた。

 というか冷静に考えたら凄いことやな。昨日までテレビ越しで見とった人と手ぇ繋いどるって。


「すんません、忘れてましたわ」


「ううん、謝ることじゃないよ」


 うちが手を放すと何故か虹白さんは少しだけ残念そうな表情を浮かべたような気がした。

 って、いやいやそんなわけあらへんやん。うちの勘違いやろ。

 あかん、百合神のアホに影響受けとるんやろか。


「じゃあ、焼いてきますね。ささっ、虹白さん座って座って」


 アホな考えをそのまま放り捨てるように話題を切り替える。

 さあ、お楽しみのお好み焼きタイムや。

 実家で鳴らした腕の見せ所やで。


「最初は豚玉とかでええですか」


 生地に刻んだキャベツとねぎを混ぜながら虹白さんに問いかける。

 

「うん、私はなんでも」


 そんな虹白さんは感心した様な目つきでうちの手元を見ていた。

 なんやろ? やっぱ東京の人はあんまりお好み焼きとか馴染みないんやろか?


「手際良いね、凄い」


「いやいや、おとんとおかんの手伝いで昔っからやっとったから手慣れとるだけですよ」


「さっき言ってた実家のお手伝い?」


「はい、一応そこそこ人気ある店なんですよ~」


 話しながら、出来上がった生地を熱した鉄板にお玉で流し込む。どうやら、虹白さんも普通に落ち着き張った様子やな。

 よし、まずは二人分ささっと焼いたろか。

 

 ジーッと片面が焼き上がるのを待つ。そして、いい感じになったところでその上に豚ばら肉を並べる。

 それにしても、これ…いい肉やな。


「なんか、これちょっと高そうなお肉だね」


「あっ、虹白さんもそう思いはります。なんや普段使ってる感じとちゃうんですよね。他にも冷蔵庫ん中にメッチャ色々と食材がありましたよ」


 なんとなくやけど、あいつ(百合神)絶対人間界のものの価値とか知らへんと思うわ。

 たぶん全部の食材を最高水準のやつ選んでるんやろな。このねぎとかキャベツもいいとこのもんやろし。

 まあ、うちらからしたらありがたい話やけど。


「百合神様の言う様にただ暮らす分にはたぶん相当充実した生活が送れるようになってるんだろうね」


「たぶんそんな感じでしょうね~。っと」


 お好み焼きの方がいい感じになってきたので、ヘラを取り出す。

 ちなみにこれも言うまでもなくキッチンにあった。調理器具も多分メッチャあるんやろな~。正直うちにはほぼ無用の長物なんやろけど。

 だって揚げもんと粉もんしかできへんし。

 

 まあ、そんなことより今は目の前のお好み焼きやな。

 万に一つも焦がすわけにはいかへんし。

 ヘラを生地の下に忍び込ませ、慣れた動作でひっくり返す。

 うん、我ながら完璧やな。


「お~、すご~い!」


 とそんなうちに対面に座る虹白さんから感心した様な声と拍手が送られる。

 おお、なんや新鮮な感じやな。

 店でやっても、みんな見慣れとるからほぼなんのリアクションもあらへんかったし。

 ちょいと恥ずいけど、まあやっぱ嬉しいもんやな。


「そんなことないっすよ」


 頬をかきつつ、照れ隠しに素早く調味料をとる。

 ベタにソースとマヨネーズと青のりとかつおぶし。


「苦手なもんとかありますか?」


「ないよ、全部大丈夫」


「りょーかいです」


 両面が綺麗に焼けたことを確認して、仕上げの調味料を加えて完成や。


「はい、完成っと」


「おー」


「はい、どうぞどうぞ」


 虹白さんにちょっと小さめのヘラを渡す。

 それを受け取ると、虹白さんは「じゃあ、いただきます」と丁寧に言うて、髪をかき上げながらヘラでお好み焼き掬うとフーフーっと冷ますように息を吐く。

 うーん、やっぱ女優さんはただお好み焼きを食うだけで画になるな~。普通に映画のワンシーンとしてありそうや。


「あふっ、はふっ…!?」


 そして、そのままお好み焼きを口に運んだ虹白さんが熱さと格闘してるのが傍から見てもわかるように食べる。


「ははっ、やっぱ熱いですか?」


「ふぅー、思った以上に熱かった…かな。うん、でもすっごく美味しいよ」


 物凄い綺麗な顔でそう笑う虹白さん。

 …あー、これたぶん、うちが男の人だったら即惚れるやろな。だって、女のうちでも見惚れるレベルなんやから。

 それくらい綺麗で可愛らしい笑顔やった。

 それに、やっぱ美味しいって言うてもらえるのは嬉しいな。


「ふふっ、さよですか。おおきに」


 うちも虹白さんには遠く及ばないだろう笑顔を浮かべながらそんな風に笑う。

 そして、同じくヘラを持ってお好み焼きを食べ始めたのだった。

 

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