Episode-81 『はじめまして、鬼村さん・関西弁JKの場合』
「で、その作戦の概要は名前のそのままということでいいのか?」
「おう、マジにまんまや。まぁ、口より先に手を動かせってなわけで、さてさて実際に試してみよか」
百合神の言葉の端から若干の呆れが感じれるけど、ええわ。実際に華麗に成功させてその鼻明しててやろうやないか。
というわけで、まずは準備段階として夜さんと一緒にたこ焼き器と材料を鬼村桃の部屋の前まで移動させる。
が、さっそくここで躓く。
「あかん、問題発生や。コンセントあらへんやん。百合神、ちょいここに新しいコンセントつくってくれや」
「お前簡単そうに結構なことを言っている自覚はあるか?」
「でけへんの?」
「できるけどだなっ!」
うちの言葉に百合神がパチンと指を鳴らしながら答える。
すると、鬼村のプライベートルームの横の壁がグニャッと歪んだかと思うと、一瞬のうちに新たなコンセントが一つ出来上がった。
「おー、わかってはいたけどやっぱここは自由自在だね」
「ですね~」
それに夜さんが感心したような声を漏らす。
確かに一瞬でつくりよったな。うちが言っておいてなんやけど、早すぎてちょいビビった。
まぁ、何はともあれこれで問題は解決や。
「おおきにな。さて作戦続行や」
一応百合神にお礼を伝えて、再びたこ焼きを焼く作業に移る。
といってもこれは簡単や。さっきテーブルの上で焼いてたのを今度は床の上で焼くだけって話や。
コンセントにたこ焼き器のプラグを差し込み、準備完了。
あとは熱なってきたその上に生地を流し込む。あとは普通に焼くだけや。
「紗凪ちゃん、私にも何か手伝えることはある?」
が、そこで夜さんがそんな声をかけてきてくれる。
「うーん、そですね…。今んところは――あっ」
そのありがたい心遣いに少し考えると、一つ名案が浮かんだ。
そやっ、匂いで誘うんやからもう一つ必要なものがあるやん。
「夜さんはたこ焼きのにおいを室内に送ってもらえますか」
「送る? うちわとかでかな?」
「あっ、そんな感じです。おーい百合神、うちわ出してくれや。あとこの部屋さっき言った様に匂い通るようになってるんやろな?」
「まぁ、それはなっているが…」
煮え切らないような声で百合神が指をパチンて鳴らす。
すると、すぐに天井からユラユラとうちわが一つ夜さん目がけておっこってきた。そのままうちわが狙い澄ましたかのように夜さんの手元に収まる。
よしっ、これで今度こそ準備完了や。
「じゃあ、いきますか」
そう夜さんに目で合図を送ると、クルクルッとたこ焼きをひっくり返す。
そして、そのタイミングにバッチリ合わせて夜さんがうちわで扇ぎ、匂いを室内に届ける。
ふっふっふ、完璧やな。これでやつが出てくるんも時間の問題――とうちは思うとってんけど、
「――でだ、そろそろツッコんでもいいか?」
と百合神から声がかかる。
「ツッコむって何がやねん? ボケてへんぞ」
「ボケてないならそれはそれで問題だな…。そんな二十年前の紙芝居でもあり得なさそうな作戦を真面目に見せられるこっちの身にもなってくれ」
「はぁ? どこがやねん?」
「どこがって…、もう見た目からしてダメだ! なんかもう、ダメダメ感と古さが溢れてる! ぶっちゃけそれで相手が出てくると思ってるお前の頭が心配だ、私は!」
「言いすぎやろ! お前マジあれやぞ、これで鬼村が出てきたらどうすんねん!?」
「あー、ないないない。この世に絶対はないが絶対ない」
「言うたな、お前…! ほんま見てろや、これで出てきたらホンマっ、どないしたろかな」
イライラしながらも、手は動かして出来上がったたこ焼きを舟皿に乗せていく。
…ていうか、これ大丈夫やんな? なんかさっきまでは自信満々やったけどああ言われるとちょい不安んになってくるわ。
「…えーっと、夜さん。夜さんはこの作戦出てくると思います?」
確認の意味を込めて、うちわで扇いでくれている夜さんに問いかける。
すると夜さんは一瞬だけポカンとした顔をしたかと思うと、
「出てくるよ、大丈夫♪」
とグッと親指を立ててくれた。
「ですよね!」
そして、それだけでうちの中の不安はフッと消えた。
フフッ、やっぱ信じるべきは知らへんお面より知ってるお姉さんやで。
という訳で、二舟目のたこ焼きをうちは焼き始めたのやった。
***―――――
すこし時間が経った。
それくらい時間が経ったかというと舟皿が四つほど出来上がるくらいやな。そんで一応やけど言っとくとまだメインルームにはうちと夜さんの二人きり。
「………………」
「………………」
ちなみに数分前から部屋を若干の気まずい沈黙が流れている。
なんっで、出てけーへんねん! 鬼村桃!
ええ匂いせぇーへんの!? お腹すかへんの!?
とまぁ心の声でいくら言っても届かへんのはわかってる。
それにこれ以上つくったらたこ焼きも冷めてまうし、何より食べ切れない量をつくるのは勿体ない。食いもん粗末にするのはあかんしな。
しゃーない、ここらが潮時か。
「おーい、百合神」
「むっ、ようやく諦めたか」
「いや、これから作戦を次の段階に移そうと思う」
「…初耳なんだが?」
「あれ? 言うてへんかったけ、この作戦って最初から二段階構えなんよ」
が、百合神相手に作戦失敗を素直に認めるんも癪やからそんなことを言ってみる。なんや、得意げに煽ってきそうやしな。
そんで即席で考えた二段階ってのは、
「一段階がこの匂いで警戒心をほぐすんや。そんで二段階目がノックして「ご飯できたで」って直接呼びかけるって作戦や」
「おい、ちょっと待て! 完全にそれは別の話になってるだろう、一段階目の意味がないではないか!」
「はい、やかましい。最初から一段階目あってこその二段階や。夜さん、というわけでお願いしまーす」
百合神の詰めを華麗に無視し、夜さんに救援要請を送る。
すると、夜さんは苦笑しながらもノリよく「はーい」とうちわを置いて立ち上がってくれる。
そしてドアの前まで移動しノックをすると、
「おーにむらさん、一緒にたこ焼き食べよー」
そう呼びかける。
そして待つこと数秒。
ゆっくりとドアが開き、不安そうな鬼村桃がメインルームに現れた。
――よし、作戦成功やな!!




