Episode-80 『作戦会議・超清純派女優の場合』
「…あれ? おっかしいなぁ」
横で紗凪ちゃんが可愛く子首を傾げる。
何故かというと呼びかけて数秒経っても百合神様の反応がないのだ。いつもだったらほぼノータイムで応えるのに。確かにちょっと不思議かも。
「…どうした、何か用か?」
と、思っていたらそこで返信が届いた。
あれ? 心なしかちょいとお疲れ?
ふと百合神様の声からいつもと違う感じを受ける。
「あ? どないしたん、風邪か?」
そして、その異変を感じ取ったのは紗凪ちゃんも同じだった様でそう直球で問いかける。
すると百合神様は「ん、ああ」と少し言い淀むと、
「――いやなに、さっきまでここに邪魔者が来ていてな。余計なちょっかいをかけられても面倒だからお前たちと通信を繋げる前に元の空間に強制送還していただけだ」
「…はい?」
「…なんやサラリととんでもないこと言うてない?」
それは非常に同感。
こっちで私たちがキャッキャウフフ展開しているうちに、もしかして百合神様の方はバトル展開なの?
「まぁ、お前らの気にすることではない。もちろん、そちらには影響は一切ない」
しかし、百合神様は特段気にした様子もなくいつも通り振る舞う。
おそらく百合神様の言う様に予期していない事象で私たちの百合百合空間に影響が出るのは望ましくないのだろう。
私も思いは一緒だ。ちょっぴり気にはなるけど、それよりか紗凪ちゃんとの関係の方が百倍大事。
「へぇ~、神様の世界も色々とありそうですね。ま、でも影響がないならいいか。ささっ、こっちも本題に入ろっか」
というわけで、紗凪ちゃんに話を進める様に促し、百合神様に援護射撃を送ることにした。
そして「そうだな、呼んだからには何か用件があるのだろう」、と百合神様も私の発言に乗っかる。
ナイス、私。
「あー、そやそや。聞きたいこと一個とあと場合によっちゃお願い一個や」
紗凪ちゃんもまた私たちの会話の流れに乗って、そう当初の目的を切り出した。
なんか心理誘導しているみたいな感じがするけどこれは仕方ない。ごめんね紗凪ちゃん。
「ではまず聞きたいこととはなんだ?」
「うん、あのプライベートルームについてなんやけど、こことあん中って普通のドア越しみたいな感じなん?」
「どういう意味だ?」
「いや、前からなんとなーく思うとってんけどあん中におるときって不思議なほど外の音聞こえへんねん。うちが中におって夜さんが外におるときもあるわけやのに」
その紗凪ちゃんの指摘に百合神様はどこか感心したように「ほぉ」と声を漏らす。
ふむっ、確かにそれは私もちょっと感じてたかも。中にいると外の音が聞こえてこないんだよね。
「相変わらず変なところに鋭いな。そして、その疑念は正しい。傍目に見ればドア一枚を挟んだだけにしか見えないが基本的にプライベートルームは文字通り個人の空間と定めているためメインルームとは隔絶されている。音も匂いもその他もドアが閉まっている間は漏れもしないし入ってもこない」
「おー、やっぱな」
「ただし、一つの条件を除けばだがな」
「条件?」
百合神様の言葉に紗凪ちゃんの顔にクエスチョンマークが浮かぶ。
条件? なんだろ?
「なんだと思う、虹白夜」
「えっ、私ですか…!?」
と紗凪ちゃんと同じく疑問に思っていたのだが、そこで百合神様が私に話を振ってきた。
私に聞く。その行動の意味は何となわかる。百合神様の性格からして全くのゼロから考える様な問いをいきなり投げかけてはこないはず。つまり、私のこれまでのここでの生活の中にその正解を導き出す何かがあるはずだ。
「うーん」
考えろー、考えろー。
「もし正解ならば、小娘のお願いとやらはよほど突飛な事でない限り叶えてやる」
「おー。夜さん、お願いします頑張って。ちなみにうちは全くわかりません」
しかし、そこで思わぬ百合神様の提案で紗凪ちゃんからの拳を握りながらの可愛いエールが飛んできた。
ちなみに紗凪ちゃんの言葉に「一応お前も同じくらいヒントは持ってるんだがな…」と百合神様が呆れるがそこはどうでもいい。
何故なら紗凪ちゃんからの応援――それだけで私の脳内CPUの処理速度は三倍速になるのだから。
考えろー、考えろー、紗凪ちゃんの笑顔のためなら私は――――あっ!
「あっ!」
そこで心の声がそのまま口に出た。
答えがわかったからだ。というか私はそれを体験している。
「――ノックだ」
私の言葉に百合神様が心なしか満足そうに頷く。その行動は私の答えが正解であることを証明していた。
そう思い返せばあれは初日。私が百合神様の考えに涙して部屋の電話から百合神様に百合について熱く語っていた時、紗凪ちゃんがお好み焼きができたことを伝えてくれた声は私の耳に届いた。そして、礼儀正しい紗凪ちゃんはそれを伝えるとき確かにノックをしていた。
その記憶が私を答えに導いた。
「うむっ、正解だ」
「うわっ、凄い!! やっぱさすがです、夜さん!」
「えへへ~」
いや~、まさに二人の積み重ねの勝利だね。
まだ大して時間は経ってないけど、まるでこの二人で歩んできた日々に無駄など一切ないことを証明しているかのよう。
ふふっ、ふふふふふっ…♪
「――さて、約束通り。願いを叶えてやろう、言ってみろ」
そんな心の声で一人感極まる私を尻目に百合神様から紗凪ちゃんにそう声がかかる。
「あー、まぁ別にそない大したことでもないんやけど。あの鬼村桃さんのプライベートルームを一端その条件から外してほしいねん。それも匂いだけな」
「?」
「?」
その紗凪ちゃんが発した言葉に今度は私と百合神様にクエスチョンマークが浮かぶ番だった。
しかし、私たちのその反応には気づかなかったようで紗凪ちゃんは自信たっぷりにグッと拳を握ると、
「つまり、ええ匂いでやつを自分から部屋の外へ出させる作戦ってわけや。名付けて、『びっくり! 焼き立てたこ焼きに誘われ大作戦』や!!」
そう高らかに宣言した。
おぉー、これはまた難易度高そう。でも、まぁ紗凪ちゃんが可愛いし一切の問題なし♪




