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Episode-78 『作戦会議・人見知りヤンキーの場合』


 あー、やっちゃった、やっちゃった、やっちゃったよー。


 全身をベットに投げ出し、身体の力の一切を抜いてアタシはうつ伏せになっていた。

 でも、正直これはしょうがないと思う。だって今日一日で色んな事が起こり過ぎなんだもん。アタシの貧弱な脳みそじゃとてもじゃないが許容しきれない。


 そう今日という日が始まってまだ半日だが、どう考えてもこの密度はおかしい。

 衝撃に次ぐ衝撃に次ぐ衝撃だ。

 

 まず朝起きていきなり神様の指令でメインルームに二人そろって集められた。そして、二泊三日で他のペアと同居するということを知らされたのだ。

 ぶっちゃけそれだけでそこそこの衝撃だった。そもそもアタシ達の他にこんなよくわからない状況下にいる人たちがいるなんて思いもしなかったしね。


 しかし、そこまではまだいい。まだ脳は正常に動いていた。

 それにここに来てからは相方さんとの世間話とも言えない凄まじく短い会話ぐらいしかしてなかったから、別の人と話す機会が与えられたのはちょっぴり嬉しかった。人見知りだから自分から話しかけるのは難しいけど…。

 でもあっちから話しかけて来てくれればアタシは意外といけちゃうタイプなんだな、これが。


 だが、悲しいことに受難は続いた。

 メインルームに大きな扉が現れ、アタシ達を宿泊学習の部屋へと誘った。

 そして、そこにいたのはアタシと同じくらいの歳の女の子。こっちは全然いい。むしろ「歳が近いから話しやすそ~かも」とちょいと嬉しかったぐらい。

 でも、その横にいたのがまさかの超人気女優――虹白夜だった。最初は「あれ? どっかで見たことが…」的だったのだが数秒遅れて「…えっ? あっ、ええ!? にっ、虹白夜!?」とその事実に気付いた。

 勿論会ったことなどない。しかし、芸能人だよ! テレビで何回も見たことある人だよ!!

 神様に謎の空間に閉じ込められそこでの宿泊学習で有名人と会うという恐ろしい程の偶然。それによりアタシの緊張メーターがグーンと一気に上昇した。


 そして、極めつけは


「ああっ! 二ノ前先生!!」


 アタシの相方さんを見て、虹白夜が発したその言葉。


 その時点では心の中で「え?」と思っただけだった。

 先生? それに二ノ前? …いやいや、ありえない。


「うん、私が出たアニメの原作があの人のデビュー作だったの。というか、この前紹介したあの少女漫画も作者はあの人だよ。漫画家の先生で二ノ前ユキさんって言うんだけど――」


 が、続く言葉でアタシの疑念がほとんど確実なものとなってしまった。

 思わず「えっ!?」と大きな声が出た。しかし、いつもなら意識せずにそんな声を出してしまえば恥ずかしくてしょうがなくなる様なアタシだったがそのときばかりはそれより衝撃が勝った。


「えっ、えっ…!? にっ、二ノ前先生…? あなたが…?」


 ギギギッとロボットの様にカクカクした動作で横を向き、震える声で問いかける。

 返ってきたのは肯定の言葉。さらに確認のため何度か質問を続けるが返ってきたのはいずれも肯定。

 そして、その作業をくり返すうちに顔に血液が集まっていく熱さを段々と私の脳が認識し始めていた。


 ……嘘でしょ。―――うん、これはもうだめだ!

 そう思った瞬間に、須能さん改め二ノ前先生から同じくカクカクしながら視線を外すと、


「し、失礼します!!」


 ガバッと残り二人に頭を下げるとアタシは自分の部屋へと直行した。ちなみに一回別の人の部屋に入ろうとして、関西弁で注意されてしまった…。


 そんなこんなで今に至るという訳だ。

 あー、絶対変なやつだと思われた。接し辛いやつだと思われた。まぁ実際そうなんだけど!

 

「うーん、ん?」


 伸ばした手が何かに当たる。

 突っ伏した顔を上げると、そこには一冊の漫画本。勢いよくベットにダイブしたせいで横の本棚から落ちてしまったのか『スター・マリッジ』の三巻だった。

 そして、当然ながらその背表紙には作者の名前が書かれている。二ノ前ユキと。


「あー…」


 それを見た瞬間に何とも言えない感情が胸を揺らす。

 

 正直、アタシにとって二ノ前ユキという漫画家先生は神に近かった。百合の神様なんてよくわからない存在よりかずっと神様に近い。ずっとアタシの勇気であり、希望であり、楽しみであったのだから。

 まぁ、実際には神様などではなく人間なことは勿論わかっているけど何というか自分の様な凡人とは違う世界の住人だと勝手に思っていた。

 

 そんな人ともう何日かも一緒の空間で暮らしていた。その事実が衝撃的すぎて未だに混乱から抜け出せない。

 勿論、思っていた人とは違ったけど別に失望とか悲しみとかそんな思いは全くと言っていいほど湧いてはこない。ただどうしていいかわからない困惑と大好きな人にありのままの素を晒し続けていたことに対する「うわーっ、やっちゃったぁ」的な羞恥がどうしよもなくアタシの心を満たしていた。

 

 あぁーもう、ここにいる間はいいとして元の二人きりの部屋に戻ったらどんな顔で接すればいいのー!?


 寝っころがったままに、意味もなくベットの上をゴロゴロと右に左に横移動し続ける。

 あー、どうしよどうしよ! ゴロゴロ~、ゴロゴロ~!


「――って、ふぎゃっ!?」


 そして、右に転がるときに勢いをつけすぎてベットから落下した。

 アホすぎる…。自分に呆れるよ、まったく……ん?


 が、ベッドから落ちたところであることに気付いた。

 ん? すぅーっ、あっ良い匂い。

 何処からか食べ物の良い匂いが香ってきている。…ん? でもアタシの部屋に食べ物なんて――、


 そこで、――コンコン、とノックの音が響いた。


 それに続く様に、


「おーにむらさん、一緒にたこ焼き食べよー」


 透き通るような美しい声がドアの向こうから聞こえてきた。


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