Episode-71 『ランクインと大事な話・関西弁JKの場合』
「はぁ? 百合の箱庭カップルベスト5? いきなしこんな歌番組で歌手がサビ歌うときみたいな量の紙吹雪浴びせかけながら何をよーわからんこと言うとんねん」
唐突に全身をクラッカー?から飛び出した紙吹雪まみれにされたうちは当然ながらその意味について百合神を問い詰める。
げっ、なんか口ん中にも入ったわ。あー、もう…なんやねんこいつ…!
「…お前は本当に察しが悪いな。少なくともさっきの私の言葉に対する第一反応はそれではないだろうが」
が、何故かそんなうちに対して百合神は呆れ声。
「なんでそんな反応やねん! えーか、いまどっからどう見てもお前の方が突飛な行動しとるからな」
「そんなことはわかっている。わかっている上で、それを凌駕する衝撃があるってことだ! あー、もうわからん小娘だな。いいか、さっき私が言った言葉をもう一度見せてやる、それをリピートしてみろ」
そう言いながら百合神がパチンと指を鳴らす。
見せる? 聞かせるじゃないんか? とツッコもうと思ったが、その答えは聞くよりも先に現れた。
テレビの画面に文字が映し出される。そして、そこにはさっき百合神が言った言葉がそのまま書き起こされていたからだ。
「えっ、これうちが読むん? なんか恥ずいんやけど」
「いいから!」
「…ほーい」
一瞬躊躇するが、早くしろ的な百合神の雰囲気に押されてしぶしぶとその文字列をしっかりと見る。
んー、なになに?
「おめでとさん、お前たち二人が現時点での百合の箱庭カップルベスト5にランクインしたいうことをここに発表するわ、ってな感じか」
「…なんでお手軽関西弁翻訳がセルフでかかっているのかは不明だが、そこにツッコむのも面倒だ。それでいいだろう。で? どう思った?」
うーん、どう思った言われてもな~。
「そりゃ、うちと夜さんの共同生活ん中のコンビネーションと息の合いっぷり言うたら中々のもんやしな。ベスト5いうんも妥当やろ。ねっ、夜さん?」
「うっ、うん! そうだね♪」
そう横の問いかけると、少し驚いた顔をした後に夜さんも笑顔で頷いてくれる。
しかし、百合神の方はというと、
「いやっ、そうなんだけど…! えっ、これ私がおかしいのか? 結構衝撃のカミングアウトしてると思うんだけど…?」
何故かホンマに困惑の真っただ中みたいなリアクションをとっとる。
「…――よし、わかった。もう一から十まで説明することにする。さりげない言葉で察してくれると思った私が愚かだった。いいか、よく聞けよ。特にそこのお前だ、関西弁鈍感系主人公属性女子高生」
「だれがやねん! そんで長いわ、関西弁と女子高生しか合ってへんやろ!」
「あー、はいはいそうね。じゃあまず、簡潔に言うと――」
「つーか今さらツッコむんは野暮なのはわかっとるけど、お前もう初期の神っぽい喋り方完全にかなぐり捨てとるな」
「野暮だとわかってるなら言うなよ! それに普通に私の言葉を遮るな!」
「すまんすまん、唐突に気になってもうたんや。堪忍な」
「…まったく」
そうハァーっと仮面の下でごっつでかいため息をつく百合神。
うん、まー今のはちょいうちが悪いな。でもホンマ唐突に気になってもうたんよ、ほならしゃーないやん?
「仕切り直すぞ。――でだ、簡潔に言うと私の観察下の元で女子二人で共同生活を送っているのはお前たち二人だけではない。他にも多数のペアが別の空間にあるお前たちが今いるのと同じような部屋で暮らしているのだ」
「なんやてっ!?」
「うむっ、やはり気づいていなかったか。改めて言って正解だったな。ベスト5と言った時点で他に四組いるのではと気づきそうなものだがな…」
「それは…あれやん! お前が今まで生きてきた中で見てきた…そのカップルと比べてきたと思うやん!」
…つーか、地味にカップル言うのも恥ずいんやけど。コンビとかでえくない?
「…まぁ、そういう考え方もあるにはあるか」
「せやせや、そんなこと普通気付くかい」
「そうか? どうやら反応からしてお前の隣は感ずいていた様にも見えるぞ」
「えっ!?」
百合神の思わぬ言葉に反射的に夜さんの方を振り返る。
すると夜さんはそんなうちの顔を見ながら「えへへ」と困った様に笑った。
「前からさ、紗凪ちゃんも百合神様が何かを隠してるって言ってたでしょ。私もそれってなにかなぁ~ってたまに考えてたんだ。それがさっきの百合神様の言葉でそれが偶然上手いこと繋がってハッとした的な感じかな」
「はぇ~」
少し照れたようなその夜さんの言葉に思わず、そんな感心の声が出る。
ほんで言葉の節々から気づかなかったうちに対するフォローっぽいのが挟まっとる。…ほんまええ人やで。
「ごほん、…まああれや。夜さんみたいにすっごい頭ええ人はそら気付くやろ。夜さんの頭の良さ舐めんなや、とりあえずうちと同列っぽく語って比べたらあかんわ」
「変わった自虐の言い回しだな…。はぁー、とりあえず話を戻すぞ。それで要はお前たちと同条件下にいるその多数のぺアの中でお前たち二人がトップ5に見事ランクインしたという訳だ」
「おぉ~」
なるほど、なるほど。
つまり、それは結構ええことなんか? その多数のペアが何人かは知らへんけど、同じ条件で上五人に入ったんなら大したもんやろ。
うん、これはええことやろ。つーわけで、
「よーわからんけど、やりましたね夜さん。いえーい」
「ん? あっ、ちょっと待って。いっ、いえーい!」
と横にいる夜さんとハイタッチを交わす。
ふっふっふ、唐突なハイタッチにもこの息の合いっぷり。我ながら、いや我らながらさすがベスト5やな。
「うむっ、理解できたようで何よりだ」
「ああ、ほんで本題の要件は何やねん?」
「ん?」
再び百合神との会話に戻った瞬間のうちの問いに百合神が首を傾げる。
しかし、
「いや、この発表のためだけに呼んだんとちゃうやろ。大事な話なんて連絡寄越すわけやから、他にも何かあるんとちゃうの?」
「―――――」
うちの言葉に百合神がなんとなく驚いた様に押し黙る。
そのままほんの数秒くらい沈黙したかと思うと、
「全くお前は鈍いのか鋭いのかわからんな。キャラをもう少し安定させろまったく…、急に核心をつかれて驚いたではないか」
「やっぱ驚いてたんかい、仮面かぶっとるからいまいちわからんねん」
「ああ、お前の言うとおり。大事な話はこれからが本題だ。…本来神たる私がお前たちにこんなことを言うのは理に反するのだが、計画の成功のためには喜んで恥を捨てよう」
「?」
「?」
その今までにない百合神の様子にうちも夜さんも自然と少し身構える。
しかし、
「命令でも指令でも助言でもない、私からお前たちにとあるお願いがあるのだ」
「「お願い?」」
続いて百合神の口から出たのは予想外のそんな言葉やった。




