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Episode-70 『ランクインと大事な話・超清純派女優の場合』


「紗凪ちゃん知ってる? 歯ブラシの起源は今から大体五百年くらい前の中国なんだよ」


「へぇ~、初耳ですわ。ちゅーか、それまでは歯ブラシ無しってことですよね。今の生活からしたら考えられませんよね。ぶっちゃけ、歯磨き粉無い時点でうちはだめですわ」


「うん、毎日使ってるとそれが当たり前になるしね。現代人にとっては歯磨き粉なしの水だけ歯磨きは何か抵抗あるよね~」


 色々あったお花見から一週間ほどが過ぎ去ったが、私たちは相変わらずの仲良しっぷりを発揮していた。今日も今日とて私が仕入れたばかりの雑学を紗凪ちゃんに話しながら二人並んで朝の歯磨きの真っ最中である。

 いやぁ~、紗凪ちゃんが感心してくれるから日々の何気ない雑学やらうんちく集めが捗ってしょうがない。


 ちなみにお花見以降イベントルームの開放は無く、同様に百合神様からの連絡もない。つまり、モニター越しのお面姿ももう一週間も拝めていないと言いうことだ。勿論、紗凪ちゃんと百合神様の日常茶飯事になりつつあった喧嘩もだ。

 

 まぁ、別にそれ自体は問題ではない。私は紗凪ちゃんさえいればオールオッケーだし、こうして二人で過ごす何気ない日常が大好きだから。

 しかし、まぁぶっちゃけ軽く暇ではある。私も紗凪ちゃんもだ。

 あれだろう、大型連休が始まって二十日ぐらいたった帰宅部の学生の気分だ。ちょーっと暇を持て余し始める的な感じ。


 まぁ、メインルームとプライベートルーム、そして運動場。お風呂とトイレを除けばいる場所はこの三つに限定されるのだから、時間が経てばやることも少なくなるのは自明の理だ。

 う~ん、さっきも言った様に私は紗凪ちゃんさえいれば暇だろうが何だろうが全然大丈夫だが、紗凪ちゃんの方はそうでもないだろう。アグレッシブなタイプだしね。

 今日あたりに百合神様に連絡とって新しい娯楽用品とか取り寄せてもらおっかな。

 何がいいかな~、ベタに二人でできるテレビゲームとかいいかもしれない。


 そんなことを考えながら歯磨き粉をピョッと吐き出して、口をゆすぐ。すると横にいる紗凪ちゃんも同じタイミングで歯磨きをちょうど終えたところだった。


「ふぅ~、さてと今日は何しましょか?」


「う~ん、そうだな~」


 と、内心に浮かんだ娯楽計画のことは秘密にしながら紗凪ちゃんと一緒に洗面所からメインルームに出る。


「んー、なんやありますね」


 が、しかしそこで予想外のことが起こった。

 紗凪ちゃんが台所のテーブルの上辺りをを見ながらそんな声を漏らす。その言葉通り、テーブルの上には一枚の紙が置かれていた。

 

「ん? あれって?」


「なぁーんや、見たことあるパターンですね」


「ふふっ、どうか~ん」


 どうやら私と紗凪ちゃんの予想は同じらしい。と言っても、できる予想など一つしかないのだから当たり前っちゃ当たり前か。

 そう、その紙はほぼ間違いなく百合神様の連絡事項だろう。お花見の時以来だ。


「また、新しいイベントルームかな?」


「お花見から一週間ですからねぇ~、他に春の季節柄のイベントいうたらなんでしょう?」


 二人でそんな会話をしながらテーブルまで歩く。

 が、


「「ん?」」


 そこにあった紙に書かれていた文字は私たちの予想とは違っていた。

 そこには、


『大事な話があるのでテレビの前に集合せよ』


 とだけ書いてあったのだ。


「…じゃあ一応行ってみる?」


「そですね、今までにないパターンですね」


 とりあえず断る理由もないので二人でテレビの前のソファまで移動して、そのまま腰を下ろす。

 するとまるで私たちがソファに座ることがスイッチであったかのようにパッとテレビの電源がついた。そして、予想通りというかなんというかその電源の入ったテレビ画面にはいつも通りのお面姿の百合神様が映っていた。


『久しぶりだな』


「は? 別にそこまでやないやろ、一週間ぶりや」


『…ふむっ、そんなものか。お前のやかましいツッコミを聞かないだけで時が穏やかに過ぎ去るのかもしれないな、もっと長い月日が経っているものと勘違いしていた』


「…ほっほーう、あれか? 大事な話ってうちに喧嘩売りますって伝える連絡かいな?」


『神の小粋な冗談だ、冗談。それにしても貴様はすぐに腹を立てるなぁ、若いのにカルシウムが足りていないのではないか? 冷蔵庫には牛乳が常備されているはずだが』


「安心せぇ、腹立つんはお前だけや」


 そして、さっき言ったばかりの毎度おなじみの百合神様と紗凪ちゃんの言い合いが始まる。

 うん、なんかもう話し始めはこれが無いと落ち着かないぐらいに感じるよ。流石、相性最悪コンビ。いやっ、ある意味相性がいいのかな? 喧嘩するほど仲が言い的な?

 むぅー、それはちょっと嫉妬してしまいますよ百合神様。


『さて、そろそろ本題に入るか。大事な話があるのは本当だからな』


 と、そこで百合神様が紗凪ちゃんとの話を切り上げて話を元の路線へと戻す。

 そして、『どこにおいたのだったかな?』とおもむろにごそごそと何かを取り出す様にテレビの中で動くと、今度は『あったあった』とクラッカーのようなものを手身持って再び元の位置に戻る。

 というか、クラッカーのようなものというより完全にクラッカーだね。ちなみに食べ物の方じゃなくて誕生日会とかで使う方のクラッカーだ。


「…クラッカーかな?」

「…クラッカーですね」


 コソコソッと二人で話す。

 うん、もう一度言うがどう見てもクラッカーである。そして、それを百合神様はテレビの向こうで私たちに向けて鳴らそうとしている。

 これも一応言っておくが鳴らす理由は完全に不明だ。そして画面越しのクラッカーってシュールだな~、と思っていたのだが、


『おめでとう!』


 その百合神様の主語を含まない言葉と共に、


 ――パンッ、という豪快な音と共にテレビの後ろの何もない空間からまるで巨大なクラッカーを鳴らしたかのように紙吹雪とリボンが飛び出してきた。


「「うわっ!?」」


 突然のその現象と予想以上に多い紙吹雪とリボンが頭から降りかかり、二人してそんな間抜けな声を出してしまう。

 そしてそんな紙吹雪&リボンまみれの私たちに、


『お前たち二人が現時点での百合の箱庭カップルベスト5にランクインしたことをここに発表しよう』


 百合神様の若干テンション高めの声が続けて降りかかった。


 ………あれ? ちょっと待って、ベストカップルって…私たちの他に人がいることを暗に言っちゃってない? それって…秘密なんじゃなかったでしたっけ?

 

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