Episode-66 『彼女の知らない花見の続き・関西弁JKの場合⑤』
「う~ん」
夜さんの思わぬ提案に少し言葉に詰まる。
何故唐突にそんなことを? という思いはもちろんあるがそれ以上に、
「ねぇ~、お願いお願い」
「いや、別にそれ自体は全然ええんですけど…別におもろいもんありませんよ、それにここきてから掃除してへんから汚れてるかも――」
「全然大丈夫!!」
「さっ…さよですか」
おおぅ、なんややけに押し強いなぁー、夜さん。
ん? でもそうか。よー考えたら、うちは初日に夜さんの部屋を見てもうて、ここにある部屋は全部入ったことになっとるけど、夜さんからしたらうちの部屋だけ入ったことはないわけや。
そりゃ気になるっちゃ気になるか。それに酔いがプラスされて、そう実際に口に出してみたと。
なるほどなぁ~。つーか、別に普通の時に言ってくれても全然よかってんけど。
まあ、何にせよ見たい言われたら見られて困るものも別にあらへんし断る理由はあらへんのよな。…ちょいと恥ずいっちゃ恥ずいけど…。
「よし、じゃあほなら行きますか。うちの部屋へ」
「やった~」
そう言って未だに夜さんをおぶったままでイベントルームの扉からうちのプライベートルームまで歩いていく。
そして部屋の前まで着いたところで、
「じゃあ、降ろしますね」
「…はぁーい」
背中から夜さんを降ろす。
心なしかうちの背中から降りるときの夜さんの声が残念そうに聞こえたんやけど…まあうちのいつもの勘違いやろ。
そんなわけで夜さんを降ろすと、自分の部屋のドアノブを握って
「…ハハッ、何か注目されると若干緊張しますね。はいどうぞ、これがうちの部屋です」
少し照れくさくなりながらもそうドアを開けた。
うちにとっては見慣れた、それどころか今日の朝も起きた部屋。
なんやけど―――、
「おおっ…」
夜さんにとっては違ったようで部屋の一歩手前でうちの部屋を眺めながら、まるで芸術品でも見るかの様な壮大な吐息を夜さんは吐いていた。
うん、大げさって言葉の一番ええ例やな。
そんな感動するようなもんでは絶対にないはずなんやけど…。まあ、夜さんが喜んでくれてるんやったらええか。
「ここにおってもしゃあないんで中に入りましょ」
そして、そのまま立ちっぱというわけにもいかんのでうちが先導する形で部屋に入る。
自分の部屋なのに夜さんと一緒におるいうだけでちょいと新鮮やな。
しかし肝心の夜さんはというと、
「おおおっ…」
と両拳を握りながらメインルームとうちの部屋の間、ちょうどドアがある辺りで何故か未だにうちの室内に見入っていた。
もっかい言うけど絶対にそんな感動するもんやないですよぉー、夜さーん!!
何がそんなにお気に召したのか、よほど嬉しいらしい。何故それが分かるかというと、夜さんの表情が普段より生き生きとしとるから。
――が、生き生きとしすぎたのか、そこで悲劇が起こった。
フルフルと喜びに打ち震えるかのごとく拳を握る夜さん。
その瞬間に不思議と私は嫌な予感がした。が、その時点ではその予感が何を意味しているのか解らなかった。
そして、わからなかったからこそ数秒後に強制的に答え合わせをするはめになってしまった。
「紗凪ちゃんの部屋だ~~!!」
うちが部屋のドアを開けてから初めて夜さんが「お」と「っ」以外の音を口から発した。
そして、それと同時に夜さんは何故かその場でジャンプをしたのだ。
だが、ジャンプをすること自体がダメだったわけではない。その位置がよくなかった。
さっきも言ったように今、夜さんが立っているのは本来ドアがある位置。そんな場所でジャンプなんてしようものなら、――当然、天井に思いっきり頭をぶつけてしまうわけで…。
その瞬間にドガッと頭と固いものがぶつかる派手な音が鳴った。
そしてそれに続くように、
「いったぁ!?」
と夜さんの絶叫が木霊した。




