Episode-61 『彼女の知らない花見の続き・関西弁JKの場合』
しっかし、夜さんお酒好きなんやな。
飲む前はちょいと躊躇してるようにも見えたんやけどうちの気のせいやったみたいやな。
最初の一杯を飲んでからは、ホンマ美味しそうにしながら飲んではるわ。
まぁ、用意したこっちやからはそれはメッチャ嬉しい。嬉しいんやけど一点、問題とまではいかんけど少ーしだけ気がかりなことがある。
「いやぁ~、幸せだなぁ~」
「そですか。それは良かったです」
「う~ん、これも紗凪ちゃんのおかげ♪ ありがと~♪」
と、結構夜さんの様子が通常時とは変化してきとる。具体的に言うと声のボリュームが若干上がり、陽気になっとるわけや。
夜さんがお酒を飲みだして一時間経つか経たないかくらいやろか。うちがとってきたお酒のビンも開封されてないのは残すところあと一つになっとるし、夜さんにも中々に酔いが回ってきてるいうことやろな。
でもちょいと意外やったな。夜さんって思いのほかわかりやすく酔っぱらうねんな。これって酔いさめたときとかおぼえとるんやろか?
「今さらですけど、夜さんって普段もお酒は結構飲まはるんですか?」
「そんなに飲まないかなぁ~、まあ人並くらいだよ。ほとんど家で一人でだけどねぇ」
「え、そうなんですか? お仕事の打ち上げとかで飲んだりとかは?」
「しない、しない。私はそういう場はほとんど顔出しだけして即帰宅しちゃうからねぇ~。お父さんお母さんからも人のいるところでお酒飲むなー、って言われてるしねぇ」
「あっ、そうなんですか。……ん? でもそれじゃあ今って…」
「紗凪ちゃんはいーの! 心から信頼してる人ならいいって言われてるんだ~」
「ええっ…と、そこまで思ってくれとったんですね。なんやおおきにです」
…あかん、不意にそんなことを言われてドキッとしてもうた。それに酔うてるからこそ、夜さんの言うてることの本音感が強い。
そこまで信頼してくれてるんやなぁ…。うん、普通に嬉しい。
だからこそ夜さんも酔うのを気にせずグビグビお酒を飲んでると思うと、それもまた地味に嬉しい。
それがうちの本音なんやけど…でも、
「それはそうと…とってきたうちが言うのもあれですけど、ちょいと飲み過ぎちゃいますか? それでもうラストですけど…」
いつの間にやら今のやつを飲み終えて、最後の一つを開けようとしている夜さんに向けてそう問いかける。やっぱちょいと心配ではある。
まぁ、あからさまに体調を崩すレベルで飲み過ぎって訳やないやろし、一気飲みとかをしてはるわけやないねんけど。どーも、この前に百合神に聞いた話が頭に残っとんねんな。
あいつ、夜さんのアルコール耐性は平均程度って言うてたよな…? ほんで夜さんが飲んどる量ってその平均程度の人が飲んで大丈夫な量なんやろか…?
「大丈夫、だいじょーぶ。私なら平気だし、それに紗凪ちゃんが頑張って取ってきてくれたお酒だもん、この一番美味しく飲める最高のシチュエーションで飲ませて頂きますです♪」
が、夜さんは全然気にした素振りなくそうグッと拳を握る。相変わらずテンション高い。
…まあでも、本人が大丈夫言うんやから大丈夫なんやろか?
―――うん、そやな。ここは夜さんを信じよか。
「ん? どないしました?」
と、うちがそんな考えをまとめたところで夜さんが開けたお酒のビンを右手に持ってこちらへと差し出してくる。
その意図がわからずにそう問いかけると、
「紗凪ちゃ~ん、ついで~♪」
夜さんがそんなことを言ってきた。確かに夜さんの左手にはグラスが握られとる。
その突然のお願いに、
「ふふっ」
「むぅ、なんで笑うのぉ~?」
「いや、すんません。いつもの夜さんのイメージとちょい違いましてね。うん、でもまた違った一面を見れてこれはこれで貴重な体験やもしれませんね」
思わず笑ってもうた。どうやら夜さんは俗に言う絡み上戸とか甘え上戸とかそんな類らしい。
そんな夜さんの新たな一面を発見しつつ、「お安い御用です」と夜さんの手からビンを受け取る。
まぁ、もしも万が一これで夜さんが酔っぱらいすぎて気分悪くなってもうたとしても、最終手段として百合神に救助要請すればええ訳やしな。
そして、そんなことを楽観的に考えながら最後のビンのお酒を夜さんのコップへとついだ。
…あかん、また間違えた。コップやのーてグラスやった。




