Episode-57 『花見本番・超清純派女優の場合②』
あ~、幸せ~。
あ~、幸せ~。
あ~、幸せ~。
三回脳内でそう繰り返しても、言い足りない。
もっかい言っとこうかな。
あ~、幸せ~。
――よし、満足。
目の前でお弁当のおかずをパクパクと本当に美味しそうに食べてくれる紗凪ちゃんをずっと眺め、時折桜も眺めつつ私は花見を存分に満喫していた。
と言っても、割合的に紗凪ちゃん9.7の桜0.3ぐらいなため、もはやそれを花見と呼んではダメな気がする。
私が今楽しんでいるこれには『可愛い紗凪ちゃんwith桜』、『紗凪ちゃんの笑顔に桜を添えて』的な新しい呼称を生み出した方がいいかもしれない。『パクパク紗凪ちゃんの桜の花びら乗せ』とかもいいかもしれない。
そんな風に頭でお馬鹿全開な思考をしている私だったが、
「ふぅ~」
とそこで紗凪ちゃんが一息つくように息を吐く。
そして、四六時中紗凪ちゃんのことを思っている私のカンというのは馬鹿にならないものでその瞬間に紗凪ちゃんが何となく喉が渇いているということが察知できてしまった。
お弁当の入っていた包みから水筒を取り出す。私に抜かりはないのだ。
「はい、どうぞ」
「あっ、おおきにです。ちょうど飲み物欲しかったんですよ」
「うん、そんな気がしてた」
そんなやり取りをしながら紗凪ちゃんにコップを手渡す。
そして、紗凪ちゃんは私のついだ冷たいお茶を一気に飲み干すと、「う~ん、美味しい」と白い歯を見せてくれた。
それに再びキュンとする。
何となく気づいてはいたが、私はこの一週間で自分のつくった料理を紗凪ちゃんに心から美味しく食べてもらうことの幸福感に目覚めつつあった。
紗凪ちゃんが喜んでくれるのも凄く嬉しいが、私の手で生まれた料理が紗凪ちゃんの日々を元気に過ごすための栄養となっているという事実に喜びを感じている私がいる。
…うん、また若干気持ち悪くなってるな私。
でも、まあ事実だからしょうがない。
こういうのはなんて言うのだろう。
胃袋を掴まれるの逆バージョン。胃袋を掴む? いや、言葉は反対になっているが意味合い的には違う。胃袋を掴まされると言った感じがとりあえず一番正しいかもしれない。字面だけ見ればバイオレンスだね。
まあ、綺麗な感じに言うのならば紗凪ちゃんは私に料理の本当の素晴らしさを教えてくれたということだね。
料理はそれを食べてくれる相手がいて初めて完成するのだ。
…あっ、なんか今のベタな名言っぽいセリフ!
「そうだ、夜さん」
と再び毎度恒例の頭の中で独り言を垂れ流していた私に紗凪ちゃんから声がかかる。
それを言う紗凪ちゃんはちょびっとだけの不安と楽しさが同居している様な少し複雑な表情をしている。
? なんだろ?
「うん?」
「お弁当のお返し…といったら少し変かもですけど、うちも夜さんのために用意しとったものがあるんですわ」
そう言って紗凪ちゃんが「よっと」と腰を上げ、そしてシートの端に置いてあったクーラーボックスを取ってきた。
「えっ!? あっ…それ」
そう、確かにそのクーラーボックスはずっと気になっていはした。だって明らかに目立ってたしね。
でも、まさかそれが紗凪ちゃんが私のために用意してくれていた物だったなんて…!
紗凪ちゃんなんていい子なの!! もう、こっちは見る前から感無量だよ。
「お口に合えばいいんですけど…」
そんな風に言いながら、紗凪ちゃんがクーラーボックスの口を開ける。
お口に合えば、ということは食べ物関係かな?
うわ~、なんだろ~? やっぱり本命はデザートとかかな~。
とまあ、そんな風に予想していた私の目の前に、
「こちら、運動場で取ってきたスペシャルお酒各種です~」
と紗凪ちゃんの明るい陽気な声と共にすっごい綺麗なビンのお酒がいくつか取り出されました。
――――あっ、これはまずい展開……。
そして、それを見て私は心の中で非常事態を告げたのだった。




