Episode-54 『川のほとりで・関西弁JKの場合』
ふっふふ~ん。
夜さんの手前やし控えめに言うたけど、中々の跳ねやったなぁ~。
ええとこ見したぁてやったぶっつけ本番であれができる本番の強さはさすがうちってとこやな。
おっと、あかんあかん。
ここで調子に乗ったら変なミスやらかすかもしれへんしな。クールに、更にクールにいかな。
「あんま力入れんでも基本さえできとったら簡単ですよ」
うちがさっき渡した石を確かめるように見ている夜さんに向かってアドバイスを送る。
まぁ、夜さんがあんま運動得意やないんはこの前とかさっきで十分理解しとるけど、これはあんま関係ないし大丈夫やろ。
そう楽観的になりながら、夜さんの斜め前あたりの水辺の近くに立ちながら見守る。
ここなら前から投げる夜さんも確認できるし、投げた後の石の行方もしっかり目で追えるしええやろ。
「よし、じゃあいってみるね」
「はい、どうぞ」
うちの言葉に頷くと夜さんが腕を引き、投球フォームをとる。
うん、ええ感じや。ちょいとぎこちないけど別にそこまで悪くはない。このまま放れば、五跳ねくらいはするやろ。
…と思っていたのだが、
そこで離すべきといったところになっても、夜さんの手から石が離れない。
そんで力を入れすぎていたのか、離すタイミングを逸してしまったその投擲は、
「うりゃあ!」
綺麗な夜さんの声と共に放たれた。
――うちの足元に!!
「うぎゃああああああ!?」
反射的に飛び退く。
幸いにも石の衝突したのはうちのちょい手前の地面。が、思いっきり川に向かって投げるというより地面に向かって叩きつけられた平べったい石は地面に転がる他の石を弾き飛ばしてバウンドすると、「ぽちゃん」と小さめの切ない音と共に川に落ちた。
もちろん、跳ねるはずもあらへん。
「ごっ、ごめんなさい!! 紗凪ちゃん、大丈夫!?」
「ハハハッ、まあ避けたんで大丈夫ですよ。わざとやないんはわかってますし。ほら…あれや、初めてなんでしゃーないですよ。うん、しゃーない、しゃーない!!」
当然ながら、瞬時に夜さんが物凄い勢いで頭を下げてくる。
そして、うちもそれに早口で応対する。
もちろん、夜さんに悪気はないのはわかっとる。わかっとるけど…、流石に焦ったわ。思いっきし冷や汗出てもうた。
「ちょいと肩に力入り過ぎかもしれませんね。遊びですし、もっと軽ーくやったらええんですよ」
「軽ーくね、かるーく。――うん、なんとなくわかったかも」
夜さんはちょい真面目すぎるんやろな。ほんで、それが逆効果になっとるわけや。
まあ、あんだけド派手に失敗したんやから逆に力は抜けたんとちゃうやろか。
これは次は大丈夫やろ!
「よし、ほんならもう一回やってみましょか」
そう言って石を夜さんに渡す。
すると、夜さんはそれを受け取り「かるーく、かるーく。離すのはもっと早め」と呟くように自分に言い聞かせる。心なしかその表情には余裕がない。
これは大丈夫…なんやろか?
「あのー、夜さん。さっきも言いましたけどほんの遊びなんでリラックスですよ」
心配になってもうて、そうアドバイスを送ると夜さんはグッと拳を握り「任せて、次は成功させるから」と宣言しはった。
…えーっと、なんやら壮大になっとるけどこれ水切りやってるだけよな。水切りって遊びでよかったんよな。
「じゃあ、いくね」
「はい、ガンバです」
が、ここまで来たらうちにできることは応援だけ。夜さんを信じるだけや。
「かるーく――」
合言葉のようにそう言って、夜さんが投球フォームをとる。
ん? さっきよりちょいと振りかぶりが大きいな…。
覚悟を決めてさっきと同じ位置で見ていたらその変化に気付いた。が、もちろんそれを夜さんに伝える時間はない。
「投げる!」
そして、そのままの大きく振りかぶり放たれた石は、
「「あっ」」
うちの足元に投げてしまったことが脳内に焼き付いていたのか、恐ろしい程早い段階で手から離れてしまう。
その軌道はというと、まさかの夜さんの斜め後ろへと飛んでいくという予想の斜め上のものやった。
そして、ガサッってな感じの音と共に桜並木の中へと突っ込んでいき、衝突した一つの桜の枝が無惨にも地面に落ちるというひじょーに切ない結果が残った。
まさか川にすら飛んでいけへんとは…。
「………………」
「………………」
そのまま数秒の間、うちと夜さんは何も言わずに川の畔につっ立っとった。
そして、
「夜さん」
「紗凪ちゃん」
「花見しましょか!」
「花見しよっか!」
まるで示し合わせたようにピッタリとうちらの声が重なった。
ちなみにそれを言ったときの夜さんの眼が若干半べそ気味になっとったのは、見んかったことにする。
大丈夫ですよ、夜さん! 運動神経が悪かっても、別に死ぬわけやあらへんのやし!!




