Episode-53 『川のほとりで・超清純派女優の場合』
女の子と川で遊ぶ。
その言葉を聞いて、普通はどんな想像をするだろうか?
先に言っておくが、私に全く邪心は無かった。
しかし、それを差し引いたとしても最初に紗凪ちゃんに「川で遊びましょ」的なことを言われた時は少しばかりセクシーな想像をしてしまった。
要は水に濡れないために少し多めにズボンの裾を捲って川に入ったり、不意に水が跳ねてシャツが透けてしまったり的な感じのハプニングだ。
だが、まぁ現実は私の妄想通りに進むことなどないのだ。
それを私の今の現状が証明していた。
紗凪ちゃんに先導されるような形で川べり付近まで降りてきた私はそこで紗凪ちゃんからこれからやることとその準備について説明を受けた。
そして、私は今その準備に絶賛邁進中というわけだ。
紗凪ちゃんと少し離れた位置に立ち、中腰になりながら地面をくまなく捜索する。
さて、肝心な問題。ここで私と紗凪ちゃんは何を探しているかというと――。
「夜さ~ん。一番ええのは丸っこ~くて平べったい感じの手のひらサイズの石ですよ」
「りょうかーい」
紗凪ちゃんのアドバイスに頷く。
そう、私たちが今探しているのはそこらじゅうに落ちている石。その中でも平べったくて尚且つできれば円形の石だ。
そうつまり紗凪ちゃんの言う川遊びの正体は何かというと――、
「いやぁ~、ボウリングとストラックアウトと水切りはたまにムショ~にやりたなるんですよねぇ~」
「フフッ、全部投げるの遊びだね」
「あ~、そういやそですね。うち肩強いんかもしれませんね」
そう水切りでなのある。
と、そんな風に訳知り顔で紗凪ちゃんと話す私であったが水切りとか大まかにしか知らない。
簡単に言うと川とかに石投げてピョーンって水面を跳ねさせる的な遊びという認識かな。そして、それが平べったい石だとやりやすいってことだろう。
この解釈でおそらく間違ってはいないと思う。まぁ、実際にやったことはないんですけど…。
何はともあれ百聞は一見にしかず、考えるより感じろだ。
「平べったい石~」
「平べったい石~」
そして、そんなふわふわした認識のままにひたすら二人で平べったい石を探し続ける謎の時間を数分間。
運が良かったのか、その捜索時間でそこそこの数の平べったい石を確保することができた。
それと普段絶対に言うことも聞くこともない『平べったい石』というワードが脳内でゲシュタルト崩壊を起こしかけている。多分、一生に一度の体験だろう。
「うっし、こんなもんでええですね」
「ふぅー、石を探すだけででも一苦労だね」
「ハハッ、そのぶんお金かからんしすぐできますからね。よっし、では本番といきましょか」
そう言って、紗凪ちゃんが肩をぶんぶんと回しながら川に近づいていく。自信満々と言った様子だ。
う~ん、楽しそう! 水切りがじゃなくて紗凪ちゃんが! 私はその笑顔を見れるだけで嬉しいです!
「夜さんは水切りやりはったことありますか?」
「うーん、ないかな」
「あー、何となくそんな感じしてました」
私の返答を聞いて、紗凪ちゃんがそう言いながら「ほんなら、簡単なレクチャーします」と集めた石から一個を手に持ってこっちに振り返る。
うん、この面倒見のいいところも紗凪ちゃんの美点だ。ここは、そのご指南を心して受けねば。
…でも、あれ? ちょっと待って、紗凪ちゃんの教え方ってたしか――。
その時、脳裏にフラッシュバックしたのは運動場のバッティングセンターでの一幕だった。そう紗凪ちゃんは根っからの感覚派なのだ。
つまり今回もあのパターンの可能性が高い。
「持ち方はこんな風に掌で握る感じ。ほんで、投げ方はちょい気持ち下めのサイドスローってな感じです」
「おお、なるほど」
が、その心配は杞憂で終わった。
紗凪ちゃんはしっかりと私に見せながら石を握り、丁寧に投げるフォームも素振りをしながら見せてくれた。
「ほんで後は投げる瞬間に手にギュッと力入れて、腕をブワッて振り切って前にシャッて投げれば、パパパパァーンって水の上を跳ねてきますわ」
「…なっ、なるほど~」
…前言撤回。杞憂で終わらなかった。
が、そんな説明も紗凪ちゃんらしい。うん、紗凪ちゃんらしいのが一番。
そして、今回は前回とは違い基本の構え等は知れたのだ。今度こそ私でもいけるかもしれない!
「ほんじゃ、お手本見せますねぇ~」
指導を終えた紗凪ちゃんが今度こそ石を持って川に向かい合う。
「もっと近づかなくても大丈夫なの?」
今の私と紗凪ちゃんのいる位置は川まで二メートル程離れている。
が紗凪ちゃんは特に気にした様子もなく、
「大丈夫ですよ、どっちみち投げるんやから。川までの距離はそんな関係ないですよ。ほんなら、いきますね」
そう言って、投球姿勢をとる紗凪ちゃん。
たかが遊びの水切りかもしれないが、その投げる姿勢はどこか滑らかで後ろから見ると凄く画になっていた。
そして、その滑らかな動作で投げられた石は川へと水平に近い角度で向かい。
水面で一回、二回、三回、四回、五回、六回、七回、八回、九回、じゅっか――ってえええええええっ!?
なんと、少なくとも十五回以上は跳ねたのちに川の底へと自然でいった。
最後の方は跳ねるというか、水面をパパパパァーンとなっていた。紗凪ちゃんの言ってた通りだ!
「紗凪ちゃん凄い!!」
思わずそんな声が自然と漏れる。だってホントに凄いし、そもそも水の上を何メートル進んだの!?
「いやいや、別に凄ないですよ~」
その興奮する私に紗凪ちゃんも満更でもなさそうな顔でそう謙遜する。
そんな紗凪ちゃんも可愛い、写真撮りたい!
っと、主旨がズレてしまった、今は水切りの凄さに着目しなければ。
「ほんなら、次は夜さんいってみましょか」
そんな興奮冷めやらぬ私に紗凪ちゃんから平べったく尚且つ丸っこい石が手渡される。
その時の私は先程の紗凪ちゃんを見たばかりだったためか、凄いイケる気がしていた。紗凪ちゃんには及ばずともそこそこのやつができるのではないかという確証のない自信があったのだ。
が、その自信は図らずとも数分後に私の運動神経のヤバさを確信させることとなった!!




