Episode-52 『桜の下の散歩道・超清純派女優の場合②』
はぁー…、ふぅー…。
私は思っている以上に自分のことがわかっていない。
ここに来てそれは本当に思う。
そして、今回は何がわかっていなかったかというと――自分の体力の無さである。
最初こそ、「紗凪ちゃんと桜並木をお散歩だ~」とすっごい楽観的に考えていた。
だがしかし、その後に少し歩いただけで息が切れ始めてしまうというメチャクチャ切ない状況に陥ってしまったのだ。
一応言い訳させてもらうと、『お弁当作りで睡眠不足』+『お弁当の包みが予想以上に重い』+『紗凪ちゃんが時々お転婆に小走りになったり』と色々な私の体力を削ることがあったのだが、それは関係ない。
そもそも紗凪ちゃんのせいにしているみたいでなんかやだし、紗凪ちゃんのためにしたことに後悔はない。要は体力が下方に限界突破している私が全部悪いのだ。
だから、紗凪ちゃんがこの空間に疑問を覚えたのは僥倖だった。
百合神様への質問タイムで体力を回復できるからだ。
さらにそこに私が質問を重ねれば時間的余裕はかなりできるはず。
――とまあ、そんな風にまたもや楽観的に考えていたわけなんだけども…。
「ふむっ、ではこんなところかまた何かあれば呼ぶがいい」
「せやな。というかお前マジであとで覚えとけや」
「ハッハッハッ、何を覚えればいいのかわからんな」
そんな風にして二人の会話が締めくくられて、百合神様との通信が切れる。
つまり休憩タイムの終了だ。
そして、わかる。――私の体力はあんまり回復していない!!
どうしたものか?
一番簡単なのは、紗凪ちゃんに疲れちゃったから休憩しよう的なことを言ってしまうこと。そうすれば、紗凪ちゃんのことだ。きっとすぐに「そやったんですか、もっとはよう言ってくれればえかったのに」と優しく笑って理解を示してくれるはずだ。
が、しかししかしだ。
本当にそれでいいのだろうか。
まあ、ぶっちゃけこの前の運動場の一件で紗凪ちゃんに私の運動神経の凄まじい程の悪さは露呈している。そこに関してはもう意地を張る気は一切ない。
が、今回は運動神経とは若干違う体力についてだ。
若干重いお弁当の入った包みを持って話しながら少し歩いただけで体力切れを起こす年上の成人女性。
…正直めっちゃカッコ悪いのではないか。
もちろん、紗凪ちゃんがそんなことを思わないのはわかってる。これはもう私のプライドとか意地の問題だ。
私はこれ以上、紗凪ちゃんにカッコ悪いとこを見せたくないのだ。
ならば答えは一つ。気合いで乗り切るしかない。
「よし」
小声で気合いをいれて、お弁当を持ち上げる。
そのまま再び紗凪ちゃんとのお散歩に戻ろうとした私だったが――、
「あの、夜さん」
そこで紗凪ちゃんが少し不思議そうな目をして私に話しかけてきた。
「もし、間違ってたら申し訳ないんですけど、――ちょっと疲れてはります?」
そして、続いた紗凪ちゃんの言葉に私は本気で驚いた。
えぇっ、もしかして顔に出てた!?
「えーっと、どうして?」
否定も肯定もせずに疑問を返す。
うわっ、反射的に質問に質問で返してしまった…。
だが、そんな私のマナー違反に紗凪ちゃんは嫌な顔一つせずに「う~ん」と小さく唸ると、
「なんて言ったらええんやろ。違和感ていうんですかね…、なんか夜さん疲れとるんかなぁ~、ってふと思ったんですよ。おでこに汗もかいとるし、こん前のこともあって運動得意じゃないのも知ってたんでその影響もあるかもですけど。ほんま間違ってたら堪忍です」
さっ、紗凪ちゃん…! そんな私の些細な変化に気付いて…!
やばいっ、普通に感動しそう。というか感動してる。
そして、瞬時に本気で心配そうをしてくれている紗凪ちゃんに意地やプライドを理由に嘘を吐くのはダメでしょという結論にも至った。
「…うーんとねっ、お恥ずかしい話ですが紗凪ちゃんの言う様にちょっと疲れてます。ごめんね、ホント体力なくて」
あー、恥ずかしい…。
でも、しょうがない。恨むなら運動をしてこなかった過去の自分を恨むしかない。
「あっ、やっぱりそうやったんですか。ほんで謝ることなんてありませんて、なぁーんも悪いことないですよ」
そして、私の予想通り紗凪ちゃんは呆れたりなど一切せずにむしろ私を励ます様にそう笑ってくれた。
更に私の手に持った包みを「ちょっと借りますね」と手に取り、「おっ、結構重い。これ持って歩きゃそりゃ疲れますよ」とフォローを重ねてくれる。
あ~、紗凪ちゃん良い子過ぎるよぉ~。好きだよぉ~。
というか、そもそもどうやったらこんな素晴らしい完璧美少女がこの現代の世に育つのか?
見たこともない名前も知らない紗凪ちゃんのお父さんお母さんに今すぐお礼を言いに行きたい気分だ。
「さてと、どうしましょか? うちとしては散歩も十分楽しませて貰いましたし、ここいらで花見としゃれこんでもええんですけど」
「うーん、そうだね。一応下に敷くシートも持ってきたからこの辺に敷いてみる?」
私の問いかけに紗凪ちゃんが「そですね~」と考える。少し逡巡している様子だ。
私としても今すぐ花見を始めるとなると少し気にかかることがある。それは、紗凪ちゃんのお腹の空き具合。起きてまだ一時間経っていない、そして何度も言う様に私は結構な量のお弁当を作ってきた。
できるなら、もっとお腹を減らしてから食べ始めた方がいい気がする。
「――そや! 夜さんの体力回復と遊びも兼ねた案が今思いつきました」
「お~、聞かせて聞かせて」
そんな私の思いが通じたのかナイスタイミングで紗凪ちゃんが何かを思いついた様だ。
さすが紗凪ちゃん!
そして、肝心なその案というのは――、
「まずは夜さんもうちも荷物はここに置いときましょ。ここ普通に桜もええ感じですし」
「うん」
「ほんで、あっち行ってみましょか」
紗凪ちゃんがそう言って指差したのは、桜並木と平行にどこまでも流れ続けているような澄んだ川だった。
――――ん? それはつまり?
「あの川で少し時間つぶしついでに二人で遊んできましょ♪」




