Episode-50 『桜の下の散歩道・超清純派女優の場合』
気になる。
メチャクチャ、気になる。
紗凪ちゃんが持ってきたクーラーボックスの中身が――ではない。
いや、勿論のこと中身も気になるっちゃ気になるのだがそれ以上に気になるものがあるのだ。
――紗凪ちゃんがクーラーボックスをたすき掛けしていることにより、胸がより強調されている…!!
さっき、まずは紗凪ちゃんにお花見withお弁当を満喫してもらおうと自室で息巻いておきながら、これである。
やばいな、邪な心を沈めねば!!
「スーハー、ス――ハ――」
邪神よ~、出ていけ~!
とりあえず深呼吸。困ったときには深呼吸。そして、これが意外と馬鹿にならない。
よっし。ちょっとだけ落ち着いた気がする。
「夜さん?」
「ん、ああごめん。やっぱり、初めてこの扉を開けるわけだしその前にちょっと深呼吸をね」
「なるほど、じゃあうちも見習って」
感心した様に紗凪ちゃんも頷き、横で深呼吸を行う。
それがさながら子供の頃に行ったラジオ体操のような大きな動作での深呼吸だったため、上体を逸らす際に更に胸が強調される。
や、やっぱり紗凪ちゃん胸おっきい…。
って、だめだめ! 学習しなさいよ、虹白夜!
今注目すべきはそこではないでしょう!
邪念を振り切るように、視線を前方の『イベントルーム』とだけ書かれた無機質なドアへと向ける。
よーし、切り替え切り替え。
「ふぅー、っと。ほんじゃあ、行きましょか」
「うん、そうだね」
そして、横合いからの紗凪ちゃんの声に頷いて掴んだノブをぐるりと回す。
当然ながら八時を過ぎていることもあり、初日のような鍵の感触はせずにすんなりとドアノブが回り扉を開く準備が整う。
「へぇ~!」
「うおっ!」
扉を開け、思わずそんな声が私と紗凪ちゃんの口から漏れた。
前方に広がっていたのは、言葉通りイメージ通りの遥か先まで続いていそうな桜並木。まさに満開と言った風だ。
その上、扉から一歩踏み出した先には土の地面が広がり、よく見れば桜並木の向こう側には小さな川が流れ、周囲には桜を盛り立てるための鮮やかな緑も見られる。
とりあえず花見に疎い私でもこの場所はその最高のスポットだということがわかった。
「いや~、百合神があんだけ言うとったから頭ではわかってはいたつもりやったけどやっぱ凄いっすね! うひゃ~、メッチャ桜咲いとるわ~!!」
そして、そんな光景に私以上に興奮した様に紗凪ちゃんがイベントルーム内へ飛び込み。
そんなお転婆なところが凄い可愛い。
思わず私の視線は桜を飛び越え、紗凪ちゃんに見入ってしまうほどだ・
「? どないしたんですか、夜さん」
振り返り、そんなポケーッとしている私を不思議そうに見ながら紗凪ちゃんが言う。
おっと、いけないいけない。
「ううん、なんでもない。紗凪ちゃんと一緒でこの景色に驚いてただけだよ」
「でっすよね。頭では想像できとったんですけど、やっぱ凄いっすね。…まあ、あいつのまたもやあいつの思う壺みたいで、若干ムカつきますけどね」
「フフッ」
口では悪態を吐きつつも、どこか楽しげに紗凪ちゃんが笑う。
それにつられて思わず私の方にも笑みがこぼれてしまった。
「これからどうする? 一先ずはいい感じの場所を見つけてシート引いちゃう、一応準備してきたし」
「おっ、やっぱ準備がいいですね。でも…う~ん、夜さんさえよければちょいと歩きません」
「うん、いいよ。こんなに綺麗な景色の中を散歩する機会は現実でもそんなにないしね」
「ですよね! うち結構ただ歩くんとか好きなんですよ」
そう言ってクーラーボックスを肩にかけたまま、紗凪ちゃんが前へと進み出す。
そして、私もまたお弁当の入った包みを持ってその後に続く様に歩き出した。
…やばい、思いのほかにお弁当を入れたかごが重い。
気合い入れすぎちゃったかな~。
でも、まあ、いくら体力低くてもちょっとの散歩くらいなら大丈夫でしょ。
そして、私たちは桜並木の中の散歩が始まった。




