Episode-46 『花見前・超清純派女優の場合』
「ふい~」
時刻は午前七時半過ぎ。
お弁当を完成し終えた私は、一人テーブルに座りながら緑茶の注がれた湯呑を片手に一息ついていた。
実はお弁当が完成してからそこまで時間は経ってはいないのだ。
作っているうちに凝りすぎてしまった、反省反省。
しかし、紗凪ちゃんが起きてこなかったのは運がよかったかな。
別にお弁当を作ったことはすぐに明らかになるが、その工程を見られてしまうのは興ざめというものだ。
こういうのはサプライズだからこそ意味がある。いや~、よかったよかった。
「うーん。でも、紗凪ちゃん今日は遅めかなぁ」
ごくんと一口お茶を飲んでそう呟く。
ここに来て二人で並んで寝るようになってから、紗凪ちゃんの起きる時間は初日以降は大体固定されていた。基本的に紗凪ちゃんが起きるのは七時から七時半の間。その時間になると布団の中で数分ほどもぞもぞと眠気と葛藤した後に寝ぼけ眼の紗凪ちゃんが起きてくるのだ。
見慣れはしたが、毎回可愛い紗凪ちゃんの寝起きを見ながら朝食の準備をする私。素晴らしい朝の日課である。
でも、今日はその七時半を過ぎても紗凪ちゃんのプライベートルームのドアが開く気配がない。
やっぱり、久々の自分のベットは落ち着いて眠れて気持ちよかったのかなぁ。あっ、良く考えたら未だに紗凪ちゃんのプライベートルーム見たことない。
「むぅー、紗凪ちゃんの部屋気になるなぁ。今度見せて欲しいってお願いしよっかな? いやぁ~、でもそれはちょっと勇気いるな~」
自分一人であるのをいいことに脳内の願望を垂れ流す。
あっ、そういや百合神様には聞こえてるんだっけ。というか、百合神様の監視体制ってどんな感じになってるんだろ?
やっぱり巨大なモニターに全ての部屋が映し出されてるみたいな感じかな。…いや、想像するだけ無駄か。私の思考の及ばないようなオーバーテクノロジーの可能性だってあるんだから。
「さてと」
そんな風に色々なことを考えているうちに、いつの間にか湯呑が空になっていた。
椅子から立ち上がり、台所でササッと湯呑を洗うと私はお風呂場へと向かう。
紗凪ちゃんは遅くなる可能性あるし、とりあえず顔洗って歯を磨こうかな。
まぁ、八時にイベントルームが開くだけで八時に行かなくちゃならんわけでもないしね。それ終わったらソファで横になってテレビでも見ながらゆっくりと紗凪ちゃんを待つとしますか。
そんなことを考えながらお風呂場のドアを回し、中へと入る。
「……ん?」
が、そこで私の感覚が謎の違和感を感じ取った。
…おかしい。
昨日、私が最後に入ったときとは何かが違う。
「えっ…」
その言い知れぬ違和感にちょっと怖がりつつ、脱衣場の中を進む。
そして、違和感の答えにはその途中で辿り着いた。
「うぎゃっ!?」
思わず声を上げる。
洗面台の近くに置かれたカゴ。その中身に紗凪ちゃんのジャージと上下の下着が無造作に置かれていたのだ。
ちなみに衣類の洗濯は、紗凪ちゃんたっての希望で全て紗凪ちゃんが行っている。紗凪ちゃん曰く「お料理つくってもらっとるんやから、こんくらいせな罰が当たりますわ」とのことらしい。本当にいい子だ。
まぁ、それはひとまず置いておいて。何が言いたいかというと私は未だに紗凪ちゃんの下着に耐性が無いということだ。私が紗凪ちゃんの後にお風呂に入って、洗濯カゴに自身の衣類を入れるときもできる限り紗凪ちゃんの脱いだものを見ない様にしている。
なんでかって? 恥ずかしいからに決まってるでしょ! それになんか悪いことしてる気がするし!
……さて、話が少々脱線したが違和感の謎は解けた。
どうやら、紗凪ちゃんは昨日の夜――私たちがお互いのプライベートルームで就寝した後ににもう一回お風呂に入ったかシャワーを浴びたようだ。
「なんでだろ?」
純粋な疑問が頭をよぎる。
汗をかいた…とか? 怖い夢でも見たのかな? いや、単純に眠れずお風呂に入っただけかも。それともそれとも――。
「…気になる。」
そして、その疑問を解決する手立てはある。
先程すぐに視線を逸らしたから、完全に確認はできなかったが下着と一緒に籠の中にあったジャージ。それが紗凪ちゃんが運動するときに着ていたジャージに見えた気がする。
もしそうなら、紗凪ちゃんは運動場に行っていたことになる。しかし、確実にそのジャージだったといく確証はない。だって見えたのは一瞬だったから。
もう一回、覗き込む?
「…いやいやいやいやいや!!」
ふと、頭に浮かんだ提案を即座に口で否定する。
それは…うん、ダメでしょ。だって副次的ではあったも紗凪ちゃんの下着もガッツリ見ることになってしまう。でも、気になる。気になってしまう。
…うん、大丈夫。洗濯かごの中の紗凪ちゃんの衣服の配置は脳にインプットされている。
だから、ササッとジャージだけを見て確認すればいいのでは?
それだけならば一秒、いや一瞬あれば十分だ。大丈夫、できるさ。
こうして私の中の天使と悪魔の争いは、天使が譲歩する形で悪魔が勝利した。
「ふぅー」
大きく息を吐く。イメージは”シュバ”ってな感じ。一瞬で確認し、一瞬で目を逸らす。
よし、いける気がしてきた。
そして、イメージを掴みゆっくりと洗濯かごまで足を伸ばそうとしたその時――、
「ふわぁ~~。あっ、夜さんも歯磨きですか。おはようさんですぅ~」
あろうことか脱衣所のドアが開き、大きなあくびをしながら紗凪ちゃんが姿を現した。
そんな紗凪ちゃんに私は、
「おはよう!!」
自身の先程までの言動の一切を誤魔化す様にメチャクチャハッキリとした声で朝の挨拶をした。
ちなみに紗凪ちゃんが入ってくるのがもう数秒遅かったら、洗濯かごを覗き込もうとする挙動不審な私と遭遇するところだっただろう。
あっっっぶなかった~~~~~!!
ぎりぎりセ――――――――フ!!




