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Episode-45 『あなたを想って・関西弁JKの場合』


 さーて、花見で夜さんを楽しませると心の中で息巻いたのはええけど、どないしよかな?


 時計の針が深夜0時を通り過ぎて数分と言ったこの時間、うちは一人でベットに寝っころがりながら明日の花見でどんな風にすれば夜さんのいい思い出になるかをボケーッと考えとった。

 花見――といったらなんやろな~? どんちゃん騒ぎ?

 いや、さっきも思ったけど夜さんそういうタイプと違うしやな。


 あっ、そうや。ここはうちが落語でもやったろかな。

 いやでも、それはそれでメッチャ変やろしな。桜並木ん中でうちが一人で夜さん相手に落語を話す光景はおもろい気もするけど、落語自体がおもんない可能性が高い。

 まぁ、落語言うても小噺くらいしかできへんけどな。

 ホンマ師匠連中はどうやってあない長い落語おぼえとるんやろか?


 ――うん、これ以上考えてもロクな案が出てくる気があんませぇへんし、最初に考えた計画にしよか。


 腹を決めて、ベットから立ち上がる。 

 そして、うちの足はそのまま部屋内の異質なあの場所へと向かった。そうメッチャでかい電話ボックスや。

 その地味に重い扉を引き、中に入ると受話器を取る。


「あれ、これボタンとかあらへんやん」


 しかし、よく見れば中の電話にはダイヤルが一切あらへん。それを不審に思いつつ、何となく受話器を耳元に当てるとすでに呼び出しが鳴っとた。

 ああ、それもそか。だって電話の繋がる相手は百合神しかおらへんしな。


「――こんな夜遅くにどうした?」


 電話がつながり、少し怪しんだような声で百合神が開口一番そう聞いてくる。

 やれやれ、久しぶりやのにつれへんやつやで。


「安心しぃ、今回は真面目な話や」


「まあ、お前がこれを使ったのは初めてだし何か入り用なのはなんとなくわかったさ」


「なんや、察しええやないか。単純に言うといっこ聞きたいことあんねん」


「聞きたいことだと?」


 不思議そうに百合神がそう聞き返す。

 

「せや。お前ってさ、神なんやから人の体質とか好みの食いもんとかわかるんとちゃうの?」


「なんだ、藪から棒に」


「わからへんの?」


「いや、わかるにはわかるが。――ふむ、要は私に虹白夜について何か聞きたいことがあると」


 真剣なトーンの百合神の声が耳に届く。

 おお、やるやんけ。こっちが全部言わずとも理解しよった。


「その通りや、確認しときたいことあんねん。協力してくれへん?」


「内容によるな。話してみよ」


「うん、簡単に言うと夜さんお酒とか大丈夫な人なん? この場合の大丈夫は好きかどうかって意味もかねてやで」


「――なるほど、花見イコール酒とはまた安直な発想だな」


「ほっとけや、アホ。ほんで教えてくれるんかいな?」


「うむ、相手を想っての行動なら私が百合神として手を貸さん訳にはいくまい。私が個人情報を覗くのは本来ならあまり好ましくない行為だが今は特例だ。しばし待て、さっそく調べる!」


 なんやえらい嬉しそうな声やな。

 それに急にテンション上がりよったでこいつ。まぁ、うちとしたらオーケーならええんやけど。

 ほんで、待つこと一分程度が経って、


「報告だ。アルコールに対する耐性は平均程度あり、同様に過去の飲酒歴も人並にはある。つまり飲酒は普通に大丈夫だ」


「おっし、さんきゅ。ええこと聞いたわ」


 これで一応、計画に支障はない。

 あとはうちの問題やな。


「でだ、冷蔵庫にはアルコール類は入っていなかったはずだ。希望のものなどあれば、私が出すがどうする?」


「いやいや、それじゃ味気ないやろ。だからお目当てのもんは自力で取らせてもらうわ」


 うちの言葉に何かを察したように「――ああ、考えたな」と百合神が呟く。

 そう、うちの目的はトレーニングルームの特別商品。あれは競技及び種目ごとに色々なものが存在しとるんや。

 もう何度か足を運び、大まかではあるがどんな特別商品があるかは確認してあった。そして、その中にアルコール類があったことをさっき夜さんを楽しませる方法を考えていた時に思い出したわけや。

 これは我ながら名案やで~。


「ほんじゃ、今から取りに行かんとあかんから失礼するで」


「うむ、励めよ。…ああ、そうだ。ちなみにお前も酒を飲むのか?」


 電話の切り際に百合神がそんなことを聞いてくる。

 はぁー、こいつ何を言うとんねん。やっぱ神やから、人の世界のことはよぉ知らへんのか?


「あんなぁ、酒いうんは日本じゃ二十歳にならな飲んだらあかんねん。うちの遵法精神舐めんなや」


「なにっ!?」


「…いや、驚き過ぎやろ。うちにどんなイメージもっとんねん」


「お前、なんで遵法精神なんて難しい言葉を知ってるんだ…!?」


「そっちかい!! つーか、お前ええ加減にせなあかんで! ええか、アホでも意外と知ってる言葉もあんねん!」


「怒るな怒るな、悪かったよ。別にお前を貶す気などないさ、ただ本当に純粋に驚いただけだ。…ちなみに遵法って漢字で書けるのか?」


 …………。


「よし、今度はホンマに切るで。おおきに」


「おいっ、今完全にごまかし――」


 ガコンと受話器を元の位置に戻して、強制的に会話を打ち切る。

 

 ヘヘッ、いつもとは逆のパターンでこっちから切ったったわ。

 …そもそも書きなんかはええねん。読みができるんやから!

 まぁ、昔これをダチに言ったら勉強できひんやつは大抵そう言うって言われたんやけどな!!


「ふぅー。さてと、ほんじゃあスペシャルドリンク(お酒バージョン)を取りに運動場に行ったろやないかい」


 そんな難しいやつやなかった気がするし、三十分もありゃ終わるやろ。

 ほんで、もう一回風呂で汗流して寝たらええか。


 そんなことを考えながら、メインルームに夜さんがいないことを確認するようにゆっくりとプライベートルームの扉を開けて、運動場へと向かった。


 全ては夜さんの笑顔のために! 夜さんに喜んでもらうために!


 こうしてうちは花見当日の深夜に一人、運動場で奮闘したんやった。

 

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