Episode-42 『一週間が経ちまして・超清純派女優の場合』
時の移ろいというのは本当に早いものだ。
すでに紗凪ちゃんとの奇妙な同居生活が始まってから一週間の月日が流れようとしていた。
「紗凪ちゃん、お茶飲む?」
「そですね、いただきますわ」
「はーい、紅茶と緑茶どっちがいい?」
「んじゃ、たまには紅茶でお願いします」
「りょうかい」
そして現在。私たちは二人で優雅なティータイムを楽しんでいる。
この一週間の暮らしで、私たちの生活リズムは大方決まりつつあった。
まず、基本的に料理当番は私が担当している。どうやら私は紗凪ちゃんの胃袋を掴むことに成功したらしい。誰にも作る予定もないままでも、腐らず料理をやっていて本当によかったと思う。まぁ、腐らず料理をって表現はなんかよくない気もするけど…。
そして次にお風呂。これは何となくだが今は各自好きな時間に入るという感じに落ち着いている。これも私に対しては朗報だ。あの初日のような展開を毎回していれば耐性はつくかもしれないが、その前に私の精神が壊れる可能性の方が高いからだ。そのため紗凪ちゃんの入ってる時間とちょいとずらして私はお風呂に入っている。それに私から「一緒にお風呂入ろう」的な誘いをすれば紗凪ちゃんは笑顔で了承してくれる確率は非常に高いため、もうちょっと距離が詰まって覚悟が決まったら今度はこっちから誘ってみようと画策中である。
最後に自由時間。この大半は私たちは一緒に過ごしていると言ってもいい。毎回ご飯を食べるのも一緒だし、一緒にテレビを見たりももちろんする。運動場を紗凪ちゃんはそこそこの頻度で利用するのだが私もそこに同行している。つまり私はほぼ一日中紗凪ちゃんと一緒にいると言っても過言ではない。
あ~、ツラい。幸せすぎてツラい。
生まれてこの方、初めての感覚だ。幸せ疲れというものが実際に存在していたのことに驚く。
そして、この一週間が過ぎて私の紗凪ちゃんへの恋心は落ち着くどころかどんどん増量していっている自覚がある。
もしや紗凪ちゃん、魔性の女なのだろうか!?
「はい、お待たせ♪」
そんなことを考えつつ、鼻歌を歌いながらもキッチリ最高の温度で淹れた紅茶を紗凪ちゃんの前へと置く。そして私も自分の分のティーカップを持ってテーブルを挟んで紗凪ちゃんの対面へと腰を下ろした。
「はぁ~、ええ香りですねぇ。というか、うちのおかんもたまに紅茶淹れてるんですけど、レベルちゃいますよ。淹れ方ひとつでこうも変わるなんて不思議なもんやなぁ。気品の違いやろか?」
「確かに淹れ方も重要だけど、茶葉も同じくらい重要だよ。だからいい香りなのはここの茶葉のおかげ、私の腕じゃないよ」
「またまた~、そんな謙遜せぇへんでもええですよ」
二人でクスリと笑みを浮かべる。
あ~、なんとまぁ素敵な昼下がり。充実しすぎていて恐怖すらあるほどだ。
「しっかし、ホント美味しいですね。そういや、夜さんは緑茶と紅茶どっちが好きですか?」
「う~ん、どっちも好きだよ、よく飲むし。でも強いて言うなら緑茶の方が飲む機会は多いかも」
「うちもそんな感じです」
そう嬉しそうに紗凪ちゃんが笑う。
ちなみにまたささやかな共通点が見つかり私もメチャクチャうれしいがその喜びは毎度のことながら内面に留める。言うまでもなく意識してそうしないと絶対ニヤケちゃうからね
「そういや緑茶と紅茶ってどっちが高い葉っぱ使っとるんですかね?」
「ん? 茶葉自体は同じだよ」
「えっ、そうなんすか?」
「うん、違うのは発酵度合い。発酵させずに最初に火を入れたのが緑茶、反対に最終段階まで完全に発酵させたのが紅茶かな。ちなみに二つの真ん中ら辺の発酵具合だとウーロン茶にもなるんだよ」
「はぇ~、初耳ですわ。しっかし、夜さんと話してると何気ない話でもめっちゃ勉強になりますわ~」
「勉強って言うより雑学みたいな感じだけどね」
「そーですか? でも、こんな物知りな人は今までうちの周りにいてへんかったから新鮮ですよ~」
感心した様に「へぇ~、緑茶も紅茶も葉っぱは一緒なんやなぁ」と呟く紗凪ちゃん。
むむっ、これは中々の手ごたえ。ちょっと時間あったらもっと日常の雑学を勉強してみよっかな。もちろん、さりげないタイミングで紗凪ちゃんに教えてあげるためにね。
――ヒラリヒラリ。
「あれ?」
そんな風なこの後の展望を何となく思い描きながら上を見上げたところで偶然、それは目に付いた。
この前一度だけ同じことがあった空からの手紙だ。
それは前回同様に私に吸い寄せられるように落下してくる。
「紗凪ちゃん、これ」
「うわっ、また百合神からですか?」
それを受け止め、紗凪ちゃんに見せると露骨に不愉快そうな表情を浮かべられてしまう。
どうやら前回の勉強できない煽りを地味に根に持っているらしい。でも、そんな表情の紗凪ちゃんもまた可愛い。
といっても前回は確かここで一年間暮らす間に現実世界での勉学などの記憶が薄れてしまうのでは的な話をしていた時に、その回答のためこの紙は降ってきたはず。紗凪ちゃんをディスったのはそのついでだった。
ならば今回のこの紙には何が書かれているのだろうか?
――はっ!! もしやさっき私が話したお茶の件の豆知識間違ってた!? 確か漫画もしくはテレビで得たうろ覚えの知識だし、間違ってる可能性も無くはない。しかし、それだとカッコ悪すぎるから違ってほしい!!
「読むね」
「はい」
そんな不安に内心では心臓をドクドク震わせながら、落下してきた紙へと目を通す。
しかし私の心配を余所にそこには、
「『明日の午前八時より一日限定で第一回イベントルーム開放のお知らせ。イベント名――桜並木で貸切花見』」
そう無駄に凝ったデザインの文字タッチとカラフルな色使いでそんなタイトルがでかでかと書き記されていた。




