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Episode-38 『テレビを見よう・百合神の場合』


 ふっふっふっ、ようやくテレビをつけおったか。

 モニター越しの視界に写る見慣れた二人組を前に、私は胸の高ぶりが抑えきれずにいた。

 

 やつらは、気づくはずもないがこのテレビは今回のこの部屋の中でもかなりの自信作だ。

 それゆえ説明するのが凄い楽しみだったのだ。もう、いくつかの部屋で説明を終えたところではあるのだがやはり誰しもが中々の驚きよう。

 頑張って作った甲斐があるというものだ。


 そして、こやつらも例に漏れず驚きを上げるはずだ。

 この百合神特製テレビ――ワンハンドレッドチャンネルの素晴らしい機能を眼にすればな。


「なんや、よ―わからん名前やな」


 モニター越しでさっそくいちゃもんをつけてくる関西弁。

 しかし、それにわざわざ怒りを示すほど私の心は狭くない。それにこの後のこやつの驚きようを想像するだけで溜飲が下がることこの上なしだしな。


「まぁ、聞け。このテレビは様々なジャンルを網羅した百のチャンネルが登録されているスーパーテレビなのだ。因みにワンハンドレッドは英語で百だ。知っていたか?」


「お前はうちをどんだけアホや思うとんねん! 一応、高校生やぞ!」


「ふむ、そうか。それは失礼」


 なるほど、流石にこれくらいはわかるか。少々甘く見過ぎていたな。

 

「フィフティとフィフティーンの違いもあやふやなレベルの英語力しかないと思っていたが訂正しよう」


「うん、おまえホンマいっぺんここ降りてこいや。どついたるから」


「ちなみにどっちが十五だ?」


「え!? そりゃ、…あれやろ! フィフ…フィフテ、んー…、えーっと…。あっ、フィフティーンや!!」


「………よし、正解だ。よく、頑張ったな!」


「その憐れむみたいな感じのやつやめぇや! あれやから! ちょっと万に一つも間違えんようにちゃんと脳内で確認しとっただけやからな!」


 顔を羞恥に染めながら謎の言い訳を展開する関西弁娘。

 うむ、少し可哀そうになってきたからこの話題は終わりにしてやろう。神の優しさである。


「まぁ、それは置いといてこのテレビの説明を――」


「置いとくなや! まだ話は終わってへんねん! というか確かにお世辞にもうちは勉強できへんけど、さっすがにそこまで馬鹿やないで!?」


 えー、何でせっかく私が気を使ってやったのに話を戻すのだこいつは?

 安心しろ。そんなに必死にならずともお前が勉強苦手なお馬鹿さんであることは私もお前の横で微笑ましそうに笑ってる百合好き女優もわかりきってる。

 そもそも顔と言動が勉強できるやつのそれではない。

 

「大丈夫だよ、紗凪ちゃん。私はわかってるから。紗凪ちゃんはちょっぴり勉強が苦手なだけで、別に全然できないってわけじゃないもんね」


「そなんですよ! さすがに全然ってわけやないんです! うちは笑えないレベルやのーて笑えるレベルのアホなんです! さっすが夜さんはわかってくれてますね~」


「もちろんだよ♪」


「ですよね~。ったく、それに対してこのお面ときたら」


 そして、そんな私を尻目に何故か二人で会話をし始めるモニター越しの関西弁娘と百合好き女優。

 ふむ、これは百合神としては素晴らしいことであるのだが、いかんせん私が悪者にされかけているのが釈然としない。

 が、何故かそこでパチリと関西弁娘の視線が外れた一瞬で女優の方が私にウインクをしてくる。

 そして、不思議とそのウインクの意図は私にハッキリ伝わった。


『ナイスアシスト。好感度アップです♪』

 

 声に出さずとも、そんな女優の喜びの声がまるでテレパシーの様に伝わってきた。

 …うん、別にアシストしたつもりは無いけどな。

 まー、ここは結果オーライとしておくか。百合度も上がったようだし。

 

 そんなことよりも、何より私は早くこのテレビの説明がしたいんだが…。


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