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Episode-36 『学校生活について・超清純派女優の場合』


 ぶっちゃけると、今の私は紗凪ちゃんに何をされても許せると思う。

 ありえない仮定だが、次の瞬間に紗凪ちゃんが私の顔面に掌底を打ち込んでこようとも笑って許せる自信がある。

 それだけ、もう紗凪ちゃんに対する好感度がカンストしていた。

 いや~、流石紗凪ちゃん。期待を裏切らない。

 紗凪ちゃん、最高! 紗凪ちゃん、最高♪ 紗凪ちゃん、可愛い! 紗凪ちゃん、可愛い♪


 と、まぁそんな風に脳内で盛り上がっていたら紗凪ちゃんからまだ疲れてしまっていると勘違いされちゃったわけなんですけどね…。

 いや、でもこれはしょーがない。だって、ホントに紗凪ちゃんに恋人いなくて安心したし、嬉しかったんだもん。

 比喩ではなく、本当にそれを聞いた瞬間に体力気力が全回復したからね。

 ゲームで最もレア度の高い回復薬飲んだときみたいな感じ。あれが現実に起こったら、さっきみたいな感覚なんだと思う。

 

 まあ、そんな感じで今の私は体力マックス気力マックス言うまでもなく紗凪ちゃんへの愛もマックスだ。

 そんな中で今は紗凪ちゃんとの会話も何だかいつも以上に上手く言っている気がする。

 いや、ただの会話で上手くいくもいかないもあるか、と思われるかもしれないがそう感じるのだから仕方ない。

 この会話で更に紗凪ちゃんのことを知るぞ――!!


 とそんな風に息巻いていた矢先に、


「はい、うちが所属しとるんは『放課後全力スポーツ部』ってんですよ。ちなみにうちが部長です」


 と所属している部活動を聞いたらそんな答えが返ってきた。

 『ちなみにうちが部長です』と言ったときにちょっとだけ誇らしげだったのがメチャクチャ可愛かった。しかし、いま注目すべきはそこではないのだろう。

 確かに聞き慣れない名前だ。特殊、オンリーワンと言う言い方からしてもしかしたら、


「紗凪ちゃんが作ったの?」


「おー、ようわかりましたね。その通りです」


「うん、言い方からして何となくね。どんなことをするの?」


 私の問いに紗凪ちゃんは「言葉そのままです」と少し恥ずかしそうにする。

 そんな姿も可愛い。可愛いのだが、なんか心の中で可愛いと言いすぎてゲシュタルト崩壊っぽくなってる気がする。間違いなく今まで生きた中でこの二十四時間は一番可愛いという形容詞を使った期間だろう。


「一応、一日の活動の終わりに箱の中からくじを引くんですよ。で、そのくじには『何らかのスポーツ名』が書いてあって、それが次の日にやるスポーツになるんです。ほんでそれを次の日の放課後にみんなでもうくったくたになるまで全力でやるんすよ。その繰り返しですね」


「へぇ~、それはまた斬新な部活だね」


「でっすよね。最初は仲良いツレで集まってやってたんですけど、なんや段々と人数増えてって今やサッカーできるくらいおるんですよ。いつの間にか同好会から部に格上げされとりましたし」


「おお、凄い」


「まぁ~、参加自由ってのも大きいかもです。自分の好きなスポーツん時だけ参加ってのもぎょうさんいてますしね。うちは毎日行ってますけど」


 そう言って笑う紗凪ちゃん。

 ふむ、なんか本当にすごい話だな。いくら楽しそうでも紗凪ちゃんが今高校二年生で、現実では四月だからたった一年足らずでそんな大所帯の部を一から作り上げたってことだもんね。しかも、女子高で。

 

「紗凪ちゃんはカリスマがあるのかもね~」


「いやいや、そんな大層なもんとちゃいますよ! あれやないですか、うちアホやし思ったこと結構まんま言うんで隠し事とかせんから付き合いやすいんとちゃいますかね? あと単純に放課後に予定のない悲しい女子高生がうちん高校に多かったとか! 言っててごっつ悲しいですけどね」


「そっか~、なるほどね」


 本気で謙遜するように紗凪ちゃんが手を振って否定する。そして、最後に冗談を言って笑わせようとしてくれるのも紗凪ちゃんの素晴らしい点だ。

 いや、でも紗凪ちゃんはそう言うがやっぱり少なからずカリスマやら人の中心になりうるものを持ってると思う。

 だって、女子同士の関係って結構複雑だしね。そんな中でも紗凪ちゃんは愛されキャラなのがなんとなくわかる。その部員の子たちもきっと紗凪ちゃんのこと大好きなんだとも思う。


 ………ハッ、ということはまさかその部員の中にも私と同じく紗凪ちゃんに恋慕の情を持っている子がいたりするかも!?

 ありえる! 紗凪ちゃん、後輩とかにも好かれそうだし!

 いや、だがいたとしても大丈夫。今この場所にいるのは私だけ。この一年間で決着をつければいいだけだ。そもそもこの特大のアドバンテージを生かせない様では、私に紗凪ちゃんを好きでいる資格は無い!


「私が紗凪ちゃんとすっごく話しやすいって感じるのもそのおかげかもね。うん、この部屋で一緒に暮らすことになったのが紗凪ちゃんで本当によかったよ」


 心の中での自身の叱咤に応えるように、告白なんて今は絶対に無理だがちょっとだけ勇気を出してそんなことを言ってみる。

 

「――そですか、ほならよかったです」


 私の言葉に紗凪ちゃんは少し驚いた様な顔をすると、そんな風に言いながら笑ってくれる。

 うん、今はこの反応で十分。一年あるんだ。いつかきっと、紗凪ちゃんに意識してもらえるように頑張ろう。

 と思っていたのだが、


「あっ、あの!」


「ん?」


「うちも一緒に暮らすんが夜さんでよかったと思ってますよ」


「――――そっか、よかった」


 そのはにかんだ顔での紗凪ちゃんの言葉に、私はやはり紗凪ちゃんに意識してもらう以前に紗凪ちゃんを意識しまくりであることを再認識させられてしまったのだった。


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