Episode-33 『浮かんだ疑問・超清純派女優の場合』
「ふぅー」
運動場を後にし、紗凪ちゃんと相談してお互い一端プライベートルームに戻ることとなった。そして一人きりになった私は重力に身を任せて自分のベットに倒れ込んだ。
紗凪ちゃんと一緒にいるのはとても楽しい。でも、同時に良い意味でも悪い意味でも常に気を張ってなくてはいけないのも事実だ。
だからこそ、心のギアをニュートラルに戻すためにこの個人休憩は私が提案したのだ。
「うーん、こんなことならもうちょい運動しとけばよかったかな~」
布団に横になり、先程の反省点を呟く。
紗凪ちゃんはカッコ悪いとは絶対に思っていないだろうけど、それでもカッコ悪い姿を見せてしまった。
でも、同時に紗凪ちゃんのカッコいい一面を新たに知れたのもまた事実だ。
そっか~、紗凪ちゃん運動できるんだねぇ~。
まさにイメージピッタリ♪
一人であることもあり、溢れ出るニヤニヤを隠す必要もなくなった私はベットでゴロゴロ転がりながら、先程の紗凪ちゃんを思い返し、ハイテンションになっていた。
が、
「いや、だがこれじゃだめだ」
そう私はこの時間で自分のテンションを通常時に戻さなくてはならない。
落ち着け、落ち着け、落ち着くには…そうだ!
ベットから立ち上がり、カーテンで仕切られたコレクションと対面する。
そう紗凪ちゃんとのリアル百合で感覚がマヒしていたが、私は家にいるとき大体これを読んでいる。それが私の日常だ。そして、今の私に一番必要なものでもある。
「ど~れにしよ~っかな」
キチンと五十音順に並べられたコレクションの中から読み返すものを選ぶ。
「ん?」
そこで私の眼は一つの漫画で止まった。
『二人しかいない風景』――全五巻。
女子二人と男子一人の幼馴染三人組。高校に上がると同時にその中の二人――亜美と晋太郎が恋人同士になるが高一の秋に晋太郎が不慮の交通事故で他界する。その後、傷心で不登校となった亜美を三人目の幼馴染である有子が何とか立ち直らせようと奮闘していくうちに、親友だった二人の関係も変化し始める。
といったあらすじの中々に評価の高い百合作品である。
が、前述した様にこの作品には男性である晋太郎が登場し役割上はヒロインの元彼にあたる。そして、一巻の最後で他界するまで出ずっぱりな上にその後も回想で何度も登場するのだ。
そのため、設定およびストーリー上仕方がないとはいえ百合に対して心の狭い、もといこだわりの強い私は少し気後れしてしまい結局そこまで楽しむことはできなかった記憶がある。
「ふむ、久しぶりに読んでみるか」
しかし、これを初めて読んだ時とは違い今の私は紗凪ちゃんと一緒にいるおかげでメチャクチャ心が広くなっている気がする。そんな今ならあの時よりも楽しめるかもしれない。
一巻を手に取り、そのままベットに再び横になる。
物語は受験を控えた中学三年生の秋から始まる。
女子サッカー部で夏までバリバリ部活動をやっていた亜美は、文武両道の晋太郎に夏の終わり辺りから放課後と休日は受験勉強を見てもらっていた。そして、そんな日々を繰り返していくうちに二人は惹かれ合い始める…のだが。
うーん、やはりちょい気になる。指に小っちゃい棘が刺さって痛くはないけどメッチャとりたい時みたいな感じだ。うん、やはり私は例えは下手かも。
なんのなのだろうこの感覚は? 普通に少年漫画や恋愛漫画を読んでいたら別に男性キャラには何の抵抗もない。でも百合漫画として読んでしまうと引っかかってしまう。
だが、まあそれでも前に読んだときよりは普通に頭に入ってきている気がする。
それにやっぱり人気作なだけあってヒロインの亜美が可愛い。
スポーツ万能で明るくて社交的で美少女。晋太郎が惚れるのもわかる。
そりゃそうか、現実にこんな子がいたら―――。
…………………。
「…………………」
そこで思考が止まった。
あることに気付いてしまったのだ。
Q 紗凪ちゃんはスポーツ万能ですか?
A はい、さっき知ったんだけど凄く運動神経がいいです。
Q 紗凪ちゃんは明るいですか?
A はい、いつも明るくてこっちが元気になっちゃうくらいです。
Q 紗凪ちゃんは社交的ですか?
A はい、私とは会ったばかりなのに凄く仲良くしてもらってます。
Q 紗凪ちゃんは美少女ですか?
A はい、当然です!!
QED
つまり、紗凪ちゃんはたぶん――いや絶対メチャクチャモテるはずだ…。
「…もしかして紗凪ちゃんって、恋人いたりするのかな?」
そして、自分の中の勝手な想像で辿り着いた答えに、私は絶望を擬音化したような声でそう呟いた。




