Episode-30 『運動場にて・超清純派女優の場合③』
ぶっちゃけると私は最初の一球以降は紗凪ちゃんを本気で応援し続けることはできなかった。
いや、正確に言うならば応援はしていたけれど『特別商品』に当たって欲しくなかった。
なぜなら途中でもしこのまま終わったならば、獲得したスペシャルスポーツドリンクは一本。つまり、
「うん、凄くおいしいよ」
「ほんまですか?」
「よかったら紗凪ちゃんも飲んでみる?」
「ええんですか? じゃあ頂きます」
的なやりとりを経て、間接キスチャンスになるのではないかというちょっと――いや、かなり邪な考えが浮かんだ為だ。
が、反対に紗凪ちゃんは一本だけだと私が困ると考えたのか(妄想)綺麗に二つだけ『特別商品』に当ててバッティングを終えた。
…いや考えてみれば、これでよかったのかもしれない。
そう紗凪ちゃんは純粋に私のために頑張ってくれたのだ。それを最後の最後で私の雑念では汚してはいけない。
十球連続空振りの憐れな私には、紗凪ちゃんが私のために獲得してくれたこのスペシャルスポーツドリンクを貰えるというだけでも十分すぎるご褒美なのだ。
キャップを回し、紗凪ちゃんと並んで座りながらペットボトルに口を付ける。
すると口の中で桃の爽やかな甘みが広がった。なるほど、ピンク色は桃だったんだね。
―――というかこれ美味しい!
スペシャルとつくだけのことは確かにある。のども乾いていることあってか二口三口と飲んでしまうほどだ。
「美味しい」
「ですよね。これホンマに原材料は合法なもん使ってるんやろかと疑いたくなるほどですわ」
と、そんな冗談を飛ばす紗凪ちゃんのペットボトルもそこそこの量が一口で減っていた。
やはり紗凪ちゃんも美味しかったのだろう。
「桃の甘みが爽やかで飲みやすいね」
「えっ?」
が、共感を得ようとそんな差し支えない感想を述べた私に紗凪ちゃんは不可思議そうに顔でそう言う。
あれ!? なんか私間違えたこと言っちゃった?
そんな風に内心焦りまくる私だったが、
「いや、これ多分さくらんぼとちゃいますか?」
紗凪ちゃんは困った様な顔でそう問いかけてくる。
さくらんぼ?
いや、流石にそれは違う気がする。桃とさくらんぼの味を間違えるほど味オンチではないと思いたい。
「「あっ…!」」
そこで私と紗凪ちゃんの声が重なる。
恐らく二人して同じような考えに至ったのだろう。
「これもしかして」
「両方ちゃう味なのかもしれませんね」
そう、二つ同じ様な見た目なため勝手に両方同じものだと思っていた。しかし、別に誰もこの二つが違う味だとは言っていないのだ。
そして注意してよく見てみると若干紗凪ちゃんのペットボトルの方が赤みが強い気がする。
そもそもなんでわざわざ最初に同じような見た目の味を二つ出したのか、とツッコミたくはなるがそこはしょうがない。色々と諸事情があるのかもしれない。
ん? でも、ちょっと待って。
二つが違う味ってことはもしかして――、
「もしよかったらこれ飲んでみますか?」
そんな私の予感を裏付けるように紗凪ちゃんからさっそくそんな提案がされる。
二人で別の味を頼んで、それをシェアしあうというのは結構ありきたりなことだ。だからこそ、紗凪ちゃんのその提案も当然。
そして、私としてもこの降って湧いたスペシャルイベントは甘んじて受ける以外の選択肢はないのだ。
「ありがとう。じゃあ、私のもどうぞ」
そう言って私のペットボトルを先に「ええんですか」と少し嬉しそうな紗凪ちゃんに手渡す。
そして、私は震える声と手を気合いで抑えつけながら紗凪ちゃんの飲みかけのペットボトルを受け取った。




