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Episode-28 『運動場にて・超清純派女優の場合②』


 私は野球をしたことはない。

 しかし、漫画好きなため野球漫画はそこそこ読んだことがあった。だから、ルールは知っているし理想のフォームとかの感じも何となくだがわかる。

 まあ、それを実際に行うのはもちろん無理だろうけど知識があるだけちょっとはプラスになるだろ。

 あとは紗凪ちゃんのアドバイスをちょっと参考にしつつ――、


「よっし」


 ギュッとグリップを握って、なんとなくフォームを形作る。


「ほんじゃ、スイッチオンです」


 そこで横からそんな紗凪ちゃんの声と共にポチッと開始のスイッチが押される。

 すると、まっすぐ前方に設置されたピッチングマシーンと思しき電子パネルに野球のユニフォーム姿の二次元の可愛い女の子が投影された。ピッチャーのイメージだろう。

 おお、普通ならたぶん野球選手とかだろうけど徹底してる。そういうところ尊敬しますよ、百合神様。


『一番簡単なコースは、全球ストレートだよ。全部で10球、頑張って当ててね~♪』


 そして、甘い声でご丁寧に球種を説明してくれた。

 うむ、全球ストレート。そして、簡単と面打っているのだからそのスピードも大したことはないはず。

 これはいけるかも!

 そんな風にちょっとだけ希望が見えた。

 弱みを見せるとはいったが、さすがに全球空振りというのは避けたい。


 そこで電子パネルの女の子が振りかぶる。

 そして、その投球フォームに合わせて電子パネルに空けられた穴から最初の1球が投擲される。


「ふんにゃ!」


 そして、私は豪快に空振りをした。

 …えっ? 結構早くない?

 思った以上に投げられたストレートは早かった。そして、私のスイングも思った以上に遅かった。


「アハハッ、ちょっと振り遅れてはりますね」


「やっぱり? というか結構これ早いよね。110キロくらい?」


「いやいや、たぶん90出とるか出てへんかってとこですね」


「えっ!?」


 うそぉ!? これってそんなに遅いの!?


「夜さん、夜さん。次きますよ」


「!? とうっ!!」


 そして再びの空振り。

 …うん、だめだこりゃ。

 全然当たらないし、完全にバットを振ってるというよりバットに振られてる。


「とりあえずはボールをしっかり見てそこに合わせる感じで、まずは当てるのを目標にしてみたらどうですか?」


「ふっー、なるほど」


 紗凪ちゃんのアドバイス通りに真っ直ぐピッチングマシーンを見つめる。

 そして、バットも短く持ってみる。漫画だとこうすることでコンパクトになってヒットが打ちやすくなるって書いてあったからだ。

 よし、仕切り直し! これならいけるかも!


***―――――


 しかし、現実は非情である。

 その後も私はぺっぴり腰のスイング連発で全くバットにボールが当たらないという悲しい結果となった。

 そして、現状は9連続空振りを喫してしまい残すところ1球となってしまっている。


「よし、次がラスト1球。思い切っていきましょう」


 紗凪ちゃんの元気な応援の声が聞こえる。

 が、私はそれどころではなかった。


「はぁー、ぜー…。ぜー、はぁー…。うっ、うん…、頑張るね」


 荒い息を吐きながらなんとか紗凪ちゃんにギリギリの笑顔をつくってそう返す。

 そう金属バットを9回振っただけで私は虫の息だった。

 やばい、まず間違いなく明日は筋肉痛だ。

 あれ~、私ってこんなに体力なかったっけ~。


 そんな私にもちろん容赦などなくピッチングマシーンの女の子は振りかぶる。

 そして、運命の10球目が投じられた。

 アニメとか漫画とかドラマとかならここでちょっとした奇跡が起こる展開なのだろう。


「うりゃあ!」


 しかし、悲しいことに私は私。とりあえず今持てる力の全てを両手に込めて思いっきりバットを振りぬくが、無情にも風を切り裂く音が響いただけだった。


『10球しゅうりょ~、結果は空振り10回。練習が必要かも~。またチャレンジしてね~♪』


 そして、可愛いらしい声で私の無残な結果がアナウンスされた。

 完敗である。清々しい程に。

 

「お疲れ様です。あれですよ、最後の方のスイングは力入っててええ感じでしたよ。うん、それにまぁこういうんは慣れですよ慣れ。最初はできんで当たり前です」


 そして、バッターボックスで膝をついた私に紗凪ちゃんの精一杯のフォローの言葉がかけられる。

 なんというかあれだね紗凪ちゃんの気遣いは凄くうれしいけど、同時に自分の惨めさが悲しい。この感情は嬉し悲しいとでもいうべきか。

 でも、それ以上に今は疲れが凄い。のどもメチャクチャ乾いてしまった。


「…ごめん、紗凪ちゃん。情けないことに凄い疲れてのど乾いちゃった。ちょっとメインルームまで言って飲み物とってきてもいい?」


 と、情けなさ全開で紗凪ちゃんにそんなことを言ってみる。

 だって、ホントにのど乾いたんだもん! もー、カラカラ!


「ん? いや、その必要はないですよ。どうせならスペシャルを飲んでみましょ」


 しかし、そんな私に紗凪ちゃんからそんな返答が返ってくる。

 スペシャル?

 最初言ってる意味がわからなかったが、紗凪ちゃんが「ほいっ」ともう一度開始のスイッチを押すと私がいるバッターボックスの中へと入ってきた。


「んじゃ、ここじゃ危ないんでちょいと出とってもらってもええですか?」


「えっ、うん」


 言われるがままに私はヘロヘロでバッターボックスを後にする。

 紗凪ちゃんはというと、いつの間にか私が置いた金属バットを手にしていた。そして、その感触を確かめるように軽く2回程素振りを行う。


『一番簡単なコースは、全球ストレートだよ。全部で10球、頑張って当ててね~♪』


 そこで、再びあの女の子の声がピッチングマシーンから聞こえてきた。

 が、紗凪ちゃんは「1球でええで」とだけ言って、バットを構える。

 何気ない一つの動作。しかし、それだけで私とは全く違うことがわかった。


「んじゃ、夜さんの敵討ちといきますか」


 そんな紗凪ちゃんの何気ない胸キュンセリフと共に電子パネルの女の子が振りかぶりボールが投げられた。

 

 ―――バッコーン。


 次の瞬間、気持ちがいい程に軽快な音が鳴り響く。 

 そして、


「おっし、スペシャルスポーツドリンク貰い」


 ボールを弾き飛ばした瞬間に紗凪ちゃんが軽くバットを投げる。

 まるで打った瞬間に狙い通りを確信したかのようにその表情には余裕の笑みがあった。

 そして、肝心のボールは狙い澄ましたかのように『特別商品』のマークへと命中した。

 

「かっこいい~…」


 それを見ていた私は思わず口からそんな心からの素直な声を漏らしてしまった。


 ――あれ? もしかして紗凪ちゃん、運動神経抜群?

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