Episode-26 『運動場にて・関西弁JKの場合』
まあ、百合神の言う様に動くんもひじょーに癪やねんけど、確かに今現在見れる場所の中で唯一運動場が行っていない場所なのもまた事実や。
それを踏まえたうえで朝食の後に夜さんと相談をしてみたところ、二人で一度行ってみるってことに決まった。
そんな訳で今うちは一人運動場の扉の前で夜さんを待っとるという状況におるわけや。
服装はちょうど高校の体育ジャージが部屋にあったんでそれにした。浴衣のままで運動やるわけにはいかんしな。
つーか、運動場ってどんな感じなんやろな。あんまりハイテクな運動場ってイメージしづらいよなぁ。
まあ百合神のことやから、その運動場もメッチャ金かかっとるんやろけど。
ん? でも神が金かけるってのも変な感じか。だって金かけんでもなんでも作れるやろし。
「あっ、また待たせちゃったね」
そんな心底どうでもいいようなことを考えていたうちに夜さんが自身のプライベートルームから出てくる。
夜さんはCMに出てきそうな少しオシャレなジャージ姿だった。流石女優さん。
うん、これはあれやな。並ぶと学校ジャージのうちごっつ恥ずいな。
「いえいえ、それにしても凄いカッコええジャージっすね」
「ん? ああ、これ」
何気ないうちの指摘に夜さんが自身の着ているジャージへと目を落とす。
「この前このメーカーのCMに出してもらったときに貰ったの。それをさっき思い出したんだ」
「ええ!?」
CMに出てきそうやなくて、CMに出とるジャージやった!!
つーか、改めて夜さんの凄さを再認識するわ。やっぱ、うちはメッチャ凄い人と一緒におるんやな。
「あれ? もしかしてあのCMって関東ローカルだった?」
が、夜さんの方はうちの驚きの声を別の意味に解釈したようでそんな見当違いの疑問を口にする。
いや、まあ確かに関西では流れとらんかったと思うけど…。
それにしてもやっぱ夜さんちょっと天然なところもあるなぁ。
「いや、そういうわけやなくて単純にCMって聞いて驚いてまいましたわ」
うちの答えに「あっ、なるほど」と頷く夜さん。
「でもやっぱそういう話聞くと、夜さんは超人気女優なんやな~、って再確認しますね」
「いやぁ、そんなことないよ。紗凪ちゃんはそれは高校の?」
「そですね。なんか夜さんの横に並ぶとしょぼさとダサさがハンパないですけど」
「そんなことないよ。これはこれで良いも――いや、素敵だよ」
お世辞とわかっていても、全くお世辞には聞こえない様に夜さんはそう褒めてくれる。
というかホンマに心からそう言ってくれてるんじゃないかと、錯覚してまいそうな程に不自然ない。
これも女優さんの力なんやろか?
「それはおおきにです」
とりあえずそうお礼を返しておく。
そして、もう二人そろったごちゃごちゃ考えんのはお終いにせなな。
「じゃあ、さっそく扉開けますか」
「そうだね。運動場、どんなかんじなんだろうね」
「見当つきませんよね。普通の体育館があるわけないやろし」
そう言いながらドアノブを捻ってドアを前へと押す。
視界が開けて、運動場の全貌が明らかになった。
「は?」
「え?」
そして、その内部を見たうちら二人から同時に言葉は違うが、感情は一緒な疑問の声が漏れる。
運動場の内部。そこにはメインルーム同様に上下左右真っ白な部屋が広がっとった。大きさも多分メインルームと同じくらいやと思う。
「なんやこれ? どういうこっちゃねん」
「うーん、――あっ」
そこで夜さんが何かに気付いた様の小さく声を上げる。
「どないしました?」
「あれは何かな?」
そう夜さんが指差したのは運動場に入って右手。
そこにはなんややけに近未来的なうちの身長よりちょい低いくらいのパネルが設置してある。
「電子パネル…みたいな感じかな」
「実際に見てみなよ―わかりませんね。とりあえず室内にあるのはあれだけみたいですし」
二人でそのパネルに近づいていく。
そして、パネルとの距離がほとんどゼロになったところで、ブワッとパネルが発光し始める。
『好きなスポーツをお選び下さい』
続いてそんな音声がパネルから聞こえてきた。
見れば、パネルの中に野球・サッカー・テニス・etc…とスポーツ競技の名前が羅列されとる。
「…えっーと、夜さんはなんか好きなスポーツとかあったりしますか?」
「ううん、特には。紗凪ちゃん選んでいいよ」
「さよですか。じゃあ――」
まずはやってみなしゃーない。
そう言いながら、とりあえずパネルに浮かんでいる中から野球をタップする。
すると今度は野球の文字が点滅したかと思うと、バッティング・ピッチング・守備・走塁の四択が出現した。
いや、守備はまだわかるけど走塁て。どんなチョイスやねん。
内心でツッコミを入れながら、バッティングをタップする。
『選択が完了しました』
すると、今度はそんな音声と共に明確な変化が起こった。
「は?」
「え?」
再びうちと夜さんの声が重なる。
余所見をしたわけやない。でも、気づいたときには目の前に新たな建造物が出現していた。
そして、現れたその建造物。簡潔に言うとそれはどこからどう見てもバッティングセンターやった。
「…野球のバッティングを選択したらバッティングセンターが出てきましたね」
一応現状をそのまま口に出す。
「うん。つまり、ここは選択したスポーツ競技に合わせて変化する部屋――ってことかな」
「ハハッ、オーバーテクノロジーもええとこですね」
思わず呆れた様な声が漏れる。
百合神、あいつもう何でもありやな…。
でもこれは嬉しい嬉しくないで言ったら、うち的には正直めちゃくちゃ嬉しい。
あいつの言うとおり暇つぶしにはもってこいかもしれへんし。
うん、なんや理解したら結構テンション上がってきたわ。
よし!
「じゃあ、夜さん。せっかくやしひと勝負しましょか」
「…えっ!?」
が、そう言った瞬間に夜さんの顔が明確に強張ったのをうちは見逃さんかった。




