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Episode-25 『朝食・超清純派女優の場合②』


「いやぁ~、美味しいわ~。ホントうちは朝からごっつ贅沢な食事させて貰ってますね~」


 目の前で私のつくった朝ごはんに舌鼓を打つ紗凪ちゃんを見て、私はまさに感無量といった気持ちだった。

 腕を振るったかいがありすぎる。

 それに一品一品を食べるごとに逐一「美味しい」の一言と共に感想を述べてくれる紗凪ちゃんのいじらしさにそれだけでお腹いっぱいになりそうな勢いだ。


「お口に合ったみたいでよかった」


「合いまくりですよ。多分合わない人なんかこの世にいてないくらいのレベルで美味しいですよ」


「フフッ、ありがとう」


 気を抜けばすぐに口元がだらしなく緩んでしまうこと間違いなしの褒め殺し。

 でも、ここは我慢だ。何故なら理想は頼りになる大人のお姉さんだから。

 この喜びはプライベートルームに戻ったときにでも、ゆっくりと思い返して堪能すればいい。

 いや~、それにしても本当に料理の勉強しといてよかった~。


「あれですか? 夜さんは昔から料理とかしてはったんですか?」


「う~ん、本格的に始めたのは中学生くらいかな。それから結構頻繁にやってるよ」


「なるほど、どうりで手際もええわけですわ。熟練の技ですね」


「いやー、といっても完全に独学だしね。家族以外に食べさせるのもこれが初めてだし。さっきも言ったけど本当にお口に合って一安心だよ」


「えっ!? それはまた光栄なことですけど…、今さらながらうちなんかがそんな大役を貰ってえかったんですか?」


「それはもちろん。むしろ紗凪ちゃんでよかったよ、こんなに喜んでもらえたんだから」


 私のその言葉に紗凪ちゃんは「それはおおきにです」と少し照れくさそうに笑う。

 あー、癒される♪

 これはこれから毎朝が楽しみで仕方なくなりそう。


 そして、再び何気ない会話をしながら二人で朝食をとる。

 時間にして二十分程が経過しただろうか。体感時間では二分くらいに感じたけど。

 綺麗に造った料理が二人の胃に収まっていた。それを証明するようにテーブルに出されたお皿は全て空になっている。

 

 ここで注目したいのが紗凪ちゃんのお皿!!

 ご飯茶碗には米粒一つない。お味噌汁も綺麗に飲み干してくれている。

 こんな些細なところからも紗凪ちゃんの素晴らしい人間性が伝わってくる。

 食べ物を粗末にしない。基本的だが大切なことだ。うんうん、紗凪ちゃん良い子!

 ちなみに私のお皿もそんな感じ。紗凪ちゃんにこんなところでよくない印象をあたえるわけにはいかないしね!


「ご馳走様でした。凄く美味しかったです」


「お粗末さまでした」


 ピタッと手を合わせての紗凪ちゃんの言葉に、私も同様に手を合わせてそう返す。

 なんとまあ素敵な朝ごはん。

 こんな時間なら仮に一回一万円払ったとしても毎回堪能したいものだ。


「んじゃ、後片付けはうちに任してください」


 そう言って紗凪ちゃんがお皿をキッチンへと運んでくれる。

 私も昨日のお好み焼きのときの紗凪ちゃんの様にここはその気遣いに甘えることにした。

「じゃあお願いしちゃおっかな」と言うと、紗凪ちゃんは「お任せください」と嬉しそうに私のお皿も運んでくれる。

 

 そして、全てを運び終えると紗凪ちゃんは水場でお皿を洗い始めた。私はそんな水音をBGMにするかのように湯呑を口に傾けている。

 あ~、幸せだ~。まるで新婚生活の如し。

 ぐへへ~、と若干キモい笑い声が心の中で浮かんでしまう。


「あー、そうだ。夜さん」


「えっ!? あっ、はい! どうしたの?」


 そんな私に食器を洗いながらの紗凪ちゃんの声がかかる。

 妄想中だったため、少々取り乱すがなんとか取り繕ってそう返す。


「今日これからどないします? というか今日と言うよか、これからですね。冷静に考えたら学校も仕事もこれから一年間ない訳ですし、メッチャ時間ありますよね」


「実質365連休ってことだしね。戻ったときにもとの生活リズムに身体を戻すのにちょっと苦労しそうだね」


「ですよね。それに記憶とかはどうなるんでしょね。うちとか学校の勉強の内容とか一年さぼってもうたらほぼ忘れる自信ありますよ。夜さんもドラマとかの台本とかあるやろし」


「そっか、それは確かに」


 ふむ、紗凪ちゃんの言うことはもっともだ。

 私は基本的に台本は一回読めばすぐ全部覚えちゃうし、あんまり忘れないけど。紗凪ちゃんは学生さん。テストもあるだろうし、授業とかの内容を忘れてしまうのは結構重要な問題だ。

 うーん、でもあの用意周到な百合神様がそこになんの対策をしていないとも思えないんだけど…。


「ん?」


 と、そこで不意に空から一枚の紙がヒラヒラと落ちてくる。

 ここにはもちろん空はない。つまり、それは天井から落ちてきたといことになる。

 そして、そんなことができるのは普通に考えれば一人、いや一柱だろう。

 

「おっと」


 まるで私に吸い寄せられるように落ちてきたその紙を空中で受け取る。

 そこにはやけに達筆な字で何かが書いてあった。

 

「どないしました?」


「えっと、何故か紙が上から降ってきたよ」


「百合神ですか?」


 紗凪ちゃんもどうやら私と同じ結論に至った様だ。

 そう、それは百合神様からの手紙だった。


「音読しようか」


「はい、お願いします」


 紗凪ちゃんの肯定の言葉を受け、視線を紙面へと落とす。


「えーっと、なになに。この空間では記憶、技術、身体能力は上積みされることはあっても退化することはないため安心するように」


「ほぉー、そりゃまた便利ですね」


「…だが、虹白夜はともかくお前の方はそもそも最初から劣化するほど学力ないだろ(笑)」


「やかましいわ! ほっとけ!」


 鋭いツッコミが紗凪ちゃんから炸裂する。

 何となく感じてたけど、紗凪ちゃんと百合神様って犬猿の仲の様相が見え隠れしてる気がする…。


「ったく、ホンマに癪に障る神ですわ。(笑)がムカつき度を十倍くらいにしとりますね」


「あはは…」


「っと、途中で腰折ってすんません。それで終わりですか?」


「いや、確か最後に追伸があって――」


 再び紙面へと視線を落とす。

 そして、


「PS:運動場は暇つぶしにもってこいだろう。一度見てみるといい」


 そう最後の一文を音読した。


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