Episode-24 『朝食・関西弁JKの場合』
いつも起こされ方は大抵決まっとった。
うちは朝がメチャクチャ弱いから基本的に自分一人で早くに起きるということはない。
でも、おかんは家事でおとんは朝から仕込やら何やらでどっちも大忙しやから、昔からうちと違って朝にメチャクチャ強いしっかり者の蕾美に起こしてもらっとるわけや。
でも、今回はそうはならなかった。
当然や、この空間には蕾美はおらん。それどころかおとんもおかんもおらへんわけやし。
いるのはうちの他には一人だけなんやから。
まず始めに起きたのは嗅覚やった。
鼻孔をくすぐる様な香りがどこからか流れてくる。それに呼応するようにうちの意識がうっすらと起き始めた。
「んー」
声にならないような声が口から出る。
あー、眠い。…つーか、なんやこの美味しそうな匂い。
まさか、ついに蕾美がうちの部屋で飯食い始めよったんか? いや、でもなんかおかんの朝飯の感じとはちゃう気がする。なんというか上品な感じがする。
まあ、布団に丸まってないで起きりゃすぐにわかる話なんやけど。
しゃーない、いっちょ気張って起きるか。
もぞもぞと芋虫みたいに布団の中で身体を動かし、覚悟を決めて上半身を起こす。
そしてそこで、いい香りの出所ですっごい美人が器用に料理してはる姿が一番に目に入った。
――あっ、そやった。この状況を忘れとったわ。
それで一気に意識が覚醒した。
そやった~、百合神にここに連れてこられたんやった。
あかん、寝ぼけて思いっきり忘れとったわ。
つーか、虹白さん――いや夜さんの順応ハンパないな。もう普通に起きて朝飯の準備しとるって、頭下がるわ~。
しかも普通にうちのおかんよりもなんか美味そうな匂いやし。
そんな夜さんは朝食の準備にメッチャ集中しとるのか、うちが起きたことにはまだ気づいていない様子。
それにしても機敏な動きやな。
「あー、おはようございます」
と言っても黙っとるわけにはいかんし、とりあえず夜さんに朝の挨拶をする。
するといきなりの挨拶に驚いたのか、「うわっ!?」と夜さんが声を上げる。しかし、そのまますぐに笑顔になると「おはよ、よく眠れた?」と返事が返ってきた。
「はい、ぐっすりですわ」
あったかい布団に後ろ髪を引かれるが、うちだけ寝とるのは失礼この上ないので根性で立ち上がる。
そんなうちを夜さんは「まだ寝ててもいいよ」と気遣ってくれるが、そう言う訳にはいかへん。
そのままグーッと両手と背筋を伸ばして、眠気を払う。そして、台所の方へと歩いていく。
「なんや、手伝うことありますか?」
「ううん、気持ちは嬉しいけど大丈夫。もうすぐできるから座って待ってて」
夜さんがそう言うと同時にピピッとジャーが音を鳴らす。
どうやら朝食はご飯らしい。
もしかして昨日うちが朝はご飯派って言うたの覚えててくれたんやろか? いや、考えすぎか。
「わかりました」と答えて、昨日お好み焼きを一緒に食べたテーブルに座る。
ここはお言葉に甘えることにしよか。それに、夜さんの言う様にもうほとんど朝食は出来上がってるみたいやしな。
チラリと視線を昨日の夜にできたでっかい時計に向ける。
七時四十分か~、確かに普通なら朝飯食うとる時間やな。普通ならこの後は学校やけど、ここにはないわけやしなぁ~。
「紗凪ちゃん、緑茶で大丈夫?」
「ん? はい、大丈夫ですよ」
「よかった。はい、どうぞ。熱いから気を付けてね」
とそんなことを考えてるうちに夜さんから湯呑がテーブルの上に差し出される。
言葉通り、その湯飲みには湯気が立った良い色の緑茶が注がれている。
至れり尽くせりやな~。
「どもっ」と礼を述べて、一口飲む。
あー、身体に沁みるわ。そういや、なんやよく朝緑茶飲むと健康にいいって言うしな。それもわかる気がするわ。
そんな感傷に浸っていると後ろから「よし、できた」と夜さんの声が聞こえて来た。
そして、「おまたせ」と言いながら料理の乗った皿がテーブルの上に運ばれてくる。
「おー!」
その光景に思わず歓声のような声を上げてしまう。
まるで旅館の朝食のようだった。一人分がキチンと食べ切れる量でありながら、種類は豊富。食べなくても美味しいのがわかる様な見た目と香り。そして、そのテイストは和に統一されていた。
最後にうちの目の前に白いご飯とお箸が一膳置かれる。
「紗凪ちゃん、朝はご飯派って昨日お風呂で言ってたよね」
「えっ!? やっぱり憶えてくれてはったんですか!?」
「もちろんだよ」
「はぇ~、さすがですね。ありがとうございます!」
うちの言葉に夜さんは思いのほか嬉しそうに「よかった~」と笑みを浮かべてくれる。うちの勘違いかもしれへんけど本当に心から喜んどるのがわかるような笑顔やった。
うん、まだ出会ってから半日くらいしか経ってへんやろけどやっぱこの人凄いわ。
外見、内面どこをとっても悪いとこが見当たらへん。そら、人気出るはずやわ。
「じゃあ、食べよっか。お口に合えばいいけど」
「いやいや、食べなくても絶対に口に合うのがわかりますよ」
「フフッ、そうだといいな」
夜さんが席についたところで二人して両手を合わせる。
「「いただきます」」
そして息ピッタリにそう言って、うちらは二人で朝食を食べ始めた。




