Episode-23 『朝食・超清純派女優の場合』
「うっ、うーん」
意識が目覚めて、今日もまた一日が始まることを告げる。
女優の仕事は嫌いではない。でも、同時にメチャクチャ好きかと言われればそれは否だ。
できることなら可愛い女の子と一日中家でぐだっーとしていたい。
だが、まあそんな最高の状況には普通に生活していたら当たり前だがならない。だから現実と向き合うしかない。
「さてと――っ!?」
瞼を擦りながら、ゆっくりと目を開く。
そこでいつもとは寝ているベッドの感触が違うことにまず気付いた。そして、ワンテンポ遅れて横に寝ている美少女の存在に気付く。
「――紗凪ちゃん」
そう声に出す。
すると、昨日の記憶がドバっと湧き水の様に溢れ出してきた。
一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、そして一緒に布団を並べて眠った。
私の初恋の女の子――音木紗凪ちゃんがスースーっと規則正しい寝息を立てながら隣の布団で眠っていたのだ。
「――夢じゃなかったんだ。はぁー、よかった~」
その現実を認識して、安心の息が思わず漏れる。
部屋を見渡しても、昨日と同じ白一辺倒のあの部屋があった。
昨日寝る前に出現した巨大な時計もそのままだ。時刻はちょうど午前七時。それに合わせてか室内も少し明るくなっている。
昨日はあまり意識していなかったがこの部屋の明かりはどこか人工的な感じがしない。まるで日の光の様なそんな自然の感じがする。
まあでも、原理は考えるだけ無駄だろう。神の為していることを人が理解できるとも思えない。
そんなことより私にはしなければいけないことがあるのだ。
…いや、でもその前にちょっとだけ!
「フフッ、可愛い」
布団に横になりながら隣に眠る紗凪ちゃんの寝顔を堪能する。
なんだかヤバい言い方だが、別にただ寝顔を鑑賞しているだけだから許してほしい。倫理的にはセーフなはずだ。
「――――」
紗凪ちゃんはスヤスヤと眠ってているため、起きる気配は一切ない。
そして、そんな状態を見ているとまた別の欲が出てきてしまった。
「…ちょっとだけならいいかな」
そして、悲しいかな私にその欲に抗うだけの精神力は無かった。
ごめんね、紗凪ちゃん。こんなダメダメな私を許して。
布団から片手を出して、紗凪ちゃんに向けて伸ばす。
「わぁ~」
そして、寝ている紗凪ちゃんの頭を少しだけ撫でてしまった。
凄い髪がサラサラ! そして、それ以上に何だか凄く私の手が幸せ!
「ふにゃ~」
「っ!?!?」
と、そこで紗凪ちゃんが不意にそんな声を漏らす。
そして、寝言の様なその声は私の精神に多大なダメージを与えた。
なに今の!? ふにゃ~って! 可愛い! 凄く可愛い!! 起きてても寝てても紗凪ちゃんウルトラ可愛い!!
朝っぱらから独りでに寝ている女子高生の寝言に興奮する私。字に起こすと凄まじくヤバい。
「…うん、これくらいにしておこう」
それは自分でもわかった。そのためこれ以上は字に起こさなくてもヤバいことになりそうだったために自粛して、紗凪ちゃんの頭から手を放す。
そして、「うーん」とふとんの中で腕を伸ばすとそのまま紗凪ちゃんを起こさない様にゆっくりと立ち上がった。
これからとるべき行動はすでに決めている。
視線の先にはキッチン。
思い返せば、昨日は紗凪ちゃんの世話になってばかりだった。ここいらで頼りになる年上お姉さんポイントをアップさせておかねばならない。
「紗凪ちゃんは朝はご飯派って言ってたし」
ここで昨日お風呂で話していた何気ない会話で得た情報が役に立ってくる。
我ながらスムーズな伏線回収。
これで起きてきた紗凪ちゃんと「紗凪ちゃん、朝はご飯派って昨日お風呂で言ってたよね」「え!? そんなこと憶えてはったんですか!?」「もちろん!」「さすが、夜さん。凄いわ~」という会話劇があればさらに完璧だ。
「フフッ」
その光景を想像しながら多分若干気持ち悪い笑顔を浮かべて、私はキッチンへと向かった。
ちなみに私は普通に料理はできる。
何故かって? もし好きな女の子ができたら手料理をご馳走してあげるためだ。まさに備えあれば憂いなし。
今まで封印していた(多分こんなことにならなければ一生封印したままだった)私の料理の腕が火を噴くよ~。
目標は、ドラマとかでよくある美味しそうな朝食の香りで紗凪ちゃんが目を覚ますパターン。
メニューはオーソドックスでいっかな。
昨日の紗凪ちゃんの話では冷蔵庫には多種多様な食材が入ってるらしい。なら、困ることはないだろう。
「よっしゃ、頑張るぞー」
そう紗凪ちゃんの眠りの邪魔にならないような小さな声で気合いを入れながら、私は調理を開始した。




