Episode-22 『初日の終わり・百合神の場合』
「そろそろ、初日が終わるな」
巨大なモニターを前にそう声を漏らす。
少なからず感慨深いものはある。
思い描いていた計画がこうして目の前で実現されているのだ。叶うならば、この計画が成功してくれれば言うことはないのだがな。
「まあ、そう簡単にはいかんか」
初日が終わるとはいえ、まだ一年の始めも始めだ。
この百合の箱庭計画が上手くいくか全く上手くいかないかは、まさに神のみぞ知るどころか神すらも知らぬと言ったところか。
ふむっ、我ながら中々上手いことを言う。
そう上機嫌になりながら椅子に寄りかかる。
「――なにっ」
しかし、そこで突然目の前のモニターが真っ黒に塗りつぶされた。
「ヒヒヒッ、初日が終わったね~。首尾はどうだい百合神~」
そして、続くようにやけに高い女の声が耳に届く。
その声にチッと舌打ちを一つして、目の前の真っ黒のモニターを睨み付ける。
「何の用だ、BL神」
「おいおい、他人行儀だね~。お姉ちゃんと呼べと常日頃から言ってるでしょ」
「神には親も子も兄弟も存在しない。貴様とて知っているだろう」
「もちろん。でも、性質の近い神は互いに惹かれあうものさ。BLを司るアタシと百合を司るあんたは、姉弟みたいなもんなの」
「ふん、私と貴様は似ているように見えて正反対だ」
「つれないな~、反抗期かい?」
「――っ。…で、そっちはどうなんだ?」
イラッとくるがそれを表に出せばこいつの思うつぼなのは重々承知しているためグッと堪えて話題を別の物へと変える。
すると、その質問を待っていたとばかりに「おっ」とBL神が嬉しそうに反応する。
「いや~、面白いったらないね。期待以上だよ、なんかこう作者として楽しみながら読者としても楽しめてるみたいな気分だね」
「そうか」
「あら、素っ気ない。アタシも感想言ったんだからそっちの話も聞きたいな~」
「――同じ様なものだ。中々に選んだ人材も面白い人間たちだったしな。一年間退屈しなさそうだ」
少し悩みながらそう正直に感想を述べる。
まあ、こちらだけ答えないと言うのも不公平だしな。
「アタシのBLの箱庭計画とあんたの百合の箱庭計画。はてさて、どっちが天上の神々から好評になるか? 今から結果が楽しみだね~」
「そうだな。――ちなみに最初の取り決めではお互いの箱庭に干渉できるのはそれぞれ担当の神――つまり私と貴様だけと決めたはずだよな」
「…そだよー。どうしたの今さら?」
「惚けるな、初日からちょっかいをかけてきておいて。もしや私が気づいていないとでも思っていたのか?」
「――」
自分でも思っていた程に怒気を含んだ声音が漏れる。
それに気づいたのは少し前だった。
ほんの微かに箱庭からBL神の干渉した残滓を私は発見していた。それを見違えるはずはない。
そう考えれば、このBL神からのアクションは渡りに船だったかもしれない。それについて思う存分に問い詰められるのだから。
「おい」
「…いやー、ごめん。ちょっとそっちの様子が気になってさ」
追い詰めるような口調で言うとBL神は観念したようで申し訳なさそうにそう言う。
「何をしたんだ?」
「いや、なんかちょうど気絶してる人間の子がいたからさ。その子の夢の世界にちょっとだけ侵入しちゃいました」
「貴様」
「いや、ホントごめん! 申し訳ない! でも、あれだよ。ちょっと悪戯したけど、結局は自力で抜け出されちゃったから問題はない! それどころか不本意ながらそっちの百合的展開を誘発したかもしれない! …はず」
「………」
「………」
「………はぁー」
まったく何をしているのかこいつは。
呆れて思わずため息が出る。まあ、私の領域の侵入したとしてもできることはそう多くないため、本音を言うとあまり心配はしていなかったが。
「次はないぞ。それと念のため互いの箱庭への非干渉の縛りを更に強化しておくか」
「えっ、許してくれるの?」
「ああ、だがさっきも言ったが二度目はない」
「ありがと! さすが私の弟! 愛してるぞ♪」
「やめろ、気色悪い」
それに高い声で大声で話すから耳がキンキンしてうるさい。
これは昔から変わらないところだ。
全く困った姉である。
「じゃあ、そろそろ私は元の場所に戻るね」
「ああ、さっさと戻ってくれ。そして可能ならばもう話しかけてこないでくれ」
「それは無理。約束通りもうユーくんの箱庭には絶対に干渉しないけど。ユーくん本体は別だよ」
「ユーくんと呼ぶな」
「いいじゃんいいじゃん。アタシはBLを司るBL神だけあって生粋のBL好きだけど、それとは別に生粋のブラコンなんだから」
「誇らしげに言うな。さっさと帰れ」
鬱陶しげに手を払うと、「はーい」とやけにいい返事でパッと真っ黒なモニターが通常状態に戻った。
向こうに帰ったのだろう。
まったく箱庭の管理だけでも大変なのに、定期的にあのアホの相手もせねばならんのか。
前者は大変だがやりがいを感じるが、後者は絶対に必要ないだろうに。
「はっー」
もう一度大きくため息を吐く。
私が統括する百合の箱庭計画。
そして、BL神が統括するBLの箱庭計画。
概要は、ほぼ同じだ。
ただ一点。集められた百人五十組の人間が全員女性か男性かという点を除いては。
これは言うならば神々に対する私とBL神の百合とBLの啓蒙活動。
簡単に言うとこの二つの箱庭で起こった一年間の記録をまとめて発表することで、神々の間で百合好きとBL好きを増やそうというものだ。
大変な作業だ。
準備にも色々とかかったし、一年間と言う時間という制約もある。その上で、この計画が成功するか否かはほとんど運任せといってもいい。
何故なら、実際に百合と言う現象を起こすのは五十組百人の人間たちなのだから。
私にできるのはせいぜいアシストだけ。
何度も言うが過度に干渉すると百合純度が下がるからだ。
だが、そんな苦悩など私は絶対に乗り越えてみせる。
そして、そして、必ず――
「見ていろ、百合に無知の神々よ。絶対に、ぜーったいに私が貴様らをこの計画を介して百合好きにしてやるからな!!」
胸の中で煮えたぎるような熱い思いを抱きながら、私はもう一度自分の目標を口に出しながらグッと拳を握った。
ちょうど時計の針が、初日の午前零時をまわったときのことだった。
一応、これにてプロローグ部分は終了です。
ここまで読んでくださった読者の皆様、ありがとうございます!
ちなみに神々の世界だとか無駄に壮大な背景設定ですが、それらが今後本編に実際に関わってくることは全くと言っていいほど無いです。BL神のBLの箱庭も同様です。
何はともあれ、これからも物語は続いていきます!
今後も本作を何卒よろしくお願いいたします!!




