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Episode-18 『初お風呂後?・超清純派女優の場合』


 目を開くと、暗い靄の中に私は立っていた。


 …え? ほんとに死んじゃったの私?

 

 そこでまず始めに思ったことはそれだった。

 いやいや、でもいたのがそもそも現実世界じゃないし。死ぬは流石に無いか。

 しかし、冷静になってそんな風にすぐに思い直したところで、


「虹白さん」


 と名前が呼ばれる。

 この声は――!!

 数時間前からずっと聞いている声。聞き間違えるはずはない。

 

「紗凪…ちゃん?」


 ガバッと振り返るとそのには予想通りに紗凪ちゃん?が立っていた。

 しかし、その口は一文字に閉じられており尚且つその瞳は漫画表現でいうところのジト目になっている。

 これはこれで可愛いが、それは今まで見たことない表情だ。

 最後が疑問調になったのはこのためである。


「失望しましたわ…。まさか虹白さんが会って間もない女子高生の裸を見て鼻血出しながら気絶するような変態やったなんて…」


「!?」


 呆れた様な紗凪ちゃんの声にギクッと擬音が聴こえそうな程に自身の肩が跳ねたのがわかった。

 どっ、どどどどどどどどうして、それが!?

 やはり、紗凪ちゃんから見てもモロバレだった!? それとも――いや、まずはそれよりもなんとか誤魔化さねば!!


「なっ、なんのことかな~」


「へぇ~、しらばっくれはるんですか? じゃあ、なんで急にあない派手にぶっ倒れはったんですか?」


「そ、それは! …えーと…、あの…」

 

 やばい、動揺しすぎて普段なら簡単に出てきそうな言い訳の言葉が全く浮かばない。

 そんな私の様子を見て何故か紗凪ちゃんはクスリと笑うと、軽い足取りで私の元へと近づいてくる。

 そして、私の知っている紗凪ちゃんとは思えない妖艶な笑みを浮かべると、


「この、へ~んたい♪」


 と、私の耳元で呟く。

 ぐらりと、まるで脳が思いっきり揺さぶられたかのように揺れる。

 なっ、なにこれーっ!! いまいち言語では表現できないけどなにやらヤバいのだけはわかる! 劇薬のようなものだ! 

 肌がざわつき、顔が熱くなる。


 そんな囁きであからさまに私が動揺しているのを見て、紗凪ちゃんは再びフフッと笑う。


「う~わ、こんくらいでなんでそないに動揺してはるん? やっぱ図星ってこと?」


「えっと…いや、あの…」


「やっぱり虹白さんは変態さんやったんです――ねっ♪」


「ひゃわっ!?」


 そして、今度はそんな風にフッと私の耳元に息を吹きかける。

 それで完全に私の防御は崩れてしまった。

 情けない声を上げながら飛び退くように紗凪ちゃんから離れる。


「ひゃわっ!?やって~。大人にもなって女子高生相手にこないに簡単に翻弄されて恥ずかしないんですか~」


 そんな私をクスクスと笑いながら見つめる紗凪ちゃん。

 もう、状況が全くわからない。一体全体どうなってるのこれ!?

 眉間に皺が寄り、思考が定まらない。


「な~んや、難しい顔して? なんやら考えてはるんですか?」


 そんな私に紗凪ちゃんが再び距離を詰めてくる。


「いや、えっと…」


「まあ、変態な虹白さんのことや、どうせろくでもないこと考えてたんやろな~」


「そっ、そんなこと…! そもそもあなた本当に紗凪ちゃん!?」


「…ふ~ん、そういうこと言いはるんですか? なら確かめたりますわ」


 私の返答が不服だったのか紗凪ちゃんが若干不機嫌そうにそう言うと指をパチンと鳴らした。

 すると、なんということでしょう。なんと目の前の紗凪ちゃんが二人に分裂しちゃいました~。

 ………って、えええええええっ!?

 そんな私の脳内で炸裂した疑問をガン無視で二人の紗凪ちゃんは私の耳元(右と左)に唇を近づけ、


「「虹白さんのへ~んたい♪」」


「ッ!?!?!?!?!?!?」


 とやけに艶のある声で囁いた。

 まるで目の前で火花が散ったような気がした。

 わかりやすく説明すると声音が二つに増えたことで威力が二倍どころか二乗になっている。


 だが、しかし強すぎる衝撃というのは時として人を冷静にさせるものである。

 その衝撃で一瞬、脳がリセットされたようにスッとする。

 そして、

 

「あなたは…紗凪ちゃんじゃない…!」


 ぐらつく意識の中でそうしっかりと目の前に起こっている事象を否定する。

 その言葉に微かにだが二人の紗凪ちゃんの表情が揺れた気がした。

 これは好機。恥ずかしながらこのまま受け身に徹すればやられてしまうのはわかった。だからこそ攻める。


 指で両手でビシッと二人を指差し、最大級の決め顔をつくると、


「あなたは私の夢が生んだ偽物の音木紗凪――小悪魔化したちょっぴりサディスティックな紗凪ちゃん。言うなればS凪ちゃんよ! 紗凪ちゃんではないわ!!」


「「くっ!?」」


 私の傍から見ればアホ丸出しの言葉に二人の顔色が明確に変わる。

 ふっ、甘いよ甘い。私の恋のパワーを舐めてもらっちゃ困る。

 …うん、でも偽物と見抜いたからといってどうなんだろう。これから私はどうすれば?


「「ふっ、ふふふっ、ふふふふふふっ」」


「何が可笑しいの!?」


「「ばれてもうたら――しゃあないな」」


 私の言葉を受けて観念したかと思ったS凪ちゃんだったが、それは逆だった。

 まるで開き直ったかの様にニヤッと笑う。

 そして瞬きの一瞬で再びS凪ちゃんが分身する。2×2で4人になった。

 もう、何が何やら意味不明である。


 そして、何故かその4人の紗凪ちゃんは私を取り囲むように前後左右に陣取る。その上、まるで私を逃がさない様に互いに手を繋いでいる。

 

「なっ、なにを!?」


「いまから」

「虹白さんを」

「ずーっとずーっと」

「いじめたりますわ」


 4人が交互に口を開く。

 あら、可愛い。でも残念ながらもう惑わされない。

 何故なら本物の紗凪ちゃんの方がもっとずっと可愛いから!!


「虹白さんのえっち~♪」

「す~けべ♪」

「むっつり~♪」

「へ~んたい♪」


「……………っ!?」


 と格好つけたはいいが現実は非情である。

 四方からの甘い言葉攻めに若干 気持ちがぐらつく。

 耐えろ~、耐えろ~、私~!!

 このままではヤバい! その上、女子高生から罵倒されて若干喜びかけてる私の状況もヤバい!! どちらかというと後者の方がヤバい気がする! 社会的な意味で!!

 そうだ、いままで(数時間ほど)の紗凪ちゃんとの思い出を思い出すのだ!!


『虹白さん』


 その瞬間、微かにそんな声が聞こえた気がした。

 四方から響く声と同じ声。

 でも、それはどこか優しくて、明るくて、私の大好きな女の子の声な気がした。


 それにより意識が覚醒へと向かっていくのが何となくわかる。

 それでもまだ、周囲でS凪ちゃんの声も聞こえる。

 だからこの夢から覚めるために、S凪ちゃんから逃れるために、


「うわああああっ!?」


 と魂から叫ぶ。


 パッと視界が開けた。

 そして、次の瞬間に額に思いっきり何かにぶつかったような衝撃がはしる。

 遅れて「った!?」という聞き慣れた声音とさっきまでとは違う室内の明かりが目に入った。


 よかった~、やっぱり夢だった~。

 って! そんな呑気に一息ついてる場合じゃない!

 私がさっきぶつかったのってまず間違いなく――!


「あー、よかった~。目ぇ覚めたんですね」


 寝ていた身体を起こし、後ろを見たところで額を押さえながら笑みを浮かべる紗凪ちゃんと目が合う。

 バスタオルを身体に巻いただけというセクシーな格好の紗凪ちゃんがホッと安心した様に息を吐いたところだった。

 本物の紗凪ちゃんだと本能でわかった。


「音木さん、あれ私って」


「って、虹白さんバスタオル抑えて抑えて!」


「あっ」


 そう指摘されて今の自分の姿に気付く。

 普通に裸。その上にバスタオルが1枚被さっているだけというものだった。そして、それに連動してこれまでに至るまでの経緯が思い出される。

 私は紗凪ちゃんに抱きしめられる+ガッツリその裸を眼にすると言うコンボを食らってそこで意識が途絶えたはずだ。そうなれば、私を今ここまで運んでくれたのが誰かなのかは火を見るよりも明らかだ。

 それは――つまり――気を失っている間に私はまず間違いなく紗凪ちゃんに色々と見られちゃったわけで――。


 ………あわわ、あわわわわわわわっ!!


 少し前までは紗凪ちゃんの裸を見られないことだけに注力していたが、考えればその逆のパターンも考えられるわけだ。

 そして、それを今まで考えもしなかったそのことを認識しただけで顔がボッと熱くなるのを感じた。


「あー、えっと」


 きっとそんな恥ずかしがる様子が顔に出ていたのだろう。

 紗凪ちゃんが言葉を濁しながら、


「まずは髪、最後まで乾かしましょか? 風邪ひいたらあかんし」


 と困った様に笑った。

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