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Episode-17 『初お風呂後・関西弁JKの場合』


 ふー、なんやメッチャ素直に礼言っとるのが恥ずなって最後に適当言ってもうた。

 あっ、でもどうせならフルーツ牛乳の方がえかったかもしれんな~。コーヒーとフルーツ、悩みどころやけど…でもたまにはノーマルな牛乳も旨いんよな。

 まあ、どっちにしろ百合神のことやからシカトこかれる可能性のほうが高いやろけど。

 そんなことより今はこっちが遥かに優先やろ。


 両手に虹白さんを抱えたままにお風呂場を後にする。

 とりあえず重病とかやなくてほんまによかったわ。

 たぶんうちの思っとる以上にさっきのうちは動揺してたんやろな。そのせいか今は一段とホッとしとるのが自分でもわかるわ。

 そして、ホッとしてもうたことで余計なことを意識してまう。


「うっ…」


 腕の中には意識のない虹白さん。

 正直、さっきまでは何も感じへんかったんやけど腕の中には全裸の超絶美女。否が応でも少しは意識してまう。

 これ、うちがおかしいんやろか? いや、絶対ちゃうと思う。

 だって普通に生きてたら、全裸の女子高生が全裸の超人気女優をお姫様抱っこをしながら運ぶなんてシチュエーションにはならへんもん。

 もしやこんな状況は人類初なんちゃうか。


 まあそんな後ろ向きなことを言ってる場合やないか。

 できるだけ視線を虹白さんの身体に向けないような小走りで脱衣所に突入する。

 

「えーっと、こんあとは…」


 涼しい場所で安静にってな感じやったよな。

 なら、まずは虹白さん寝かす場所やな。

 あの木の長椅子みたいなんでええか。目に付いたのはこれも普通の銭湯や旅館の脱衣所やらでよう見かける木製のベンチみたいな長椅子。それが二つ脱衣所に並んどる。


「ちょっと、すんませんね」


 そう言って、ゆっくりと片方の長椅子に虹白さんを寝かす。

 そのままテクテクとある場所に走る。


「あった、これやこれ」


 脱衣所の入口付近にお目当てのそれはこれまた大量に置いてあった。

 それはやけにフカフカなバスタオル。それを三つほどとって再び虹白さんの元へと走る。

 今度は虹白さんを寝かしとる方とは別の長椅子に用があるわけや。その長椅子の前まで行き、バスタオルを一つバッと伸ばして、カバーみたいにコーティングする。

 うん、ええ感じ。さすがにこの木に直で虹白さん寝かすわけにはいけへんしな。


 即席ベットが完成したことで、もう一度虹白さんを両手で抱えるように持ち上げる。

 うーん、これ絶対に慣れへんな。

 緊張を誤魔化すように機敏に動き、即席ベットの上にゆっくりと虹白さんを寝かす。

 そして最後にもう一枚バスタオルをバサッと広げ、虹白さんの上にかける。

 

 「よし、まずはこれでええやろ。さすがに体を拭くのはあかん気がするし」


 一先ずはこれで身体についとるお湯はタオルが多少吸い取るやろ。それにさすがに裸で寝かすのは気が退けるし、うちの眼にも毒やしな。

 でもまあ、これで一安心。


「さてっと」


 残った最後の一枚のバスタオルで身体を拭き、そしてそれを終えると少し悩み、着替えをせずに身体にバスタオルを巻きつけることにした。


「あとは――」


 今度はそのまま着替えカゴの前まで歩く。

 そしてそこからうちが持ってきたタオルを取り出す。

 うーん、安もんやけど大丈夫やろか。まあでも濡れたまんまにしとくのもあれやしな…。よし、緊張するけどやるしかないか。


 そのまま再び、虹白さんの即席ベットへと戻る。

 そして、虹白さんの頭部付近まで近づき、そこで腰を折って床に膝をつく。

 

「うーん、あんまこういうの慣れてないんやけどな」


 そんなことを呟きながら、おっかなびっくりと言った感じに虹白さんの長い髪の水気を取るようにタオルをあてていく。

 髪は女の命ってよう言うしな~、それが人前に出る仕事の女優さんなら尚更やろ。

 なら、しっかりとやったらな。それに虹白さん髪長いし風邪ひいたらいかんしな。


 慣れない手つきで虹白さんの髪に触れて、可能な限りゆっくりと丁寧に拭いていく。

 特に独り言を言うこともなくその作業に集中すること数分。一応、全体の水気を取り終える。

 うん、やっぱ人間集中したら黙るもんやな。それにしても長い髪の人ってホンマに大変やな。いつもはこれ一人でやっとるんやろ。それに多分さっきのうちのよりほんまはもっと丁寧にやったりするんやろし。

 凄いな~。


 不意にロングヘアーに対するちょいとした尊敬じみた感情が湧く。

 うちが昔っからショートだからやろか。

 でも、うちはようせんわ。邪魔くさがりやしな~。毎回毎回こんなんぜったい無理やな。


「さてさて、あとは」


 視線を洗面台の方に向ける。

 やっぱドライヤーで乾かした方がええんやろか?

 …………。

 うん、ここまできたら最後までやったろか。


 地面に先程まで虹白さんの髪を拭いていたタオルを置き、長い髪が地面に触れないようにする。

 そのまま、洗面台まで歩いていきドライヤーを手に取って、コンセントに差し込む。

 今さらやけどここ普通に電気とかあんねんな。変に現実的やな。

 っと、そんなツッコミいれてる暇はないな。


 コードを伸ばし、再び虹白さんの元へと戻る。

 スイッチを入れると、ブワッと暖かい風が溢れ出した。

 さーて、最後の関門や。虹白さんの髪を地面につけるわけにもいけへんし、さっきより一段と丁寧にやらな。

 髪を拭いていた時よりももっと虹白さんの頭付近に近づき、正座の様な形をとる。そんまま、虹白さんの髪を身体で支えるようにしながら、少しずつドライヤーに当てて乾かしていく。

 うーん、むずい…。けど、まあいけそうっちゃいけそうやな。


 そんまま再び数分、無言でその作業に没頭する。

 うち意外と凄いな、メッチャ集中できるわ。それに存外この作業が苦にならへんのよな。それどころかちょいと楽しい気もするわ。

 気ぃ早いけど、元の世界戻ったら蕾美(妹)の髪もやったろかな。

 そんなことを思いながら、作業を続ける。

 

「ん?」


 そんな中、前髪付近を乾かしていたところで不意に虹白さんの顔が目についた。

 気絶しとっても綺麗な顔立ちにしとるんは相も変わらずやけど、心なしかその表情は苦しそうに見える。悪い夢でも見とるんやろか…? 

 

 はっ! もしやうちの乾かし方がごっつ下手くそでそれが夢の世界まで影響及ぼしてるんやろか!?

 不意にそんなこと思って、心配になり虹白さんの顔を覗き込むように見る。

 しかし、


「うわあああああっ!?」


 その瞬間に虹白さんがそんな悲鳴と共に突如ガバッと上半身を起き上がらせた。

 そして、当然覗き込んでいたうちの頭はその付近にあったわけで――。


 ゴツンと派手な音と共にうちの額と虹白さんの額が思いっきりぶつかった。


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