Episode-141 『知ってる人達と知らない人達・超清純派女優の場合』
「えっと、いきなり失礼かもしれませんがお名前をお聞きしても?」
いきなり出会ったエキストラではない生身の人間。
それにより脳内に溢れる疑問。
その答えの考察。
この『ショッピングルーム』にエキストラ以外の人間が私と紗凪ちゃんの他にいるなんて聞いていない。
それにこの人がいるってことはもしかしたら他の人もいる可能性があるのでは。
それこそ『ショッピングルーム』は一か所しか存在しなくて全部屋共通の空間ということもあり得る。
しかし、その全てよりも気になったことがあった。
だから私はまず最初にそんな質問を自然と目の前で相対する女性へと投げかけていた。
さっきは似てるなぁ、と思った程度だった。
だが、こうして近くで真正面からその顔を見れば似ているどころでは済まない程に私の過去の記憶と酷似していた。
もしかして、この人…。
「名前ですか? 青葉七生ですけど…」
「やっぱり!」
疑問に思ったであろうに素直に答えてくれた女性――青葉さんの返答に思わずそう声を上げてしまう。
っていうか、思っていた以上に大きな声が出てしまった。はずかしっ。
ゴホン、と気持ちを整える様に咳払いを一つする。そして、
「っと、すみません。実はお姉さんと昔に会ったことがありまして――」
「えっ!? 姉さんと?」
「はい、確か名前は青葉三奈さんだったかと」
「――! そっ、それは確かに私の姉ですね」
どうやら私の勘は正しかったらしいね。
あの時会った二ノ前先生の担当編集さんの妹さん、それがこの人というわけだ。何たる偶然というか人の縁の繋がりだろうね。
あれ? でもお姉さんが三奈で妹さんが七生? ってことは間に四、五、六、がいるってこと? 大家族? あっ、それとも七五三的な感じで五だけがいるのかな?
と青葉七生さんの素性を見事予想的中させて、そこから派生したそんなどうでもいい考え事を始める私。
対して青葉さんの方は、
「虹白夜と知り合いとか聞いた事ないし…、それとは別になんでここに虹白夜がいるって話だし…、そもそも私と憩以外になんでここに人が…――、まさか同じ条件の人が他に何人も…――」
メチャクチャ困惑している様ですんごい難しい表情を浮かべながら、考え込む様にブツブツとそう独りでに呟いていた。
――あっ、そっか。
よくよく考えてみれば、明確に自分と同じ部屋で暮らす同居人以外で突然百合神様にこの空間に呼ばれた同類がいることを知らされたのは、私達トップ5と二ノ前先生達ワースト5の計10組20人だけだ。つまり私の総部屋数の予想が正解だった場合、私みたいに自力で気づかない限り残りの80人は何も知らない可能性が高いのだ。
なるほど、私が考えていた三だの七だのの質の低い疑問とは異なり青葉さんの脳内には今メチャクチャ重要で重大な疑問が渦巻いている訳だ。
うん、大変ですね。同情します。
「――あの、青葉さん」
が、いつまでもそうお互い考え事をしながらの沈黙が続くのもあれなので、こちらから名前を呼んで話しかけてみる。
私の呼びかけに「――はっ」と青葉さん――いやわかりにくいから七生さんにしよう。七生さんが顔を上げる。そして少し気恥ずかしそうな表情を浮かべると、
「すみません、私ちょっとなにか疑問に思うと考え込んじゃう癖があって」
「いえいえ謝られるようなことじゃないですよ。というか、普通驚きますよね。私も最初驚きましたもん」
「なるほど、最初…ですか。今までの口ぶりもそうですし、その落着き様。――やっぱり虹白さんの方は会うのが私が初めてじゃないんですね」
「――ええ」
どうやら七生さんは頭の回転はかなり早いらしい。
すぐに私の話す言葉の中から疑問を見つけ出した。そして、それを話すその表情はそのことについて詳しく知りたいと無言で主張している様だった。
さて、どうしますかね…。
ってまぁ答えは決まっているか。このまま疑問だらけの七生さんを放置するのは流石に可哀そうというか、忍びない。
「そうですね、では一先ずお互いにここに来た用件だった買い物だけ終えてましょう。その後に向こうにあったフードコートででもお話しませんか?」
そんな彼女に私はこの精肉コーナーに来たときから目をつけていた紗凪ちゃんが好きそうな和牛ステーキ肉を手に取って、ニコリと笑いながらそう提案した。




