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Episode-138 『結果発表・百合神の眷属(丘)の場合』


「では、お二人とも更衣室の扉を開けて下さ~い♪」


 ――そう私が意気揚々と大きな声で対面を促がしてから、三十秒ほどの時間が流れようとしていた。

 

 そして、


「…………」

「…………」


 私の目の前ではもじもじしながら未だ何もしゃべらずに無言でお互いに見つめ合っている『ルーム50』の住人二人の姿があった。


 …いや、予想していたリアクションと違うんですけど。


 私の予想では互いの選んだ服を少し照れながらも褒め合っていい雰囲気になると思っていた。

 実際、二人が選んでいた過程と選んだ完成形を私は知っている。どちらもしっかりと相手のことを想いながら真剣に選んでいたし、その努力の結晶であるコーディネートもどちらも悪くない。この辺りは流石、現時点での上位五組に選ばれるだけのことはあると言えよう。


 まぁ、だからこそ…今のの状況がもどかしいんですけどね。


 二人の間で今何が起こっているのかは何となく想像がつく。

 お互いがお互いの服を選ぶというこのシステム。その中で二人はある二つの感情を胸に抱いているはずだ。

 それはすなわち、


 ・相手に服を選んでもらえて嬉しいという歓喜の感情

 ・相手に自分の選んだ服を喜んでほしいという期待の感情


 そして今は両者ともに前者を後者が上回っていると言ったところなのだろう。だからまずは何となく相手の感想が知りたい。

 相手のことを一番に考え思うが故のすれ違い。それがこの状況を生んでいた。


「はぁ~」


 二人にばれない様にホントに小さくため息を吐く。

 まったく、最初から最後まで手のかかる人たちですね。そう心の中で呟いた私の口元は何故か少しほころんでいた。

 

「えーっとですね――」


 そのほころんだ口をゆっくりと開く。


「まずはお互いの選んでくれた服装に対する感想でも言ってあげてはいかがですか?」


 そして、そうほんの少しだけ両者の背中を押した。

 私のその指摘に二人がハッとした様な表情を浮かべる。続いて先に虹白夜の方が、


「あーっと…、紗凪ちゃんお洋服選ぶの上手なんだね。凄いセンス良くてびっくりしちゃった」


 そうゆっくりながらも感想を口にした。

 それを聞いた音木紗凪の方は「ほっ、ほんまですか!?」と先程までの緊張してた表情が嘘の様にパッと表情を華やかせた。


 そして今度は逆の番だ。

 「おっ、おおきにです」と少し照れた様に言って、音木紗凪が虹白夜を見つめる。そして、


「あの…夜さんの選んでくれたやつもメッチャええですよ! なんか普段着慣れない感じで新鮮で、それでいて何か不思議と違和感はなくて…なんつーかあの、凄い好きな感じです!」


 言葉を探しながらの、だが確かな熱と心からの思いの籠った感想を伝える。

 そのストレートな熱い賛辞の言葉を聞いた虹白夜の方は「ほっ、ほんとに!?」と嬉しさを隠しきれない様に笑みを浮かべながら頬をかいていた。


 そして、その会話を皮切りに「特にここがええですよね」「そっ、そう…!?」「ええ、うちやったら思いつかんですわ」「ありがと。でも、それなら紗凪ちゃんの方が凄いよ。本当にスタイリストさんが選んだみたいだよ」「あははっ、実はお客さんの人にアドバイス貰ったりもしてるんですよ」「――あっ、なるほど! その手もあったんだ、それこそ私じゃ思いつかなかったよ」と二人の会話が展開される。


 そんなにべた褒めしあう様なコーディネートでもない気がするけど…まぁここでそんな興冷めするようなことを言う程に空気が読めなくはありませんよ、私は。

 そして、これは一つ訂正すべきことがありましたね。


 私は先程、『相手のことを一番に思うが故の擦れ違い』と言った。でも擦れ違いは言いすぎだったらしい。正確には食い違いぐらいのところだろう。

 だって、私が一言助け舟を出しただけでこんなにも空気が変わったのだから。食い違っていた歯車を一つ合わせただけで面白い様に回り出す、それがこの二人なのだろう。


「ふっ」


 思わず小さな笑い声が口から漏れた。

 確かにこれは百合神様が上位五組に選ぶのも改めて納得だ。こんなに面白い二人組そうはいないだろう。何よりも見ていて飽きない。


「おーい、百合丘」


「? はい、なんでしょう」


 そこで二人の会話も落ち着いたのか、不意に音木紗凪の方が私の名を呼ぶ。

 そして、


「ちなみにホンマにちなみにやけど、ずっと見てたお前はどう思う? 二人とも似合っとるかな?」


 そんな問いを投げかけてきた。

 それに私は少し考えてニッと笑うと、


「ええ、お二人ともとってもお似合いですよ。二つ・・の意味でね♪」


 そう心からの本音を伝えた。


「は? 二つの意味?」

「~~~~!」


 私の言葉に音木紗凪がポカンと不思議そうにし、虹白夜が頬を少し朱に染める。


 こういうところも面白い。

 ある時はまるで正反対、ある時は恐ろしく似た者同士。それでいて豊かで素晴らしい関係性を築いている。会って数時間程度でこれがわかるのだ。もっと時間が経てばもっと色んな面白い面が見えることだろう。

 だからこそ、


「さて、ではキッチリとお二人とも満足のご様子ですし『第一回コーディネートはこうでねえと大会』を終了と致しま~す♪」


「…この服選びっていつそんな常軌を逸したダサい名前になってたん?」 


「ではまたのお越し及び第二回の開催をお楽しみにしております、百合丘リリーでした♪ 百合百合ぴょ~ん♪」


 新たに増えた楽しみ胸を躍らせながらそう言い残し、指をパチンと鳴らすと私は二人の前から姿を消したのだった。

 

 あ~、楽しみですね♪ 私は今一番、自分が百合神という存在の眷属であると実感しています♪ 


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