Episode-134 『貴女のための服選び・超清純派女優の場合②』
「さてと、そろそろ本格的に選ぶ作業に移行するとしましょうかね」
もう紗凪ちゃんのお洋服を選び始めてどれくらい経っただろうか。
このままでは際限なく時間が経過してしまいそうだったため、区切りのいいところで私は新しい衣類の発掘作業を打ち切り、ここから今まで目をつけたものの中から紗凪ちゃんのトータルコーディネートを完成させる作業に移ろうとしていた。
そして、その前にやることがある。
言うまでもなくこの『ショッピングルーム』の規模は広大。私が今回服を選んだ四階に限ってもかなりの敷地面積を誇っている。つまり何が言いたいかというと、私が良いと思った衣類をコーディネートを完成させるために一々集めることは大変だということだ。
ちなみに今の私は手に何も持っていない。最初は良いと思ったやつは全部かごに入れて現実世界のようにショッピングをしようと思ったのだが、候補があり過ぎて諦めたのだ。
だが、考えなしにそんなことをしたわけではない。私には秘策があったのだ。
思い出してほしい。この世界に来て私と紗凪ちゃんはたくさんの神の権能に触れた。現実世界では到底起こりえない人智を超えたその力。
必要な際には機転を利かせ、その力は利用できるときにした方が良い。今さらながらそのことに私は気付いたのだ。百合神様のことが、それが私たちの百合的関係の良化に繋がるならば、多少複雑で難解な事であろうとも了承してくれるに違いない。
そうと決まれば、さっそく百合神様を、
「――あ」
そう思いかけたときに私は気付いた。
「でも、ここでは百合丘さんにお願いする方がいいのかな。オーナーって言ってたし、用があれば呼べとも言ってたよね」
百合丘さんは恐らくだが百合神様の眷属とか使い魔的なやつなのだろう。いや、百合神様が神様なわけだからそうなると天使って線もあり得るか。あとで聞いてみよっかな。
それで呼ぶときは、
「えーっと…」
周囲を見渡し、そして「紗凪ちゃ~ん」と名前を呼ぶ。反応は返ってこなかったので、私はホッと胸を撫で下ろした。
実際紗凪ちゃんに用があったわけではない。これは私の声が届く範囲に紗凪ちゃんがいないことの確認だった。何故なら私はこれから百合丘さんを呼ばなくてはいけないのだから。
「ふ~~~っ」
一度大きく息を吐き、周囲を見渡す。
ぶっちゃけNPCの皆さんはいるためかなり恥ずかしいが、まあやるしかない。
「百合百合ぴょ~ん♪」
先程の百合丘さんの動作を思い出しながら、見よう見まねでやってみる。
…意外とキレいいんじゃないかな。運動音痴にしては中々のものだった気がする。
近場にあった鏡に映った自分のポーズがそこそこ様になっていて何だがちょっと嬉しくなっていた私だったが、
「何か用か?」
「うわっ、ビックリした!?」
そこで不意に言葉がかけられた。
いや、いきなり声かけられたことにも驚いたっちゃ驚いたけどそれ以上に私が驚いた理由は別にあった。その声が唐突に脳内に響き、尚且つそれは百合丘さんの声ではなかったのだ。
「あれ? 百合神様?」
「いかにも」
「これって百合丘さんを呼ぶ合図じゃないんですか?」
「それもいかにもだ。しかし、百合丘リリーは現在お前の相方と行動を共にしているので、急遽私が参上したという訳だ」
「――なるほど」
百合神様が百合丘さんのヘルプに入るというのは中々新鮮だが、とりあえず納得。
しかし、紗凪ちゃんと一緒に行動。ちょっと羨ましいですよ、百合丘さん。
…というか、
「一緒に行動って何をしてるんですか?」
「気になるか?」
「ぶっちゃけ、かなり」
「…ふむっ」
そこで百合神様が悩むような素振りを見せた。
えっ、私に言えないこと…!? まっ、まさか、紗凪ちゃんと百合丘さんでイチャイチャしてるとか!? 二人の相性が思いのほか抜群で凄く仲良くなってるとか!?
そっ、それは流石に許容できませんよ、百合丘さん!! 嫉妬しちゃいますよ、ジェラっちゃいますよ、百合丘さん!!
と心の中で高速で勝手にエスカレートしている私だったが、そこで「まぁ、いいか」と百合神様が独りでに納得した。
そして、
「音木紗凪は、お前によりよく似合う洋服を選ぶためのアドバイスを貰うために百合丘リリーを呼んだ。そして今はアドバイスの真最中という訳だ」
「――――え?」
その言葉を聞いた瞬間に私は驚くと共に、心が一気に満たされていくのを感じた。
紗凪ちゃんが! 私のために! そんなに一生懸命に!!
そして、同時に私の心の中では熱い炎がメラメラと燃え上がり始めていた。
そんな紗凪ちゃんの優しさ愛らしさ可愛さには私も全力の愛で答えねばならない。
おおっ、こうしちゃいられない!!
「百合神様、さっそくですがお呼びしたのは実は一つお願いがあるからです」
「うむっ、聞こう」
そんな私の熱い思いに気付いたのか、百合神様はそれだけ言って深く頷いた。
「私がここに来てから『これ紗凪ちゃんに似合いそうだな』と思い選んだ衣類を今から一か所に集めて頂きたいのですが」
「お安い御用だ。その近くに空きスペースがあるな、そこにまとめておいておこう」
「ありがとうございます」
私の予想通り、なかなか複雑なお願いだったはずだが簡単に了承してくれた。
そして、「では、健闘祈る」とだけ言い残して頭に響いていた百合神様の声は消えた。
余計なことは一切言わず、用が済んだら百合純度を下げないためにすぐさま消える。その行動に私は百合神様の美学を見ていた。
「――よし」
そして、私は百合神様が指定した空きスペースへと足を向ける。
お膳立ては整った。後は私がしっかり自分の仕事をするだけだ!!




