Episode-130 『勘違いと演技の噛み合い・超清純派女優の場合』
「ではごゆっくりとお楽しみくださ~い♪ あっ、何か御用がございましたらさっきの私と同じポーズをとって『百合百合ぴょ~ん』とやってくださればすぐに馳せ参じますよ~♪」
「いや、普通に呼んだらこいや」
まさかのワープで三階へと到着。
そして、私達をワープさせた当人はそんなお気楽そうな言葉を残して紗凪ちゃんのツッコミにリアクションを返すこともなく、すぐさまその姿を消した。
という訳で、三階には残された私たち二人。
そしてその目の前には色んなお洋服が陳列されている店内が広がっていた。あえて一般のデパートの様な場所との違いを挙げるならば、いくつものテナントで店内が区切られていたりはしておらずただずっと服のコーナーが広がっているところ辺りかな。
つまりブランドとかの区別はないのかもしれない。
そんなことを思っていると、紗凪ちゃんが「よっと」と臆することもなく一番近場にあったTシャツを手に取った。
最初はいきなり気に入ったお洋服でもあったのかな、と思ったがよく見れば紗凪ちゃんはTシャツ自体ではなくそのタグを見ていた。どうやら同じことを疑問に思ったらしい。
そして、
「げ…」
そのタグに書かれた何かを見た紗凪ちゃんがそんな乙女らしからぬ声を上げる。
まぁ、乙女らしからぬ声を上げようとも可愛いのが紗凪ちゃんなんだけどね。
「どうしたの?」
気になったので私も近づき、そう問いかけながら紗凪ちゃんの手元を覗き込む。
そんな私に、紗凪ちゃんは「これです」と呆れた様に笑うと手でつまんだタグを見せてくれた。
「あー…、なるほどなるほど」
『ゴッド・オブ・ワンハンドレッド』とそのタグには結構オシャレなロゴでそう書いてあった。
――まさかの自社ブランドである。
そしてこのTシャツだけがそうなわけがない。というか恐らくこれは、
「ここにあるお洋服のブランドは全て『ゴッド・オブ・ワンハンドレッド』なのかもね」
「うちもそんな気がします。まぁ別にどこの服がええとかこだわりがあるわけやないんで、うち的には問題ないですけど」
「その点は私も同じくかな」
「えっ、そなんですか?」
私の何気ない相槌に紗凪ちゃんが意外そうに首を傾げる。
そして、
「てっきり夜さんぐらいの人は行きつけのお店とか決まったブランドとかあるんやと思ってましたわ」
続く言葉は無意識に目を逸らし続けていた非情な現実を私に突きつけた。
そっ、そうだ…。私はこれからいい年して自分で服の一つも選んだことが無い事実を隠し通さなけれないけないんだった。
「いやいや、そんなことないよ~」と何とか演技で平静を装いながら、脳をフル回転させる。
さて、どうするか? いやぶっちゃけ選択肢などあってない様なものだ。これから私たちは二人でお洋服を見て回る、これはもう決定事項。
いまさらファッションを勉強する時間などあるはずもない。な~らば、私には自分の生まれ持ったファッションセンスだけを頼りに何とかこの場を乗り切る意外に道はない。
大丈夫、大丈夫なはずだ。自分で言うのも何だが、私は基本的に運動系以外は何でも平均以上にこなせる。きっとファッションセンスも今まで発揮する機会がなかっただけで人並み以上のものはもっているはずだ。
だが、一つ懸念事項はある。
今回のこの『ショッピングルーム』に来て初めて見るものをお洋服にしようと提案してきたのは何を隠そう紗凪ちゃんだ。つまり、紗凪ちゃんはオシャレ上級者な可能性が高い!
そうなるとこれはまた勝手が違ってくる。
なにせファッションはトレンドの移り変わりが激しい!……って聞いた事がある。
つまり仮にいくら私に天然のファッションセンスがあろうとも、それが時代にあっていない可能性もある。そして今時女子高生の紗凪ちゃんにそれが見抜かれちゃう可能性もあるのだ!!
具体的に言えば、「あれ? 夜さん、センスはええけどちょい古いな」とか思われちゃうかもしれない。
ううっ、そんなことを思われたくない。だが、これも今さらどうこうできることでもない。
今の私にできることは自分にファッションセンスがあり尚且つそのセンスが今の時代にあっていると信じることだけ。やはり自分を信じる事だけなのだ。
「へぇ~、庶民的なんですね~」と頷く紗凪ちゃんの横で小さくだが深く息を吐く。
覚悟を決めろ、そして、いざ行かん新たな戦場へ。
「あっ、そだ! さっき思い浮かんだんですけど、もしよかったらうちの服も選んでくれません? 夜さんファッションセンスええし!」
「――――え?」
が、そこで予想だにしなかったまさかの追撃が飛んできた。
えっ、選ぶ…? 私が紗凪ちゃんの服を?
その唐突な提案に、流石に私も演技の仮面を即座には用意できずに表情が固まる。
そして、それを見られてしまったことにより紗凪ちゃんの表情が少し曇ってしまう。
「…っと。いや、すんません。いきなり変なこと言うて、もしめいわ――」
「迷惑ではないよ、全然ない! あれだよあれ、いきなり過ぎたからびっくりしちゃって!」
が、紗凪ちゃんの口から迷惑と言うワードが出る前に私は超反応で言葉を紡いだ。
迷惑じゃない、それは絶対違う。紗凪ちゃんの行動言動で私の迷惑になる様なものは存在しない。
だが、だがだ。
自分の服も満足に選べるかもわからないこの状況で更に紗凪ちゃんの服も選ぶ。それによる難易度の上昇は二倍、いや三倍以上にも上るはずだ。
どうする!? どうする、私――はっ!!
がその瞬間、私の頭の上でピコンと電球が光った。
極限の状況に追い込まれたことによる思考能力の上昇。そして、舞い降りてきた妙案。
――これしかない!!
そう瞬時に確信を持って、
「そうだ! じゃあさ、こうしない? 紗凪ちゃんの服は私が選ばせてもらうね。だから、私の服は紗凪ちゃんに選んでほしいな」
今度は私がそんな提案を紗凪ちゃんに投げかけた。




