Episode-122 『初ペット・超清純派女優の場合③』
「さてと」
百合神様がモニターから消え、残された二人と一匹。
そして、紗凪ちゃんときつねちゃんはさっそくメインルームで追いかけっこをして遊んでいる。とても微笑ましい光景だ。
そんな光景を見ながら私は椅子に座り、いつのまにやらテーブルの上に置かれた二枚の紙を手に取っていた。
先程、百合神様が言っていたきつねちゃんに関しての説明と明日開放の二部屋の説明が書かれた紙だ。恐らく大事なことなので読まないという手はない。
「えーっと、なになに…」
まずはきつねちゃんの方から目を通す。
そこには箇条書きで、
・基本的に食事は人間と同じものをとることが可能。
・知能は高く、記憶力もいい。
・運動能力も高いが、危険な行動をとる心配は無し。
・常に清潔な状態を保つ様になっているが、お風呂等に入れても体や体毛を洗っても特に問題はない。
・週一日、リラックスのためその部屋とは別の空間で過ごす必要あり。
・『ショッピングルーム』及び『イベントルーム』への立ち入りは原則不可。
と簡潔にきつねちゃんのことが書かれていた。
「――ふむっ」
そして、そんな短い文章から私は百合神様の気遣いを感じ取っていた。
それはきつねちゃんではなく私たち二人に対する気遣い。
一つ目は、きつねちゃんのスペックを高くすることで私たちの負担を軽くしていること。
二つ目は、週休一日及び立ち入り不可の部屋を設けることできつねちゃんの存在が私と紗凪ちゃん二人の関係を必要以上に阻害しないということだ。
ふふっ、さすが百合神様。私が心から認めた神様なわけです。
「夜さ~ん」
そう感心と感謝と尊敬の念を胸中に浮かべながら笑っていると、私を呼ぶ紗凪ちゃんの声が耳に届いた。
見れば追いかけっこを終えたのか、再びきつねちゃんを両手で抱きかかえた紗凪ちゃんがこちらに小走りで近づいて来ていた。
「どうしたの?」
「いやぁ~、今さらながら大事なことに気付きましてね」
「大事な事?」
「そですよ。あのですね、――この子の名前どないしましょ?」
「あー」
そう言えば、まだ決めていなかった。
百合神様が定めた『箱庭きつね』というのはあくまできつねとしての種の名前。犬で言うところのトイプードルの様なものだ。
この子自体の名前はまだ決まっていない。
「そうだなぁ。やっぱり紗凪ちゃんがつけるのが一番だと思うけど」
「うちですか? うーん、うちみたいなもんにネーミングセンスがあるとは思えへんのですけどねぇ…」
「そういうのは愛情だよ。それに名前は呼んでいるうちに慣れてくるものだろうしね」
「そうですかぁ、う~ん」
顎に手を当てて真剣に悩む紗凪ちゃん。これだけ考えて思いついた名前ならばどんなものであろうともきっと良いものになるはずだ。
心なしかきつねちゃんの顔も自分の名前をどこか楽しみにしているようにも見える。
「きつね…、きつ? えーっと…英語やったら…」
『コォ~ン、コン!』
「ん? コン…。コンコン、んー。――あ!」
そして悩むこと少々。
紗凪ちゃんが突然声を上げた。どうやら何か思いついたらしい。
「あの、夜さん。うち英語できひんから、ちょっとお知恵をお借りしたいんですけど…」
「ん、なあに?」
「コン――なんとかかんとかって、感じの英語ありませんでしたっけ。なんやこう…、めでたい感じの」
コンなんとか?
いっぱいあるけど、めでたい感じと言えば…、
「コングラッチュレーション?」
「! それですそれです! ちなみに意味はどんな感じですか?」
「お祝い、とかそんな感じかな」
「おお、ピッタリやないですか!」
「…え?」
嬉しそうにそう言うと、そのまま紗凪ちゃんは高い高いをするみたいにきつねちゃんを持ち上げた。
そして、
「よし、今日からお前はコングラッチュレーションや!」
『コォ~ン、コンコ~ン!』
「ハハッハ、そうかそうか! 気に入ったか♪ はぁ~、可愛いやっちゃな~」
そんな訳で、我が家にやってきた子ぎつねの名前は『コングラッチュレーション』に決定しました。
「あはは…」
………とりあえずあれだね。すんごいネーミングセンスだね、紗凪ちゃん。まぁ、気に入ってそうだから私も嬉しいけど。
ちなみに、流石に毎回それでは長すぎるので愛称は『コン』もしくは『コンちゃん』になりました。




