Episode-121 『初ペット・関西弁JKの場合』
「よっしゃ! 決まったで~、百合神~」
引いたカードをそのままモニターに見せつけるように掲げて百合神に伝える。
すると百合神は、「ふむっ」と小さく頷き、
「では、褒美を与えよう」
と指を鳴らした。
今日はよう指鳴らしよるな、こいつ。
何となくそんなことを思っていると、
「おお」
「わっ」
いつのまにやら屋上から、光の塊みたいな謎の物質がゆーっくりと降りてきていることに気付いた。
なんや、あれ?
「両手を受け止めるようにして出せ、音木紗凪」
そこで百合神から指示が飛んでくる。
「おっ、おう」、言われるがままに両手を前に出すとその光の塊はそこへ狙い澄ましたかのように着地した。
そして、
『くぅ~ん、コンコン』
その光が、――ボワンという軽快な音と共に弾け飛んだかと思うたら、うちの腕の中に一匹の子ぎつねが現れた。
「――!!」
はわわわわわわわっ!?
なんやこれ、なんやこれ! めっちゃかわええやん!! ほんでめっちゃもふもふやん!!
そして、一瞬でうちの心は撃ち抜かれてしもうたらしい。
今までペットを飼いたくても飼えなかった欲求がずーっと蓄積されていたけど、腕の中の子ぎつねの温もりはその欲求を一瞬で溢れそうな程に満たしてしまった。
『コンッ、コンコン!』
「おお、なんや! めっちゃ懐っこいな、自分! よーしよし、ほれほれ!」
『くぉ~ん、コンッ』
「ハハッ、そか! 楽しいか!」
昔に親戚の姉ちゃんの赤ちゃんを抱っこした時の要領で高い高いをしてみたら、子ぎつねはご機嫌そうに鳴いた。
あかん、予想以上の破壊力や。これが初ペットの衝撃か――あっ!
が、そこであることに気付いた。
うちだけ可愛がってたらあかんやん。夜さんとうちのペットな訳やし。
「夜さんも持ってみます?」
そう言いながら夜さんに視線を向けると、
「――――」
何故か夜さんは何かを考えるように真剣な表情を浮かべていた。
「夜さんどうかしました?」
「――!? えっ、…ああ、うんちょっとね」
「もしかしてこの子で何か気になることでもありました?」
そして、その視線が子ぎつねに向いていることに気付きそう問いかける。
うちは普通に可愛いと思うてんけど、もしかしたら夜さん的にはなにか引っかかるところがあったんやろか?
「あっ、えーとね…」
「はい」
「どうでもいいことかもしれないけど…。きつねってそんな鳴き声だったかな~、ってふと思ったんだけど…」
「はい?」
『夜さんが気に入らないのなら仕方ない。この子にはめっちゃ申し訳ないけどどっち優先かいうたら夜さんや。百合神にペットの交換を申し出なきゃあかんよな』、とそんな風にそこそこシリアスな感じのことを思っていたうちは続く夜さんの言葉にそんな素っ頓狂な声をあげてしまった。
鳴き声?
「えっ、おかしなところありました?」
「いや、『コンコン』って鳴いてたからあれ~?って感じちゃって」
「? きつねいうたら『コンコン』ちゃいますの?」
「世間一般ではそう言われてるんだけど、実は実際のきつねの鳴き声ってもうちょっと違う感じの鳴き声なんだよ」
「へぇ~」
さっすが夜さん。物知りやな~。
「ふふっ、相変わらず鋭いな。虹白夜」
夜さんの相変わらずの知識の広さに感心していたところで、こちらも感心した様に百合神が会話に割って入ってきた。
ほんで、鋭い言うことは夜さんの指摘は当たっているってことなんやろな。
「その子ぎつねは人間界の生態とは少し異なるように創造した百合の箱庭モデルのきつねだ。そうだな、生物としての名前は『百合きつね』とでも名付けようか」
「嫌や、なんやキモいわ。普通にきつねでええやろ」
「…貴様は私に対してならどんな暴言も許されると思ってないか?」
「あっ、勘違いせんといてな。百合って言葉がキモいんやのーて、『百合きつね』って名前の語感と即席でそう名付けたお前がキモいって話や」
「なお悪いわ! …だがまぁ、確かに百合の箱庭で生まれたきつねだから『百合きつね』は少しおかしいか。実際そのきつねが百合なわけではないしな…。はぁー、仕方ない。ここは小娘のわがままを聞き入れて『箱庭きつね』に名前を変えてやろうではないか」
「うーん、…まぁ、『百合きつね』よりは語呂ええな。うん、じゃあはい。それで、ええんやない」
「急に冷めるな! まったく、お前は本当にそういうところを直した方が――っと、もうこんな時間か」
そこで百合神が唐突にそんなことを言いだした。
「なんやお前、そんな予定詰まってるんかいな」
「ああ、お前たちとは別に四組残っている訳だしな」
「四組。――ああ、他の成功報酬組ですね」
「あっ、なるほど」
そういやうちら以外にもあの宿泊学習やってる人おったんよな。
つーか、四組って全部成功してるな。やるやん。
「左様。という訳で、残り二つのニュースはパッパと簡潔に伝えるぞ」
「おいおい、やっつけ仕事やんけ」
「誰のせいだ、誰の!」
うちの入れた茶々にいつも通りのオーバーリアクションを示すと、「はぁー」と息を整えるように大きく百合神が息を吐く。
そして、
「では残り二つの良いニュースだ。明日、正午12:00より『ショッピングルーム』及び『ひなたぼっこルーム』を開放する」
そこそこでかいニュースがうちらに告げられた。
「ちなみにその二部屋の概要と『箱庭きつね』の飼い方をまとめた二枚の紙をこの通話終了後にその部屋に送るので読んでおくように。よし、これくらいだな。最後に聞きたいことはあるか?」
「ホンマに駆け足やな。あっ、そだ。この子、女の子なん? 男の子なん?」
「ここは百合の箱庭だ。みなまで言わせるな」
…あー、せやった。こいつそういうこだわり強いんだった。
「虹白夜の方は何かないか?」
「あー…。私は一先ず大丈夫ですかね」
「わかった。では、さらばだ」
――パシン。
そして、テレビの電源が切れるかのようにモニターが消え、うちと夜さんを残して百合神は去っていった。
っと、ちゃうちゅう。うちと夜さんともうこの子がおんねんやった。
「お前賢いな~。あんな変なお面が話してるのに、吠えもせずにだまーって大人しくしてるんやもん。可愛いうえに頭いいとか無敵やんけ」
『コォン、コン!』
こうして、なんやかんやありはしたけど、うちら二人だけだったこの空間に一緒に暮らすペットが一匹加わったんやった。




