Episode-14 『初お風呂・超清純派女優の場合』
舐めていた。
完全に備えが足りなかったと言うほかないだろう。想定が甘すぎた。
何とかお風呂場に入っても気力で耐えられると思っていた。が、その考えがそもそもの間違いだった。
勝負はそれ以前の問題だったのだ。
それは完全なる不意打ち。
脱衣所に入り、気合いをもう一回入れ直そう!ってときにいきなり紗凪ちゃんがTシャツを脱いだ。
その瞬間に私の中の全てが瓦解した。
ガッツリと紗凪ちゃんの下着が視界に入る。そして、一瞬遅れて口から変な声の悲鳴が出た。と同時にバッと視線を逸らし床に丸まるという行動を取ってしまった。
…うん、厳格な口調で説明したが要は我ながら23歳にもなって何をやっているんだという話だ。
当然そんな私に紗凪ちゃんは心配そうに声をかけてくれた。
が、紗凪ちゃんの下着を見てしまいテンパってこうなっちゃった。などと言えるはずもなく捻挫という謎の嘘をついてしまった。
自分で言っていて相当苦しい言い訳なのはわかっていた。でも、何故か紗凪ちゃんは途中で何かに気付いた様にハッとして、何か得心が言ったように納得しだしてしまった。
…これは何か勘違いをされている気がしないでもない。
まあ、何はともあれこれで一件落着…とまではいかないが小休止ではあるだろう。
五分のリミットと気持ちを作り直す機会を得たわけだし。
――と、そう思っていた。
「ちょっとだけ、足見してもろてええですか?」
そんな言葉と共にいきなり正面に紗凪ちゃんが回り込んでくる。
あまりの衝撃に「ええっ!?」と素の声が漏れる。
しかし、紗凪ちゃんの方はそんなこと全く気にしたような素振りもなく私の足に優しく触れる。
「んー、腫れとかは全くありませんね。これも痛ないですか?」
「うっ、うん」
紗凪ちゃんは普通の会話をしているつもりだろ。でも、私はそれどころじゃない。
正面に上だけだが下着姿の紗凪ちゃんがいる。その上、現状目を背けることもできない。
完全に上の空だ。
紗凪ちゃん、意外と思ったよりも胸おっきい…!
はっ、何を考えてるの私は!? 紗凪ちゃんは私を心配してやってくれてるのに最低だ! でも、これはしょうがなくない!
脳内で自己嫌悪と自己弁護が並行して起こっている。
というか、もう自分でも頭が混乱しすぎてなにがなんやら…、一つだけわかるのはこのままではヤバいということ。
たっ、助けて~!
「なるほど、ほんまに軽く捻っただけみたいですね。なら一安心ですわ」
そんな誰にかけたのかもわからない願いが通じたのか、紗凪ちゃんがホッと息を吐くと私の足から手を放してくれる。私もホッとする。
そのまま、紗凪ちゃんは見惚れるほどの思い切りの良さで身に着けていた衣服を脱いでいく。ちなみにこれは衣擦れの音で察しただけだ。紗凪ちゃんが再び自身の着替えカゴの前へと移動したことで視界から外れあたしもそっちを向いていない。多分今見たら昔の漫画の如く派手に鼻血を吹き出す自信があったからだ。
「んじゃ、お言葉に甘えさせて貰いますね。お先に湯船で待ってますわ。もし痛みが出てきたら呼んでくださいね」
最後までに私を気遣う言葉と共に紗凪ちゃんの姿が脱衣所から消える。
それを確認し、ようやく私は後ろを振り返った。
「は、はわぁ…」と気の抜けた様な声が口から漏れると共に、軽く腰が抜ける。
ひとまずはこれでようやく本当に小休止だ。
だが、紗凪ちゃんを必要以上に待たせて余計に心配させるわけにもいかない。
「よしっ」
軽く気合いを入れるためにそう声に出して立ち上がる。
もちろん、捻挫なんかしていないためその動作に支障はない。あえて言うならば、ちょっと足に紗凪ちゃんの手の感触が残っていてこそばゆいくらいだ。
紗凪ちゃんのとなりの着替えカゴを取り、Tシャツを脱ぐ。
と、そこでまた一つ自分の判断の誤りに気付く。
「う~ん、これ下着は着替えてきた方が良かったかな」
自分の胸部に目を落とす。
ふむ、やっぱ頼りになる大人の女性のイメージとして色が黒とかでもっとエロティックな感じなのだろうか…。いや、でもあんまりアレ過ぎても引かれちゃう? 実際は私はあんまりそういうのにはグッと来ないんだよね~、そんな経験ないから想像ですけど。
まあ、そもそも私そんな下着なんて持ってないから意味のない仮定なんだけど。
そんなどうでもいいことを考えながら服を全部脱いで片手でタオルを掴む。
ここまで紗凪ちゃんがお風呂に行ってから約一分。つまりあと四分ほど時間に猶予がある。
そして、この四分間を何に使いべきかは先程思いついた。
タオルを片手に持って、お風呂場ではなく洗面台の方へと歩いていく。
ここも旅館の様に明らかに二人用ではない蛇口やドライヤーなどが並んでいる。
が、目的はそこではない。私の目的は脱衣所の洗面台とセットであるといってもいいその壁にある大きな鏡だ。
その鏡の前で私はフーッと息を吐くと、一切合切身体を隠すことなく仁王立ちした。
うん、すんごくアホらしいことをしている自覚はある。でもこれでも多少の対策にはなるはずだ。
じーっと鏡に映った自身の裸体を見つめる。
中々に恥ずかしい。時折、なにやってんだ…私…、と悲しい気持ちになるがそんな雑念を振り払って見つめ続ける。
「そう簡潔に言うとこれは耐性をつけているのだ」
あまりにも恥ずかしいので独り言で誰に聞かせるわけでもなく今の自分の行動を解説する。
そう私と紗凪ちゃん。細かいところはもちろん違うが若い女性というカテゴリでは一致している。ならばその体つきも似ているはず(胸の大きさや身長は多少違うけど)なので、私の裸体をジッと見つめることで眼に紗凪ちゃんの裸体に対する耐性が大なり小なりつくのではないかというとんでも理論だ。
そして、その理論の証明はこれから自分の身体で行うわけだ。
「う~ん、自分の裸見ても当たり前だけど何も感じないな」
そう当然の感想を漏らす。
でも、我慢ここは我慢だ。この意味のない行為にも意味があるはず。
きっと…恐らく…。
「ふー、そろそろかな」
大体体感時間で四分ほどが経った気がする。
自分の裸体を凝視するという人生で初めての経験だったが、特に何の感慨もなかった。あえて言うなら少々頭がアホになった気がしないでもない。
でも、これで多少は衝撃は軽減されるはずだ。
脱衣所では不測の事態に見舞われたが、今度こそはなんのアクシデントもなくこのお風呂タイムを乗り切れるはず。そう私はできる女!
覚悟を新たにお風呂場に体を向ける。
「よし!」
そんな声と共にお風呂のドアをガラッと開けた。
さあ、決戦(二回目)だ!!




