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Episode-EXTRA13 『ルーム22・真面目過ぎる十六歳の場合』


「――よし、今日はこんなところかな」


 決まった分の決まった課題を終えて、ペンを置く。

 ここに来てから新しく定まった日課の勉強。正確には未来に学ぶであろう知識の予習を終えて椅子から立ち上げると、私はそのまま自室を後にした。


 自室のドアを開けると、美味しそうな夕食の香りが漂ってくる。

 その香りを造り出している人は、一人キッチンに立っていた。片手にお酒の入ったグラスを持ちながらもう一方の手に持ったお玉で鍋をかき交ぜている。


「あ、凛ちゃん。お勉強終わった?」


 彼女は私が部屋から出てきたことに気付くと、ニコリと笑ってそう言葉をかけてくる。


「はい、滞りなく」


「ご飯はもうちょっとかかるからいつも通りテーブルで待っててね」


「了解しました。いつもお料理ありがとうございます、坂巻さん」


「いえいえ、どういたしまして」


 ふと言いたくなってそんな感謝の言葉を告げると、私はそのまま席へと着いた。

 綺麗に拭かれたテーブル。いつも感じていることだが、毎回私が座るよりも前に準備が全て完璧に整っている。

 いくら私のような小娘とは年が離れているとは言えども、その完全無欠さには毎回感心してしまう。果たして未来の私はこんな立派な大人の女性になれるのだろうか?


「坂巻さんは、高校の先生をやられているんですよね?」


「うん、日本史を教えてるよ」


「へぇー。ちなみに学生時代はどんな方だったんですか?」


「う~ん、学生時代かぁ~。そうだなぁ、簡単に言うと勉強オタク…かな?」


 何気なく聞いたその質問。

 しかし、返ってきた答えに思わず私は「え?」と驚きの声を上げてしまった。


「意外だった?」


「失礼かもしれませんが、少し意外でした。もっと華やかな感じかと」


「ふふっ、凛ちゃん正直だね。でも嘘でもなんでもないよ」


「つまりそれは私と同じような学生ということなのですか?」


 驚きながら、再びそう問いかける。


「ま、そうなるね。…というか嫌がられるかもと思って言わなかったんだけど、内心では『凛ちゃんってまんま学生時代の私だ』とか思っていたんだよね」


「嫌がるなんてそんな、光栄ですよ」


 なにを嫌がることがあるのかわからない。

 だって、坂巻さんはこんな素敵な大人の女性なのに。


 私の言葉に「ありがと」とお淑やかに笑うと、今度は鍋から手を放し冷蔵庫の前まで移動する坂巻さん。

 そして何かを探す様に冷蔵庫の中を見ながら、


「今度は私が聞いてもいい?」


 彼女は後ろ向きにそんなことを口にした。

 勿論断る理由などあるはずもない。


「凛ちゃんって、学校に親しい友達とかいる?」


「? いえ。たまに話す方はいますが、親しいと言えるほどの方はいないですね」


「…そう。放課後はなにをやってるの?」


「? 部活動に入っているわけではないので、家にそのまま帰って勉強したり有意義な時間にあてていますね」


「……そういえばこの空間での勉強は高校で習う範囲の勉強はしていないって言ってたよね。それは何で?」


「? ここでの記憶は現実に持ち越せる、つまり知識も一年分蓄えられます。ですが、それは現実世界の同じ年齢の方々に対して不公平が過ぎます。私はそれが個人的には許容できないんです。なのでここでの勉学は受験に使わない知識の取得に限定しているというだけですよ」


「――そう。ホントに律儀というか真面目ね、凛ちゃんは」


 それで質問は終わりなのか、坂巻さんは苦笑すると再び調理に戻っていった。

 

 それにしてもいきなりどうしたのだろうか?

 やはり教育者としての職業柄そういうことが気になるのだろうか?


 なんとなく、そんなことを思っていると、


「よし、そろそろ完成。じゃあ、凛ちゃん。いつも通り食器出しよろしく」


「はい、了解しました」


 そこで夕食の準備が整ったようで、その声に従うように私はいつも通り配膳の手伝いに向かうため椅子から立ち上がったのだった。


***―――――


「ごちそうさまでした」


「はいっ…、お粗末様でした」


 そして、今日もいつも通りの美味しい夕食が終わった。

 終わったのだが、


「あの、坂巻さん」


 そんな夕食で今日はいつもと違うことが一点だけあった。

 夕食を食べている間、心なしか坂巻さんの表情が優れなかったのだ。

 どうしてもそれが気になり、


「何かあったのですか?」


 思わずそう尋ねていた。

 

 年齢も違うし、住んでいる場所も違う。

 こんなよくわからない出来事に巻き込まれなければ、きっと一生接点など生まれることなく赤の他人だったのだろう。しかし、私達はここで偶然にも出会いもう一月近く共同生活を送っている。

 もう赤の他人などでは断じてない。それどころか、彼女はすでに私の人生の中でかなりの重要な人物になりつつあるほどだ。


 そんな人が悩んでいる、もしくは困っている。

 そう考えると、それは自然に口から出た言葉だった。


「うーんとね…」


 そんな私の指摘に坂巻さんは最初は言いにくそうにしていたが、何かを決心する様に「うん」と頷くと、


「凛ちゃん」

 

 真剣な目で私をまっすぐに見つめてきた。

 言い忘れたが、坂巻さんは相当に美しい女性だ。そんな彼女にテーブル越しとはいえ近距離で真っ直ぐに見つめられると柄にもなく少し恥ずかしく感じる。――が、今はそんなことを言っている場合ではない。

 「はい」と頷き、私は真っ直ぐにその瞳を見つめ返した。


「あなたを思って、ハッキリと言うわ」


「…はい」


「――あなたちょっと真面目過ぎる!」


「……はい?」


「このままじゃ、私みたいになっちゃうわよ!!」


「…………はい?」


 別に構いません、というか大歓迎なのですが?

 この人は真面目な顔で急に何を言っているのだろうか?

 

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