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Episode-107 『サウナの中で・超清純派女優の場合』


 はてさて、これはどうしたもんですかね~?


 二ノ前先生の手を引き、何とか二人に気付かれない様にサウナへと退避できた。

 しかし、当然ながらこの後には一難去ってまた一難的な展開が待ってた。


「いや~、急にサウナに入りたくなりましてね~」


 メチャクチャかわい子ぶってそう言ったが、返ってきたのは「あ?」というシンプルでありながら端的に不機嫌を伝える平仮名一文字。

 うーん、おっかないですねぇ…。


 が、こちらとしても一度出した拳を引っ込めるわけにはいかない。

 かといってこれ以上変な言い訳をすれば、二ノ前先生がこちらの制止を振り切りここから出ていってしまうパターンも十分に考えられる。それではもちろん意味がない。


「えっと、ですね。ちょっとあの二人だけにしてあげません?」


「…なんでだ?」


 背に腹は代えられない。全部が全部思い通りに行くなんて都合のいいことはないだろうしね。

 というわけで、私はここで正直に話すことにした。

 今日の本来の目的についてを。

 

 そして私は、この二日目で二ノ前先生と鬼村ちゃんの距離をグッと縮める私たちの個別攻略作戦の計画を掻い摘んで説明したのだった。


***―――――


「――なるほどな」


 話を聞き終え、二ノ前先生が口を開く。

 時間にして、一分程度の簡素な説明だったがどうやら納得のいくものだったらしい。


「今さらながらだが、どーりでメインルームにお前しかいなかったわけだ」


「ホントに今さらですね…。ちなみに紗凪ちゃんと鬼村ちゃんはあのとき運動場にいました。そして今はその汗を流しにやってきたってところでしょう」


「ま、そうだな」


 が、説明に納得はしても個別攻略作戦に納得してくれるかどうかはわからない。そこは賭けだ。

 二ノ前先生って何か性格的に「余計なお世話だ」的なこと言いかねないしなぁ~。

 

「まぁ、話はわかったよ。だが、ここであいつらが風呂あがるまで待つつもりか? 自慢じゃないが私は体力ないんだ、そんな長時間サウナの中にいたら普通に死ぬぞ」


 しかし、意外や意外。二ノ前先生はそこを追及してきたりはしなかった。してきたのは現状の心配だけ。

 少し、というかかなり予想外ではあるが嬉しい誤算だ。

 そして二ノ前先生の心配も問題なし。いくら緊急事態とは言えども、何の勝算もなくサウナに籠るなんてことはいくら私でも実行しないのだ。


「そこは神様に頼みましょ♪」


 というわけで、困ったときの神頼み。


 百合神様はああ見えて心配性なのか自分の監視の無いところには非常事態用緊急ボタンを結構設置している。

 脱衣場に一つ、お風呂場に一つ。この近距離間に二つも設置してあるのだ。ならばお風呂場の中とはいえ、壁で区切られたこの場所にもあるのではないかと私は予想した。

 そして、その予想は見事に的中していたという訳だ。


「あれを押すんですよ」


 指差したのは、ちょーど私と二ノ前先生が座っている場所の後ろの壁。

 そこには、今の私には差しのべられた救いの手の様に燦然と輝いて見える非常事態用緊急ボタンが設置されていた。


「…あー、これな。私らのとこの風呂にもそういやあったな」


 それを見て二ノ前先生も私の言いたいことを理解したようだ。

 流石にこの人でもこのボタンの存在は今まで暮らしていた空間で認識していたらしい。

 

「これを押せば百合神様と通話が繋がって、色々と手助けしてくれるんですよ」


「まるで一度経験したみたいな口ぶりだな」


「はい、と言っても私が押したわけじゃありませんけどね。実はここに来た初日に私がお風呂で倒れちゃって、その時に紗凪ちゃんがこのボタンを押して助けてくれたんですよ~。てへへ~」


「…ツッコみどころが多すぎる」 

 

 呆れた様にそう言うと、特に躊躇いもなく二ノ前先生はそのボタンに手を伸ばす。

 そして、そのままポチッとやはり躊躇なくそのボタンを押した。


「おー…」


 その思い切りの良さに改めて彼女の凄さを実感した。

 即断即行の極みみたいな人だな。


 そして、待つこと数秒。


「こちら百合神。何があった?」


 意外と二日ぶりくらいの百合神様の声がサウナ内に届いた。


「あー、百合神か?」


「で、要件は何だ? あまり緊迫した状況には思えんのだが? どうせ『あの関西弁娘が急に開催し始めたお風呂場大喜利大会の審査員をしろ』とか、そのようなくだらん用だろう?」

 

 えっ、なにそれ。ちょっと面白そう。


「…いや、お前は何を言っているんだ? そんな訳ねぇだろ。それに悪いがそこそこ緊急事態だ」


「?」


「とりあえず第一に水分をくれ。このままじゃアホと一緒に干からびちまう」


「―――――」


 が、二ノ前先生はその百合神様の小粋なジョークを一蹴。

 ただ端的に必要なものを告げる。

 そんな唐突な依頼に少し固まる百合神様だったが、「はぁー」と一つため息を吐くと、


「むっ、よく見れば押されたのはサウナ内のボタンか。…まぁよくわからんが、一先ず要望通りサウナ内に冷蔵庫を送っておくぞ」


 と思考を放棄した様にそう言った。

 そして次の瞬間には、


「おっ」

「うわっ」


 私たちの間に小型の冷蔵庫がまるで最初からあったかのように出現したのである。

 …相変わらずのハチャメチャですね。これは何度体感しても慣れない気がする。


「中身は適当に見繕って置いた。それでよいか?」


「さすがです、百合神様」

「なんでもありか、こいつ…」


 そう若干呆れつつも、すぐさま冷蔵庫を開けて取り出したペットボトルの水に口につける二ノ前先生。

 この人はこの人で別ベクトルにハチャメチャだな…。

 

 そんな二ノ前先生は「ぷはぁ~」と美味しそうに水を飲みながら、


「あっ、あとこの中の温度をできる限り下げといてくれよ」


 更に百合神様に別の要望を出した。


「温度調節はサウナ内で可能だ。入口の側に調節ボタンがある、それを利用するといい。――でだ、そちらの発言から察するにどうやらサウナから出るに出れない事情があるようだな」


「…? ホントにあんたはここの様子が全くわからないのか?」


「? 初めにそう言わなかったか? 私がそのお風呂場の様な空間まで見れてしまっては――」


「百合純度が下がる、ですよね」


 百合神様の言葉を先回りして私が言う。

 すると、どこか満足げに「そのとおりだ」と返事が返ってきた。

 

 というか、さっきの私の言葉を信じてなかったのかこの人。

 まったく百合神様はそんな自身のルールを破る様な人ではないと言ったでしょうに。人ではないけど。


「さて、では要望はこの辺で大丈夫か? 音声だけとはいえども、風呂場のお前たちとあまり喋っていても百合純度が落ちるからな」


「おぉ~、それはごもっともです。確かにわずかではありますが、百合純度は落ちる気がします」


「…とりあえずその一般常識みたいな感じで意味不明な造語を自然に会話で使うの止めた方がいいぞ。百合純度なんて言葉は多分世界でお前ら二人しか使ってないからな」


 もぉ~、水を差すことを言うなぁこの人は。

 いいじゃないですか、百合純度。読んで字の如く百合の純度を計る言葉。どうにか世間一般に普及させられないもんかなぁ?


「あっ、それと百合神様。私からも一つお願いがあります」


 そんなことを考えながら、一番大事なことを最後に私は百合神様に伝えた。


「このサウナの扉をこっちの音声を外に通さない様にしてくれません? 音で外に気付かれちゃったら元も子もないんで」


 それは特に何も考えず、ここにいるのを紗凪ちゃんと鬼村ちゃんに気付かれない様にするためのお願い。

 しかし、このときの私は知る由もなかった。


 このささいなお願いが個別攻略作戦を、二人の関係を、新たなステージへと進めることになる大きな要因になることを。


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