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Episode-105 『脱衣と心配(裏)・超清純派女優の場合』


「ふぅー、改めてやけどええ汗かいたなぁ!」


「あー、マジで早く風呂に入りたい!」


 ――!!


 不意のその出来事にビクンと心臓が跳ねる。

 脱衣場から聞こえてきたその二つの声。紛れもなくそれは紗凪ちゃんと鬼村ちゃんのものだった。

 ええっ!? どういうこと!? 何故二人がお風呂に!!?

 本当に全く予想だにしていなかった展開に、すぐさま心を驚きと焦りが支配する。

 

「…ふぅー」


 が、焦っても何にもならない。メンタルを落ち着ける様にゆっくりと息を吐く。

 ――いや、待て。

 するとすぐさま思い当たった。というか冷静に考えればこの展開は予想できたはずだ。


 紗凪ちゃんと鬼村ちゃんは二ノ前先生が起きてきたずっと前から、運動場でのスポーツで健康的な汗を流していたのだ。そんな二人が運動終わりにお風呂に来ることは何ら不思議ではない。ちょっと終わるのが私の予想よりも早かっただけで誤差の範囲だろう。

 つまりこれは私の失態だ。


「どっ、どうしましょ…二ノ前先生…!?」


「? なにがだ?」


 とりあえず、横の二ノ前先生に小声でそう尋ねる。

 しかし、二ノ前先生の方はまったく動じている様子はなく、それどころか首の上の方までしっかりと湯船に浸かり気持ち良さそうに『のほほ~ん』としている。

 いや、なんでそんなに落ち着いてられるのこの人!?


「なにがって、二人が来ちゃったじゃないですか…!? なら私たちはどうすれば――」


「いや、どうすればもこうすればも何もする必要ねぇだろ。ここは風呂だぞ、それも大浴場だ。別に新しく二人入って来ても何一つ問題なんてないだろ?」


「――……たしかに」


 私を「何言ってんだこいつ…?」みたいな表情で見ながらのその二ノ前先生のクールな正論オブ正論に一瞬でこっちも落ち着きを取り戻した。

 まぁ、たしかにそうだ。この百人ぐらい一度に入れるんじゃないかってレベルの大浴場。その中の人数が二人から四人になっても何ら変わりない。トイレじゃないんだから、誰かが来ても急いで出る必要はないのだ。


 つまり二ノ前先生の言うことは、何一つ間違ってはいない。

 間違ってはいない…のだが、口では「たしかに」と言いつつも心の中ではもやっとした感情が未だに渦巻いていた。

 これは、なんだろうか…?


 勿論、二ノ前先生と鬼村ちゃんに内緒の私と紗凪ちゃんだけが推し進めている個別攻略作戦の件もある。

 勿論、初日以来の紗凪ちゃんとまた一緒にお風呂に入ることに対する緊張もある。

 しかし、それとはまた違う。私の中に引っかかっているこのもやっとした感情は――。


「――あ」


「ん?」


 何となくチラリと横目で見た二ノ前先生の顔。そこで私はピンときてしまった。

 そのもやもやの正体に。


 原因は二ノ前先生であり、二ノ前先生の描く漫画だ。

 本人も言っていたことだが、二ノ前先生は漫画を描くにあたり毎回ジャンルを変えて新作を発表している。そして、さっき次回作に決まったのが百合漫画。

 ならその次の作品は?


 二ノ前先生がやっていないジャンルでメジャーなものと言えば、バトル・スポコンそして――お色気系の漫画だ。

 

「…もしかして二ノ前先生ってお色気系の漫画とか描く予定あります?」


 満を持して本人にそう問いかけてみる。

 すると、


「あー、一応さっき言った最終候補にはあったな。あとはスポーツものとかバトルものとかか」


 やっぱり!

 王道少女漫画を描くような漫画家さんは、そんな真逆と言ってもいいジャンルの漫画を描こうとは普通は思わないだろう。しかし、この人は描こうと思うし実際に描けるのだ。

 なにせ、描いている作品ごとの器用にその作品にある絵柄を描き分け、その画力の質が違い過ぎて複数人説が出るくらいだしね。

 まぁ、それは今はいい。問題はお色気系の漫画を描く可能性があるという点だ。


「ちなみにそのお色気系の漫画の内容とか決めてたりします?」


「? 細かく詰めてはいないが、基本設定は高校を舞台にしてそこにちょいと何か独自の要素を加えた感じだな。その要素もいくつか考えてはいたんだが――」


 やっぱり(二回目)!

 不思議がりながらも丁寧に説明してくれている二ノ前先生には悪いが『高校を舞台』という言葉が出た時点で私の思考回路は別のことに一気に割かれていた。


 高校を舞台にしたお色気漫画。俗に言うセクシー系のラブコメってやつだ。

 常に時代を問わず一定のニーズがあり、私も何冊か単行本を買っている。それを漫画家二ノ前ユキが書けば当然話題にもなるし、売れるはずだ。


 そんなセクシー系のラブコメで一番大切な要素はなにか?

 それは当然、登場する女の子の魅力だろう。

 まぁ、漫画大好きの私から言わせれば主人公が好感のもてる人物であることもぶっちゃけ同じくらい大切なんだけど二つ並べてどっちに比重が置かれるべきかと問われれば前者だろう。


 恐らくいつかの未来に二ノ前先生がそんな漫画を描いた場合には、凄く魅力的なヒロインが登場するはずだ。

 しかし、しかしだ。二ノ前先生も天才で変人とは言えども人の子だ。キャラを考えるときに悩むことだったあるはずだ。アイディアが中々でないこともあるはずだ。

 

 ――そして、そんな時にきっと…いや必ずこう思うことだろう。


「――そうだ! 昔あの場所で会った音木紗凪・・・・って女子高生のモデルにしたキャラを出そうか!」


 そう! 何故なら、紗凪ちゃんは世界で一番可愛い女子高生だから!!

 そして、漫画の題材はセクシー系。その紗凪ちゃんをモデルにしたキャラもラッキースケベ的な目にあってしまう!!


 つまりここで二ノ前先生に紗凪ちゃんの一糸まとわぬ姿を見せてしまった場合、数年後紗凪ちゃんのあられもない姿が二ノ前先生を経由し、紙という媒体となり、世界中に公開されてしまう危険性があると言っても過言ではないのだ!!

 そして、きっとこの仕事には一切手を抜かない漫画家先生のことだ。絶対コミックスで加筆修正とかするはず! 

そうなれば紗凪ちゃんの更に詳細なボディが白日の下に晒されてしまう! コミックスの加筆修正で!!


 ――ならば、紗凪ちゃんの未来の恋人であり生涯の伴侶(となる予定)の私のとるべき選択肢は一つだろう。

 紗凪ちゃんの名誉と清純さを守る為にその裸体を二ノ前先生になど見せるわけにはいかない!

 安心して、紗凪ちゃん! あなたのことは必ず私が守るから!!


「――てな感じで、っておい…!?」


「ちょっと来てください」


「は? 何のつもり――」


 自身の今後描く漫画の考えていた設定について話す二ノ前先生の手首を掴み、強引に湯船から立たせる。幸いにも脱衣場で紗凪ちゃんと鬼村ちゃんは何やら話している様でまだお風呂場の中には来ていない。

 そして、その隙に私は二ノ前先生の手を引いてお風呂場でありながらお風呂場からは見えないあの・・場所・・へと飛び込むような形で入った。

 

「あれ? 二人ともいーひんやん?」


 まさに危機一髪。

 そこへ入った数秒後にお風呂場へと繋がる脱衣場の扉が開き、紗凪ちゃんの声が聞こえてきた。


「ふぅ~、ぎりぎりセ~フ」


 それに安心し、一仕事終えたかの様に息を吐く私だったが、


「――おい、何のつもりだ望城」


 横からかかる若干キレ気味の声に現実に引き戻される。

 う~ん、まぁそりゃいきなり手を引かれてここに来させられたんだから小言の一つでも言いたくなりますよね~。

 まぁ、完全に私が悪いですな。


 そんな二ノ前先生に精いっぱいの笑顔を浮かべると、


「いや~、急にサウナに入りたくなりましてね~」


 大浴場備え付きのサウナの中で私は頬をかいてペロリと舌を出した。

 てへぺろ♪


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